#144―大井幸子 × (深田)萌絵 BRICs台頭で世界は脱ドル化へ? どうする私のドル預金!
(深田)
自由な言論から学び行動できる人を生み出す政経プラットフォーム。ITビジネスアナリストの深田がお送りします。
今回は国際金融アナリストの大井幸子さんにお越しいただきました。大井先生よろしくお願いします。
最近ロシアのウクライナ侵攻以降、脱ドル化がこれから進むだろうと言われているのですが、その辺りについてご解説いただけますか。
(大井)
ドルはダメだとか、ドルは崩壊するとか色々と極端な意見まで出てきますが、まずドルは戦後から今まで圧倒的な通貨だった。
これが21世紀になって中国が台頭してくると、少しずつ今の脱ドル化というのか、中国の人民元がもしかしたら世界の通貨になるのではないかとかいろんな憶測が出てきた。その後ロシアがウクライナに侵攻したというので、BRICSが固まってきたりとかいろんな流れがあって、21世紀になってから特に脱ドル化ということが言われています。しかし本当のところはどうか。
こちらの世界地図をご覧ください。世界が今ブロック化に動いている。では通貨はどうなるのか。これは2018年、コロナの前の世界地図ですが、見ていただくと色分けされています。赤いところが中国と貿易して関係を強めた国です。
(深田)
オーストラリアもですか。
(大井)
そうです。中国がものすごい勢いで経済成長する中で世界の工場として成り上がるのですが、その時に世界中の資源を爆買いして、工場を次々と増やし、いろんな安い製品をメイド・イン・チャイナとして大量に作って世界に輸出したわけです。
だからその時の中国との貿易によって関係を特に深めた国には、まさにおっしゃったようにオーストラリアもそうだし、ブラジル、南アフリカ、それからロシア、インドといった国がある。この中東に赤いところがありますがこれはイランです。BRICSを中心に中国がすごい勢いで経済成長し、それに引きずられて他の国もある程度中心国ぐらいまでのし上がったわけです。ブラジルとか南アフリカ、ロシアが中国と関係を強めて人民元の影響力が強い通貨ということで赤く塗られているわけです。
緑のところは米ドルで、ブルーがユーロです。小さいですが、見ていただくとイギリスのところが紫になっており、日本が薄い水色になっている。
(深田)
これはどういうことですか。
(大井)
これは円とそれから英国ポンドは、通貨として今でも独立してちゃんとやっているということです。これが21世紀中国の経済成長と共に世界がこういう風に少しずつ変わっていった、ブロック化が通貨の上で起こったということを示しています。
(深田)
こうやって、BRICS通貨が台頭するだろうとかCIPSの影響で中国通貨圏、人民元圏が広がっていくだろうとか言われている中で、ドル預金を持っているけれどどうしようか、もう今から円高に行きそうだし、それともドルはまだ強いのかな、円が弱くなるのかなとか、どうしようかと思っているのですが、どうなんでしょうか。
(大井)
いやドルはまだまだ強いです。かなり圧倒的に強いと思います。
(深田)
圧倒的に強い。
(大井)ですから、ドルがなくなるという話はないです。ないというのは現実的になかなかそこまでアメリカ経済が崩壊するということはないからです。何がどうなっているのかというと、今見ていただいたように、世界の通貨もブロック化していって、ロシアがウクライナに侵攻したというところから、今度ロシア、中国がお互いに交易を盛んにして、ロシアはSWIFTから外されてドルの決済機関を使えなくなった。そういうことで余計ロシアと中国は関係を強めて、金融の中の関係も強め、それにブラジルとかが乗っかって、今でも貿易を中心に関係が続いているわけです。
でも重要なポイントは、ではBRICS通貨とか、今色々新しい通貨ができるというすごくエキサイティングなニュースがあるのですが、本当にそうなるかどうかというと、なかなか一つの通貨ができてそれがその域内を流通するまでにはかなりいろんなことを整備しなければ難しいです。
例えばロシアと中国と二国間だけで貿易して、中国がロシアから原油を買って、人民元で払ってとか、ルーブルで決済してとか、二国間のやり取りはあるけれども、二国間だけだと貿易が均衡すればいいけれども、どちらかが輸出ばかりしているとそっちが黒字になる、貿易黒字がたまってしまう。その黒字をどうするのかと言ったときに、どこかに行って別のものに変えて運用していかなければいけない。
そうすると今度は貿易で実際に物が移っていくらで払ったという、貿易の世界だけじゃなくてどこかに投資してそれを増やすという資本市場の世界になる。そうなった時に、通貨がどういう役割をするのかと言うと、何か商品を買わないといけない。現金を持っていても、それだけでは増えていかないから、株とか債券とかに投資して利益を得ないといけない。
どこに行くかというとやはりそういう金融市場、資本市場がちゃんとしている国に投資しておかないと危ない。だからもしかしたら中国で、中国の例えばアリババとかいい会社があって買ったと、だけどある日突然習近平がアリババはだめだぞと、共産党で押さえつけて株が暴落しましたなんていうことになった時には困るわけです。
だからそういう意味で資本市場がしっかりしているところでちゃんと増やしていかないと成り立たなくなってしまうということがあります。
(深田)
基本的に投資先としてはその強権的な国家は避けられて、どちらかというと自由市場の方に—
(大井)
自由市場で取引される傾向が強い。なぜかと言うと、カントリーリスクというのがありますが、やはり政情不安だとか独裁者がいるだとかというのは、いつ何があるかわからないリスクがあるわけです。
もう一つ重要なのは、私が学生の時に小室直樹さんという人にいろんなことを教わりました。社会学者でもう亡くなってしまいましたが、小室先生が「通貨はその国の経済の顔である」という名言を言われました。だから国の経済が強ければ、その国にみんな投資して自分の資産も増やしたいと思うし、その国の経済が良ければ通貨も強い。やっぱりこれは米ドルが圧倒的だと思います。
今見ていただいているこのグラフですが、今いろんな資本市場で取引されている通貨、これはドルですけれども、OTCFXとか、いろんな債権ですね、SWIFTとかDEBT SECURITIESとか、一番下の方に中央銀行の外貨準備高でどの通貨が一番占めているかという、これは全部ドルです。2015年、21年、23年と、三つに分かれていて、ドルの占める割合が少しずつ減ってはいるけれども、例えば中央銀行の外貨準備高でも6割ぐらいまだある。外貨準備高は現金でジャラジャラ抱えてるわけではなくて米国債とか証券になっているわけです。
そうすると、もしその外貨準備を使わなければいけないとなった時にすぐ現金化しなければいけない。ということは流動性がなくてはいけないわけです。
これちょっと現金にしておかなきゃいけないというときに、米国債だったら米国債市場に持っていってすぐその場で取引して現金になるけれども、いろんな取引の条件がややこしかったり不透明だったり、誰が何しているのかわからない国だったら透明性がないから困るわけです。従って、いくつかの要件がある国、システム、これがやっぱり米ドルの世界なのです。
(深田)
ということは貿易をする時には、基本的にはまだまだドルを使うという実需がある。そして外貨準備高として各国の中央銀行が使っている、持っているのも6割がドルであるということですね。だから中国の方でCIPSというのがSWIFTの代りに出てきたり、ロシアのウクライナ侵攻でロシアがルーブルで直接取引を始めたということがあっても、まだまだドルの実需は底堅いものがあると。
(大井)
ものすごく強いと思います。例えばサウジアラビアの大金持ちがいっぱい原油を中国に輸出して人民元が溜まったとすると、これで何をするかというと、中国に行ってお城でも買うか、中国の農場でも買うか、中国の株買うか、あまり欲しくないなと、 やっぱりマイクロソフトの株が欲しいとか、テスラに投資してみたいとか、アメリカの株ですね、企業として有力と言えばいいのか、こういうのを買えば将来儲かるかもしれない。
だからみんながそう考えればやっぱりドルに変えてアメリカの株を買いに行くということになり、世界中の投資マネーがアメリカ市場に向かう。だからS&PCシステムズを見ても、一応デコボコはあるものの、ずっと上昇しているし、やはり世界中の資金を引きつけるだけのパワー、稼ぐ力があると思います。
(深田)
やっぱり最近色々中東が台頭してきたとか、ロシアのウクライナ侵攻で BRICS通貨とか—
(大井)
BRICS通貨も魅力的かもしれないけれども、でもあれは結局BRICS通貨というものができても、ではそれでどう運用するのかとかが明確でない。BRICS通過のNew Development Bankとか、そういう銀行もできてはいますが、まだまだ信用力と言うのか、その信用度とかがわからない。
誰かが悪いことをした時の法的根拠、例えばインサイダー取引だとかよくある証券上のあのような逸脱した行為があったら、誰が取り締まるのかとか、司法の整備とか、法的根拠とかそういうのが不透明であれば、安心して取引はできません。騙されて詐欺でお金がどこかに行ってしまったとならないか。
アメリカではSECという証券取引委員会とかいろんなところで専門家がいてちゃんとできるし,司法の取引もできる。
それから会計、決済が瞬時に行われなければいけませんが、ITシステムによって大変複雑な取引を同時にします。それを全部ITシステムの構築も含めて、BRICSでできるのか。中国などがやったら、どうなのでしょうか。中国の数字、経済指数だって本当かと思うのがいっぱいありますから、大丈夫なのかという感じがします。
(深田)
人民元の価格というのは鉛筆なめなめで決めていないかという疑惑がありますからね。
(大井)
だからそういう意味での透明性とか信用度がきちんとして、みんなが参加しても大丈夫だという安心感が広がらないと、なかなか法と規制もかかってこない。ある独裁者が勝手に法律を変えて、俺が儲かるように法律を書き直せ、などということをすれば、他の人は大変なことになってしまう。
(深田)
確かにそうですよね。私も最近ドル預金をどうしようかと思ったりしています。円高に向かっているし、いろんな識者の先生を呼ぶと結構脱ドル化が進んでいると言われたりしますから。円が弱くなるのが先かドルが弱くなるのが先か、どういう風に生きていけばいいのかと考えていたのですが、リスク分散という意味でもうしばらくドル預金はまだ持っていてもいいのかなと。
(大井)
ドル預金にしてドルで何か買えるもの、いい買い物をするというのがいいと思います。というのは、やっぱり預金で、現金で持っていても結局インフレ率が今、インフレ2%とか3%、それだけ毎年目減りしてきます。だからそのインフレ率を超えてちゃんと金利を生んでくれるような、リターンを生んでくれるようなもので運用するというのがいいと思います。
それで脱ドル化は確かに50年、30年とか長い期間で見るとドルの占める割合は、確かに少し減ってはいる。しかし、さっき申し上げたように6割はまだ世界の人たちはドルで外貨準備高を持っていますし、これがいきなり30%になるかと言うと、そこまで行くのに何十年もかかります。私なんかもう生きていないと思います。ある時になったらそうなるかもしれないけれども、ただいつなるのかとかは分からないから、先の分からないこと心配してもしようがないですから、とりあえず今目先の稼げるものを少しずつこう取っていく、リターンを取っていくというのが現実的だと思います。
(深田)
ありがとうございます。
ということで、今回は国際金融アナリストの大井幸子さんに脱ドル化と言われている中で私のドル預金をどうしたらよろしいでしょうかという風にご相談してみました。先生、どうもありがとうござい ました。