#126―室伏謙一 × 深田萌絵「政府起業家研修でシリコンバレー訪問は日本の恥」
(深田)
自由な言論から学び、行動できる人を生み出す政経プラットフォーム。ITビジネスアナリストの深田萌絵がお送りします。今回は政策コンサルタントの室伏謙一先生にお越しいただきました。先生よろしくお願いします。
(室伏)
よろしくお願いします。
(深田)
こちらの本『企業家としての国家』、『国家の逆襲』、すごく面白かったです。
(室伏)
はい、ありがとうございます。
(深田)
この本の中にある「アメリカのベンチャー神話の嘘」ですね。「GAFAはみんな自分の努力とアイデア1つで大きくなったのだ」と言う。日本のビジネスコンテストに行くと、みんなこれを信じているのです。私も起業した当初はビジネスコンテストに出たのですけれど、みんなはアイデアさえあればお金は集まるのに、日本はベンチャーファンドが成熟していないから全然お金が流れてこない。だからシリコンバレーに行こうみたいになっている。
(室伏)
未だにそういう話がありますね。
(深田)
まだ信じている人がいるのです。
(室伏)
多分、今の若い人、大学生とか場合によっては高校生もそれを鵜呑みにしている人が多く、それをまた20代、30代とか40代で煽る者がいるのです。
(深田)
私の出身校なのですが、早稲田大学にアホの教授がいて「イノベーションが企業を生み出した」と言うのですが「起業したことないだろう」と思います。
(室伏)
経営学者には「経営したことがないだろう」というのがいますからね。
(深田)
そうなのです。「ちょっとしたアイデアでこんなに大きい会社になりました」と言っているけれど、その後ろには色々な事情がある。シリコバレーで仕事をしたら分かるはずなのにということが結構多いと思うのです。やはりベンチャーが成長する最初の技術は基本的にアメリカ政府から出ているとことですね。
(室伏)
そうです。僕はよく例に出すのですけれど、AppleのiPhoneがありますね。これは古いものですけれど、この中に使われているコア技術は全てアメリカ政府とか米軍、国防総省ですね。そこの資金だけではなく、手取り足取りの研究開発、商用化、実用化までの支援がなかったらできていません。
(深田)
そうですよね。シリコンバレーは今、ソフトウェアとかプラットフォーマーがたくさん集まっているというイメージなのですけれど、元々は半導体の町ではないですか。なぜそうなったのかと言うと、あそこに軍事技術の開発にシリコンが必要だったから、大量の資金が集まっただけなのですよね。
(室伏)
ICチップに関しても、とにかくきちんと高性能のものを作らなければいけないので、アメリカ政府、就中、国防総省が全米の大学の工学部をピックアップして、研究する人に資金をバンバン撒いて、その企業と連携させたりしている。しかし、研究開発をしたとしても、高くなるわけですよね。それでどうするのかというと、政府が公共調達で買い上げて、それをまたさらに作りやすくするという形を繰り返しながら1体あたりのコストを安くしていった。
なぜそういうことまでして、一所懸命になったかというと、軍事に使うICチップも日本製がどんどん強くなってきたわけです。そうするとこれは危ない、将来的に米軍は日本製のICチップに依存しないと立ち行かなくなると言ってさらに力を入れてやり始めた。
だから明確な国家目標とか戦略目標がある。一言で言えば国家目標のためにそれをやってきたということであって、天才的な発明家が家のガレージで思いついて「こんな大企業に成長しました」というのは、完全な嘘です。
(深田)
嘘ですよね。シリコンバレーで仕事をしたら、こういう嘘は普通に分かるはずなのですけれど、やはり大学の先生とか起業家たちが信じて、布教してしまっている。
(室伏)
しかも、さっきなぜ僕が高校生の話をしたかと言うと、高校生とか大学の若い子に「シリコンバレーに行って、ベンチャー精神を学ぼう」とか「スタートアップを学ぼう」と言っても、何も知らないし、わかっていないから、そこに行って「Googleだ、何とかだ」と言って、写真を撮って帰ってくるわけでしょう。
(深田)
本当に恥ずかしいです。アメリカで仕事をしていて、以前はインテルなどにも行っていたのですけれど、なぜ日本人はバスを借りて、ツアーで色々な会社を見て、写真を撮って、何の商談もせずに帰っていくのか。はっきり言って、迷惑がられています。
(室伏)
だからお金を取っているでしょう。
(深田)
お金取っているのですか。それ、だって迷惑ですよ。
(室伏)
まあ、そうですよね。
(深田)
普通に考えると、トヨタとか日産に海外から高校生とか社会人が来て「わあすごい」とパシャパシャ写真を撮って帰っていく。高校生ならまだしも起業家がそれをやるわけですから「アホか、と言うねん」
(室伏)
そうですよ。シリコンバレーに行くと、自分がベンチャー起業家になった気分になるとか、発明した気分になるのではないのですか。
(深田)
そうですよ。だから私も経産省の起業家育成プログラムに指導者として参加していたのですけれど、嘘ばかり教えるのです。
(室伏)
経産省のその手の資料で、参考集の資料を見ても嘘八百を書いてありますからね。
(深田)
嘘ばかり書いてあるのです。
(室伏)
しかもデータをわざと違う解釈でレッテルを貼ったりするからひどいですよ。
(深田)
本当にひどいです。私もシリコンバレーで仕事をしているので、経産省が起業家を集めて、シリコンバレーを表敬訪問するのは「やめてくれ」と思うぐらいひどいです。そもそも、シリコンバレーにはアイデアで成功した人はいないです。人間関係とコネだけです。
(室伏)
シリコンバレーはかなりインナーサークルではないですか。外から起業家が「一旗あげよう」と行ったとしても入れないです。
(深田)
入れないです。コネが中心で、だから血縁的には何系の人が成功者に多いとか、出てくるわけです。
(室伏)
そうそう、結局大学もアイビー・リーグの特定のところの卒業生でないとそのインナーサークルに入れてくれない。
(深田)
うん、ありますよね。
(室伏)
日本では、向こうは何か自由でどうこうと言うのですけれど、アメリカほどインナーサークルとか格差がすごい所はないと思います。「いや、そうは言ってもインドから優秀な人が集まって、その人達がやっているじゃないか」と言うのですけれど、それは元々優秀で、エンジニアが欲しいから高い給料を払って呼んできているだけなのです。インナーサークルの総体がある中でそこに必要なものを外部資源で調達してくるだけなのです。
(深田)
それでそのインド人のエンジニアが何をしているかというと「これを作って」とソフトウェアのオーダーなどが出ると、その仕様を書いて、インドにいる自分の友達など何十人に「これ書いといて」と言って、めちゃくちゃ低価格で外注しているのですよ。社員が自分の給料から100ドル払うから「これ作ってよ」と言って、ソフトウェアを書かせているのです。それで彼らは100万ドルもらったりしているのですけれど、日本人はそういう現実が全然分かっていない。
(室伏)
しかも挙句の果てに、そうやってインド人とか世界から優秀な人からイノベーションが起きていると思っているのです。「多様性がイノベーションを生むのだ」と言う。
(深田)
多様性はないです。今のシリコンバレーはインド人と中国人ばかりです。
(室伏)
そう、そういう人たちが来るから、その結果、イノベーションがあると勘違いしているのです。そもそも、イノベーションのベースは誰が作っているかと言うとアメリカ政府、就中、国防総省などですね。ここがお金を出して、そのための組織が研究開発から商用化までずっと最後まで面倒を見ています。それを使ってさらに何かを作ると言う時に、スピンアウトしてスタートアップをする。スタートアップはこんなに芽が小さいのだけれど実は根っこがすごい。
(深田)
うん、そうなのです。
(室伏)
なかなか掘っても、掘っても採れない山芋みたいな感じなのです。
(深田)
そうですよね。傷つけずに掘り続けるのは難しい。FacebookなどSNSのプラットフォーム企業が成功したというので、日本の若い起業家たちも、あのようなSNSを作ったら自分たちも大成功できるのだと思っているようですけれども、普通に考えるとFacebookは単なるソフトウェア技術ではないです。GAFAというのは基本的に巨大データセンタービジネスです。アメリカのデータセンターは町を作って、発電所を作って、大量の水を引いて、一大事業なのです。これはインフラ作りやっているわけですよ
(室伏)
そう、そうです。それが儲かるからやっているわけで、そんなものをハーバード大学を出た子が簡単に作れますか。できるわけがないのです。
(深田)
そうですよ。何百億、何千億という投資が必要なわけですから。
(室伏)
映画ではそう見えてしまっているけれど、そんなことはなくて、自宅のコンピューターをカタカタやっていたらできましたということではない。どう考えてもアメリカ政府が意図的に開発しているわけです。
(深田)
そうです。そうではないと無理です。あんな大学生がネットで何かを作っただけで、巨大データセンターを作るだけの資金調達は無理です。
(室伏)
無理です。さっきも話しましたが、ベンチャーキャピタルは研究開発にずっと、10年も20年も一緒に伴走することをしません。とにかく「2・3年で利益を出せ」ということになると、どうするかということ分かっている。上場したら儲かると分かっている所に投資をして、株価が上昇して、その差額で儲けているだけですからね。
(深田)
そうなのです。結局、この20年位で伸びたシリコンバレー系のベンチャー企業はPRISM計画(監視プログラム)ですよ。アメリカ政府がセプテンバー・イレブン(アメリカ同時多発テロ事件)の後に始めた国家監視計画で、情報を収集するために作った企業ですよね。Skypeであるとか、Facebookであるとか。
(室伏)
そう、そうなのです。SNSは便利だから僕も使っていますけれど、情報を取られることを前提で使っています。
(深田)
そうですよね。
(室伏)
特にビッグデータの裏側で一番商売をしているのはGoogleです。僕はあまり使わないようにしているのですが、一番怖いのはZoomとか、最近はあまり使ってないクラブハウスなどです。あれはコアの音声認識技術に使える。アメリカ政府はそれをやっていますが、クラブハウスは確か中国企業でしょう。そこで話したことは記録に残さないと言うのですけれど、絶対サーバーに貯めているに決まっている。
(深田)
貯めています。
(室伏)
そうでしょう。ということは、俺たちは声紋を取られてしまうのだということになる。これだけで個人を特定できるようになるかもしれない。そういうことまで考えてくださいと思うのです。
(深田)
そうですよね。だからシリコンバレーの裏やSNSのプラットフォーム企業の裏までを学校で教えないから、勘違い起業家が出てくる。
(室伏)
GAFAはすごい。何がすごいのかと言ったら、時価総額だというのですけれど、 単純に株価を釣り上げているだけで、それがいいのかという話です。時価総額がどうだ、こうだと、そこだけを見て「すごい、すごい」と言うわけです。
企業がすごいかどうかは、ビジネスがどうか、なぜそうなったのか、考えてすごいのか、なるほどさもありなんなのか、どうしようもないのかで判断をしなければならないのです。今はなぜか時価総額と称する株価の総額で判断する。しかも経産省の資料でも「こんな時価総額になっているからすごい」と書いてあるわけです。
(深田)
時価総額では企業は計れないです。そもそもビジネスモデルが分かっていないです。
(室伏)
分かっていないと思いますね。
(深田)
ビジネスモデルが分かっていないから、若い人がお金をかけずにパソコン1台でコードを書くだけで「こんなにお金が儲かりました。時価総額が大きくなりました」と言ってしまうわけです。
(室伏)
それを経産省も資料を間違っているし、大学でも嘘八百を言う先生がいるでしょう。
(深田)
そう、そうなのです。大体、踝が見えるような靴を履いています。すみません、こんなことを言って。
(室伏)
ちょっと裾が短いのを履いて、白いTシャツで軽薄な感じにしている。
(深田)
そうです。白いTシャツにジャケットを着ている意識高い系です。「くるぶしを見せてはいけないよ」と言ってしまいますけれど、そういう人たちが勘違い言説を流している。シリコンバレーの現実で苦しんでいる身からをすると、非常に迷惑だなと思います。
(室伏)
そうなのです。だから、私は版権を買い取って「岸田政権のスタートアップ政策がいかに間違っているのか」を経営科学出版から解説を付して復刻をしたのです。
(深田)
本当にいい本だと思いました。DARPAという国防高等研究計画局は国防総省の下に入っているのですけれど、DARPAがERI(Electronics Resurgence Initiative)というエレクトロニクス産業の復興イベントを行いました。その時に私もシリコンバレーに行ったのですけれども、その時に出てくる人たちのレベルが日本の経産省とか半導体担当の人達と全然違うのです。
DARPAはコンピューターのアーキテクチャー上の問題を解消すれば半導体の微細化は必要ないと分かっているのです。だからアメリカは2ナノをやっていないではないですか。「2ナノは日本にくれてやるよ」とポイとやってしまっているわけでしょう。
(室伏)
日本の場合は比較的に企業主導で優れたいい技術開発をしていいものを作ってきたのです。それは株主資本主義がなかったし、オーナー企業が「赤字とか黒字を考えなくてもいいから10年でも20年でも研究しろ」という風土があった。
みんなでやろうと言うことです。日本企業はそれを捨てて、チームビルディングとか言っているので、「こいつらは本当に馬鹿だな」と思うのです。それがあったからこそ色々な技術ができたわけですよね。それをすっかり忘れてしまって「アメリカでやればこうだ」と言うので、経産省も多くの民間企業も短期主義に陥ってしまって、それに振り回されていますよね。
(深田)
そうですよね。最近、ディープテックという言葉が流行っています。投資回収までに10年かかるが、こういうものに投資しようと言われているのですけれど、日本企業は普通にずっとやってきたのです。
(室伏)
やっていました。やっていました。
(深田)
15年ぐらい前からですが、エレクトロニクス企業のエンジニアと話をすると「仕事が面白くなくなった」と言う。以前は、好きなことをやらせてもらえた。もちろん普通の仕事もあるけれど、自分の趣味の開発もできた。それが、こっちにお金が全然出なくなって「何も楽しみがなくなってしまった」と言うのです。
(室伏)
そうなのです。結局、大学の基礎研究もそうですけれど、これがどういう成果かわからないけどやってみようと言って、やったものの中から意外とこれは使えるというものが出てくるわけですよね。それが、国立大学法人というくだらない制度を作ってしまったがために「基礎研究をやるな、すぐに成果を出せ」となってしまった。だから日本の基礎研究の現場もズタズタです。
財務省というおバカは、お金とは何か、税とは何か、マロ経済が全くわかっていない。あれはエリート集団ではないです。本当に馬鹿なカルト宗教ですよ。馬鹿のカルト集団、ザイム真理教です。ここがお金を出さないのです。
聞いたことあるかもしれませんが、ある研究施設の窓ガラスが割れたけれど、変えられないのでガムテープを貼っている。
(深田)
ええっ!?かわいそうです。
(室伏)
そんな感じです。だから色々な実験機器を大事に使わないと、壊したら次はいつ買ってもらえるかわからない。
(深田)
それが今の日本の現実ですよね。
(室伏)
諸悪の根源は財務省で、それに力を貸す政治家がいる。しかも財務省に従っている大手メディアですね。どうしようもない連中がいるから「奴らが日本を不幸にして、衰退させる元凶だ」と断言してもいいと思います。
(深田)
断言できます。アメリカは国が主導して国防総省であるとか、色々な情報機関で研究開発をしているのです。CIAは半導体の研究をやっているし、アメリカ国家偵察局でも新しい半導体の研究などもやっていて、そこに莫大な予算が入っているわけです。そういうものがちょっとずつ民間に出てくるから、アメリカは民間も強いのだということを日本もきちんと分からないといけないですよね。
(室伏)
やっとね、前の経産省の次官が官房長の時に経済産業政策の新基軸を打ち出したのですね。「大規模長期計画的」というキーワードでこれからはきちんとそうしないとだめだと、そこで「国が大規模長期計画的な投資をしましょう」とやったのです。その人が官房長から事務次官になって、良かったと思っていたのですね。思っていたのですけれど、次官なので、そこから離れてしまったら、産業構造審議会の現場では部会がまた短期主義に戻ってしまいした。中身は逆方向に、逆走しまくっています。
(深田)
まあ、日本の経産省のやることなんて、半導体産業を復興させましょう、日本の半導体製造を強くしましょう、では外資にお金を全部あげようというアホなことをやっていますからね。
(室伏)
ひどいですね。どこが先進国なのか。僕は台湾という国自体が好きで、去年も行きました。それで言うわけではないのですが、台湾の企業にお縋りしている状態で大丈夫なのか。
(深田)
自国のルネサスとか旭化成に出せばいいのです。
(室伏)
あるいは企業連合を作る。昔、通産省は企業連合を作らせて「みんなで作れ」とやっていた。これをまたやればいいではないですか。
(深田)
そうですよね、そう思います。今回は企業の経営、実は国家がバックにあった方がうまくいくのだということを室伏先生にお話をいただきました。先生どうもありがとうございました。
(室伏)
ありがとうございました。