#132-山本隆三 × 深田萌絵 電力安保危機! 太陽光パネル増で停電へ!?

(深田)

自由な言論から学び、行動できる人を生み出す政経プラットフォーム、ITビジネスアナリストの深田萌絵がお送りします。今回は、常葉(とこは)大学名誉教授の山本隆三先生にお越しいただきました。

先生のご著書「間違いだらけの電力問題」「間違いだらけのエネルギー問題」(両著ともウェッジブックス刊)を拝読させていただいて本当に驚いたのは、太陽光パネルが増えすぎると、実はそれが停電の原因になるという事です。

(山本)

そうですね、これにはもう一つ背景があって、日本の電力市場自由化と、太陽光パネルの増加が同時に起こってしまった。これらが停電の原因になりかねないということです。

(深田)

なるほど、そこらあたりのメカニズムを分かりやすくご説明いただけますでしょうか。

(山本)

はい。まず、電気というのはスイッチをひねればすぐに点くので、いつも来ているように思えますが、実はスイッチをひねった時にどこかで必ずその需要分を発電しないといけないのです。

(深田)

確かにそうですね。

(山本)

これを「同時同量」といいます。普通の商品なら在庫がありますが、電気の場合は蓄電池などで「在庫」を蓄えるとコストがすごく高くなります。物理的には可能でも、蓄電をやると電気代が上がるのです。電気代を上げないようにしようとすれば、どこかで需要分を発電しなければなりません。つまり発電量は需要に合わせて変わるわけです。

具体的に昨年の例で見てみましょう。電力広域的運営推進機関(OCCTO)が公表しているデータを元に日本全国の2023年「月間最大需要電力」をグラフにまとめてみると、やはり7月や8月に最大の電力需要があり、ピーク時には1億6000万kWの電力が(瞬間的に)必要でした。1時間の積算電力をあらわす「キロワット時」ではないので区別してくださいね。でも瞬間的にせよ、1億6000万kWの電力を送れる発電設備が必要だったわけです。冬季も夏ほどではないにせよ、暖房などの需要で1億4000万kWくらい必要でした。では、それだけの発電設備が(安定的に)あるのか、という事がいま日本では問題になっているのです。そこに、太陽光パネルが関係しているのです。

(深田)

太陽光パネルは今どんどん設置が増えていますが、発電容量が全体として増えて助かっているのではないのですか。

(山本)

そう思いがちですが、よく考えると太陽光が使えるのは昼間だけですよね。

(深田)

そうですね、たしか11時から14時くらいまでが一番効率がいいと。

(山本)

そうです。朝、日の出とともに段々増えて午後2~3時頃ピークになり、以後は段々減っていきますね。太陽光パネルが多くなると停電の可能性が高くなるのは「太陽光発電がゼロになってしまう」夕方の時間帯で、ここに問題があるのです。

東京電力のホームページにある「でんき予報」には、火力・水力・原子力・再生可能エネルギーなどあらゆる発電設備ごとの、かなり詳細な電力需給実績の数値データがCSVファイルで公開されています。(下記参考リンク・ただし前月以前のものは修正後の公称確定値)

https://www.tepco.co.jp/forecast/html/area_jukyu-j.html

今回はその中から、電力危機といわれた今年9月11日のケースを電力総需要・総供給量・太陽光発電量の3つに着目して見てみましょう。太陽光発電が夕方になって減ってきた時、電力総供給量もガタンと減りましたが、需要はさほど減らず、需給がほぼ同じになってしまいました。この状態が問題の「停電危機」なのです。供給量がかろうじて需要を上回っている時、どこかの発電所や送電線でもしも事故やトラブルが起きたら、停電が発生してしまいます。

(深田)

なるほど、それが停電のメカニズムなのですね。

(山本)

そうです。太陽光発電量が減っている時に供給量が逼迫しやすいのです。

(深田)

ひとつの送電網グリッドのエリアに太陽光と他の安定電力、両方がある状態でも、需給がマッチしなかった場合はエリアまるごと停電になってしまうのですか。

(山本)

はい、基本的にはそうなる可能性があります。ですから供給が逼迫すると、どこかを「停電させて」しまうのです。

(深田)

なるほど、(エリアごと停電する)先に(一部を)停電させてしまう。

(山本)

そういう事なのですけれど、実際はなかなか難しいです。東日本大震災の後に計画停電が実施された事、覚えておられますか。

(深田)

はい、ありましたね。

(山本)

あの時は大変でした。まず信号が消えてしまって交通事故の危険があった。それから東名高速の道路照明もすべて消えてしまい、まるで山道を走っているような恐怖でした。

(深田)

真っ暗になってしまったわけですね。

(山本)

はい、だから計画停電に踏み切るのはかなりリスクが大きい。それなら先述9月11日の危機に東電はどうしたかと言うと、中部電力などから送電してもらって凌いだのです。

(深田)

中部電力から電気を借りる時は、富士川より西側ですか。

(山本)

そうです。ですから「周波数変換所」というものが清水などにあります。

(深田)

ご存知ない方のために補足しますと、西日本と東日本では電源周波数が違います。東日本が50Hz、西日本は60Hzなので、東西で電力をやり取りするには周波数を変換しなければなりません。

(山本)

そうですね。今、110万kWくらいは変換所を通して東西で電気が送れます。もし東北電力や北海道電力で電気が余っていれば(同じ東日本エリアなので)周波数変換の必要はなかったのですが、9月11日のケースではむしろ西日本側に余力があったので中部電力や関西電力から貰っていました。でも実は関西電力でも今年は電気が足らない時があって、四国電力や中部電力から貰っていました。ただ東京電力も貰うばかりでなく、東北電力が足らない時には東京電力から送ったりもしています。このように電力は、お互いに助け合いながら停電危機を避けるようになっているのですが、かなりギリギリの状態です。

(深田)

余剰電力が数%しかない、みたいな事が最近多いですよね。

(山本)

そうです。この9月11日の時も余剰電力が3%を下回っていました。

(深田)

余剰電力が3%に満たないというのは、危ないですね。

(山本)

はい。ですから余剰電力が3%を切るような状況になったら、周りの電力会社から電力を貰って余剰電力を増やしておくのです。

(深田)

今のお話ですと、電力は西側が余り気味、東側が不足気味ということですか。

(山本)

そういう場合が多いのですが、今年は関西電力が足りないこともありましたし、なかなか一概には言えません。ただ東京電力は太陽光発電への依存度が他より大きい分、やはり影響も大きく受け、停電危機が発生してしまうのです。日本全体では、太陽光発電だけで7000万kW以上の供給があります。

(深田)

7000万kWもあるのですね。

(山本)

はい。日本全国同時に7000万kWフルに発電している訳ではありませんが、それでも夏場の日中は、相当量を太陽光で供給している事が多いのです。さて、この太陽光発電は2012年の固定価格買取制度(Feed-in-Tariff、略称FIT)で始まりましたが、かりに投資として太陽光パネルを設置するとしたら、深田さんならどういう場所を選びますか。

(深田)

太陽光パネルを設置するなら、日照時間の長い南の……

(山本)

そうですよね、まずは日照時間が長い場所を選びますよね。ただ南とは限りません、東北でも北海道でも日照時間の長い場所を選びます。そしてもう一つ、大事なことがありませんか、投資する時に。

(深田)

地盤がしっかりしている所でしょうか。

(山本)

土地代が安いところです。

(深田)

ああなるほど、では田舎の……

(山本)

そうです。だから最初は日照時間が長くて土地代が安いところ、南九州で太陽光パネルの設置が始まりました。

(深田)

確かに、最初は九州が多かったですね。

(山本)

ところが九州はもう適切な場所が少なくなってしまったので全国に広がっていき、今は関東に多いのです。経産省資源エネルギー庁が「再生可能エネルギー発電事業計画の認定情報」と言うのを出しています。ここの2024年3月末時点の都道府県別データを、導入電力規模が大きい順に並べてみると、1位が茨城県の約400万kW、次いで福島・千葉・栃木など関東近県が並び、それから三重・兵庫の後に群馬県も入ってわりと都市部の近く、特に東京電力管内が多くなっています。そうなると、太陽光の発電量がゼロになる夕方以降を補う発電設備が足りないと危ない、という事になるわけです。

(深田)

太陽光を補うバックアップ電力、ですか。

(山本)

そう呼ばれる設備ですね。

(深田)

でもバックアップ電力と言いながら(総電力の約8割を占めていて)実は主力ですよね(笑)。

(山本)

本当はそうなのですけれど(笑)、いずれにしても日が沈んだら使えない太陽光発電のバックアップとしての発電設備が必要不可欠なのです。しかしもう一つの問題は、その「バックアップ電源が減ってきている」現状です。電力広域的運営推進機関(OCCTO)が出したデータを元に、10年前(2014年)と今年の発電設備容量、つまり火力・水力など各発電方式の割合がどう変わったか比べてみますと、太陽光が無茶苦茶増えた反面、石油火力が目茶目茶減っています。これは何故かというのを説明しましょう。

2016年に電力市場自由化というのをやりました。市場を自由化したら、投資をしても収益がどれくらい、いつ出るのか分からなくなってしまいました。以前は総括原価方式で、あまり使われない石油火力設備でも維持しておけば電気料金で回収できたのですが、市場を自由化したために、使われない設備を維持していると今度は赤字になるので、みんなどんどん休廃止を進めてこうなってしまったのです。発電情報公開システム(HJKS)の各年データを並べてみると、10年前には火力発電所(35000メガワット相当)の9割近くが稼動していたのに、2023年には火力発電所の規模自体が15000メガワットに減り、稼動しているのはさらにその2割足らずになってしまいました。

でも実は、急に一時的な電力需要が増えた時、石油火力はすごく便利だったのです。石油(主に重油)はどこでも備蓄できますし、火力の性質として出力を立ち上げるのがすごく早いのです。急な供給要請が来ても石油火力ならあっという間に対応できたのです。ところが天然ガスや石炭では需要に出力が追いつく「負荷追従」に時間がかかってしまうので、猛暑日など皆が急にエアコンを使い始めた時などに、電力供給が間に合わない可能性があるのです。このように石油火力は便利なのでみんな維持していたのですが……儲からない。儲からない設備は持てない、ということで現在のようになってしまったわけです。

(深田)

これが今の電力危機を引き起こすかもしれない原因なのですね。

(山本)

はい、太陽光が無くなった時に不足電力を供給する発電設備がちょっと減ってきているということなのですね。

まだ夏場はいいのですけれど、冬の電力需給にも問題があるのです。去年の冬、2月3日の九州電力の実績を見てみましょう。東京電力の場合と同様に、九電「でんき予報」のCSVデータから電力需要と供給量、太陽光発電量の3つに着目してみると、どうなっているでしょうか。

(深田)

昼はまだ日が照っているけれど、冬場は夜が寒いから、そこに需要ピークがきてしまう。

(山本)

日暮れに太陽光発電量はあっという間に減りますでしょう、でも冬場の電力需要のピークはその、日光が乏しい朝と夕方にあるのですよね。

(深田)

そうですよね、確かに。

(山本)

夏に皆さんがエアコンを使う時間は午後2~3時が多いので、太陽光発電量のピークとある程度一致しているのですけれど、冬は全然一致していない。もう太陽光がない後にピークが来るのです。

(深田)

逆になっていますよね、確かに。

(山本)

そうすると、やはり停電危機が起こるわけです。東京電力管内でも冬に「節電してください」という呼びかけが昨年、一昨年に結構行われていましたけれど、その理由はこれなのです。

(深田)

なるほど……となると、この電力危機を回避するためのソリューションとして、私達は何を考えればいいのでしょうか。

(山本)

難しいのですよね……だから政府は「発電設備を維持していれば、お金を上げます」という「容量市場」という仕組みをいま導入しています。

(深田)

火力の発電機を維持すればお金を上げます、という事は言っているのですね。

(山本)

これは、電力自由化を主要国で一番最初に始めたイギリスが導入した制度なのですね。日本もそれを真似て導入し、今年の4月から容量市場の費用を「電気料金で払う」という事が始まっているのですね。ただ契約制電力会社によっては、その費用を払う所と払わない所があります。ここを詳しく説明すると3時間ぐらいかかるので(笑)省略しますが、電力会社によっては、今年4月から「容量市場の負担金」が電気料金に乗せられて上がっているところがあるのです。

(深田)

あ、そうだ!そうですよね、今年の4月から電気代の負担がまた増えているのですよね、設備の負担金が。ああ思い出しました。

(山本)

ただ「設備の負担金」ではなく「容量市場の負担金」と言い換えています。

(深田)

そうですよね、「設備の負担金」とは言わないのですよね、うまいこと言います。「容量市場って何のことだろう?」と思いながら、私達がお金を払わされているという。

(山本)

そうやって設備を維持するようにしているのですけれども、容量市場といえど、設備所有者が実際にもらえる金額は毎年変わるのです。という事は「今年はいいけど、来年は分からない」みたいな話で、はたして容量市場の負担金だけで、設備をそんなに長期間維持できるのか、というのがまた問題なのです。

(深田)

これはそもそものスタート地点、本来なら助け合わなければならない電力会社同士を、電力自由化で競争させてしまったのが、そもそも最初のミスだったのではありませんか。

(山本)

うーん……電力市場自由化で「電気料金が下がります」とか「安定化します」とか言われたのですが現実問題としてはなかなか難しく、実現したのは消費者の選択肢が増えた、電力会社を選ぶ事は出来るようになった事でしょうか。でも結局、それだけだったのではないかと(苦笑)。

(深田)

そうですよね。選べるけれど、どこも電気料金が上がっていくという事態を招き、果ては太陽光パネルが増えることによって、停電危機が起こるかも知れないリスクも高まってしまったと。

(山本)

そういうことなのですね。

(深田)

という事で、今日は常葉大学名誉教授・山本隆三先生に、太陽光パネルが増えれば増えるほど、実は停電になるかも知れない、というリスクについて教えていただきました。山本先生、ありがとうございました。

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