#145―山本隆三×深田萌絵 再エネ推進で、日本の安全保障が危険水域!?

(深田)

自由な言論から学び行動できる人を生み出す政経プラットフォーム、ITビジネスアナリストの深田萌絵がお送りします。今回は常葉大学名誉教授の山本隆三先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。

先生、今回は「安い電気代になれば日本人はお金持ちになれる」という夢のあるテーマでお話をいただきたいと思います。

(山本)

そうなればいいなと思いますが、電気代は家計にとっても大変ですけれど、一番大変なのは産業、特に製造業なのですよ。製造業以外でも、例えばスーパーマーケットなどでも、照明やエアコン、冷蔵庫、冷凍庫でかなりの電気を使っています。

日本の大手スーパーチェーンでは、電気代が1000億円近くになると聞きます。

(深田)

そんなに使うのですか。

(山本)

計算するとそのくらいになるはずです。ビジネスに多額の電気代がかかっているので、電気代が上がると大きな影響を受けます。

2021年に実施された経済構造実態調査による「人件費対エネルギー費用(人件費に対する燃料費と電力費の比率)」のグラフによると、高炉製鉄では電気代の方が人件費を上回りますし、紙の製造では電気代が人件費の約4割です。化学でも2割くらいを占めています。

電気代は3割くらい上がることもあるのですよ。最近もロシアが始めた戦争の影響で化石燃料が急騰し、電気代が値上がりしていますよね。

電気代は3割上がることもありますが、人件費は3〜4%の増加に留まります。電気代の影響が大きい産業もあるので、電気代をなんとか抑えないと家計だけでなく産業も大変です。

(深田)

ほんとうに高炉製鉄は電気代の割合が多いですね。

(山本)

それ以外にも、燃料購入費が人件費の2.4倍かかっていますからね。ほかの産業も電気代の影響は非常に大きいのですが。

(深田)

エレクトロニクス業界なども、電気代がかなりの割合を占めていますね。

(山本)

そういった電気代の影響の大きい中で、OECDの2021年米ドル購買力評価による「主要国平均賃金推移」のグラフを見ると、私たちの給料は上がっていないのですよ。韓国にも追い抜かれました。

(深田)

2015年には抜かれていますね。

(山本)

抜かれたというのは有名な話ですね。30年前は、韓国の賃金は日本の半分ほどだったのに、今では逆転しています。G7の中で日本は賃金が最も安い国になっているのです。

なぜこんなことになったのかというと、バブル崩壊後、私たちは利益を出せなくなったからです。

法人企業統計による「産業別従業員1人当たり付加価値額」のグラフを見ると、1990年以降ほとんど伸びていません。この付加価値額から我々の給料は出るのです。

他の国は伸びているので給料も増えているのですが、日本だけが増えないままです。

もう一つ残念なのが、最近日本で雇用が増えているのは観光、宿泊、飲食、介護、医療福祉の分野です。しかし、これらの業界は自動化が難しいため労働力に依存せざるを得ません。そのため1人あたりの付加価値額がどうしても低いので、このような分野で雇用が増えても、平均年収や賃金はなかなか上がらないのです。

(深田)

なかなか難しいですよね。

(山本)

ええ、難しい問題です。ほんとうは1人あたりの付加価値額の大きい産業が成長し、給料が増えてもらわないと困るのですけれど、日本経済は沈没している状況です

(深田)

製造業の競争力を強化するためには、安い電気代が必須なのかなと思います。

(山本)

そうですよね。少なくとも電気料金が下がれば、競争力はついてきます。

(深田)

電気料金を下げていかないと成長は難しいですが、電気料金を下げる方法はあるのでしょうか。

(山本)

これはなかなか難しいところですが、電気料金というのは国際競争力、つまり他の国と比べて安いか高いかが大きな問題ですよね。

(深田)

たしかに、データセンターを誘致するにはキロワットアワーあたり7セントくらいがいいと聞きます。

(山本)

それはアメリカの産業用電気料金ですね。日本の半分くらいですから、それだと良いですよね。

(深田)

7セントだと、いま何円くらいでしょうか。

(山本)

10円くらいですね。

(深田)

日本の産業用電気料金は、30円くらいでしょうか。

(山本)

それは家庭用の場合で、産業用はもう少し安いです。しかし個別契約なので正確には分からないのですが。

ただ、産業用電気料金が高くなると、企業はこの国でのビジネスをやめようと考え始めるのです。ドイツでは、ロシアが始めた戦争の影響で電気料金やエネルギー価格が上がり、その負担が大きい産業が工場を海外に移転しています。

(深田)

そうですよね。この2年で、ドイツでは脱産業化が進んでいると聞きます。

(山本)

脱産業化したいわけではないのですが、エネルギー価格があまりに高いので、それであれば電気代が安いアメリカに移転した方が良いのではと考える会社がでてきています。

ドイツ政府はそれを防ごうと産業用電気料金を補助金で下げていますが、それにも限度がありますからね。

(深田)

その一方で、アイスランドでは地熱発電がうまくいっていて、AIデータセンターやマイニングのデータセンターが押し寄せているようですが。

(山本)

アイスランドはたしかに地熱を使っていますが、データセンターがとても増えているのはアイルランドですね。

(深田)

アイルランドですか。やはり電気代が安いからでしょうか。

(山本)

アイルランドの電気代を調べたことはないのですが、そんなに安くはなかったと思います。

技能を持った人がいるなどほかの理由ではないでしょうか。

(深田)

データセンターを建設するにも技術者が必要ですものね。

地熱発電の話に戻りますが、アイスランドはうまくいっているようですが、日本はどうなのでしょうか。

(山本)

日本も地熱大国と言われていますが、難しい問題があります。熱源がある場所がたいてい国立公園などの火山地帯で、そこに穴を掘ることは禁止されています。斜めに掘れば良いなどの話もありますが、蒸気が出なくなったら地熱発電も止まるので、投資する側としては20年30年継続できるのかという不安があります。

また、国立公園の近くにある温泉地では、地熱発電で蒸気が使われると温泉が出なくなるかもしれないという不安もありますよね。

なので、日本は地熱のポテンシャルは非常に高いですが、どこでもできるわけではありません。大分や東北など地熱発電所はありますが、火力発電所と比べると規模が小さいです。

(深田)

日本でも地熱発電しているところがあるのですね。コストとしての競争力はどうなのでしょうか。

(山本)

発電所によるのでしょうが、風力や太陽光と違って24時間発電できるため、安定した電力供給が可能です。その点では競争力がありますね。しかし、周りの温泉街との調整が必要ですから、その辺りが難しいのではないでしょうか。

(深田)

そうすると、国内でどうやって電気代を下げていくのか課題が残りますね。

(山本)

最も簡単な方法は、原子力発電所を再稼働することです。電気代は確実に下がりますし、新たな投資も必要ありません。新型炉の導入も有効ですが、いろいろな許可も取らなければいけないので時間がかかります。

(深田)

ターンキーソリューション的なものは難しいでしょうか。

(山本)

難しいでしょうね。

(深田)

政府が真剣に電気代を下げる取り組みをしていかないと、解決しないということですね。

(山本)

それと、世帯の所得も大きな課題です。

厚生労働省の2022年調査による「日本の世帯所得分布」のグラフを見ると、日本の平均世帯所得は545.7万円で、中央値が423万円です。300万円以下の世帯が多く、これが少子化の一因です。

800万や900万の年収がある30代男性の8割が結婚していますが、年収が200万から300万の人は結婚率が非常に低いのです。

(深田)

これでは結婚できないですよね。

(山本)

そうなのですよ。悲しい現実です。

同時期のアメリカの世帯所得分布を見てみると、どの所得階層にもバランスよく人がいて中央値も日本の2倍ですからね。比較すると非常に残念だなと思います。

(深田)

これはやはり日本は電力計画、エネルギー計画を見直していく必要がありますよね。

(山本)

電気代を抑え、産業や家計を助けるための方策を考えなければなりません。

(深田)

本日は、常葉大学名誉教授の山本隆三先生にお話を伺いました。先生、ありがとうございました。

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