「国家を滅ぼす日本の脱炭素政策」杉山大志 × 深田萌絵 No.121
【目次】
【この番組は2024年自民党総裁選の結果が出る前に収録されたものです】
(深田)
自由な言論から学び、行動できる人を生み出す政経プラットフォーム、ITビジネスアナリストの深田萌絵がお送りします。今回はキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志先生にお越しいただき、「非政府エネルギー基本計画」という謎の……
(杉山)
(笑)
(深田)
(笑)謎の計画について教えていただきたいと思います。これはなんですか、政府のエネルギー計画には我慢ならんという、アンチテーゼですか。
(杉山)
いや、(政府の次期エネルギー計画案は)今実は検討中なのですけれど、放っておくとロクなことにならないと思って書きました。
(深田)
なるほど。もうすでにロクでもない方向に我が国は向かっているのですが、杉山先生の「非政府エネルギー基本計画」で日本は救われると。その内容について御解説をお願いします。
(杉山)
はい。タイトルがやや長いのですが「エネルギードミナンス/強く豊かな日本のためのエネルギー政策/非政府の有志による第7次エネルギー基本計画」といいます。今年2月に出してその後改訂もしていますが、なぜこの計画を発表したかをまずご説明しましょう。
政府はエネルギー基本計画を3年に1回改定しますが、ちょうど今年が改定年度なのです。しかしその議論内容を見るとどうにも静観していられず、この年度内にまとめる方針の政府計画に先駆けて2月に独自案を出し、掲載用に7eneというドメイン名も取りました。(下記リンク)
◆エネルギードミナンス ホームページ
(深田)
なぜセブンなのですか。
(杉山)
第7次の、エネルギー基本計画だからです。
(深田)
なるほど。そもそも国のエネルギー計画がロクでもないですものね。
(杉山)
そう、その話をまず始めないといけませんね。まず、これまで政府が何を言ってきたかですが、最近よく使われるキーワードは「オントラック」です。
(深田)
オントラック、どういう事でしょうか。
(杉山)
「軌道に乗っています」という意味ですが「なんの軌道やねん」かと言いますと、日本のCO2排出削減量です。これを2013年から、2050年の「CO2排出・吸収量ゼロ」という目標値まで直線的に減らしていくのが政府の描いている姿です。そして2013年以降の排出量をグラフにプロットすると確かにこの直線に乗っていると、日本政府は喜んで自慢しているわけです。(下記リンク2頁目のグラフ)
◆環境省「2021年度温室効果ガス排出・吸収量(確報値)概要」
(深田)
でも最近、需要ピーク時の電力供給量が逼迫しているとか問題が起っていますよね。
(杉山)
はい。だから「本当にこれが自慢する事なのか?」という話なのです。実際に経団連の資料からCO2削減の要因を分解してみると、産業部門では7割以上が「経済活動量の低下」によるものなのです。(下記リンク14頁の図表7・左<2013年度比>)
◆経団連カーボンニュートラル行動計画 2024年確定版
(深田)
脱・産業化ですね(笑)
(杉山)
そう(笑)脱・炭素ではなく、脱・産業してしまっているわけです。
(深田)
これでは経済成長が低迷しますよね。
(杉山)
そう、成長の低迷どころか逆ですよ、経済活動が減っている。それでCO2排出量も減っているのだと。たしかに他の要因、原発の一部再稼働や再エネ・省エネの取り組みなどによる効果もわずかにありますが、統計的に分解すればもう圧倒的に「経済活動の低下」が主因なのは明白です。こんな事態で「日本政府はいったい何を自慢しとるねん」という事なのです。
(深田)
私もね、脱炭素を提唱する人に「息は吸ってもいいけど、吐くのをやめろ」と言ってやりたい(笑)
(杉山)
吸って吐いたら±ゼロだから、許してもええのちゃうか(笑)
(深田)
許せない(笑)
(杉山)
ご飯を食べると糖を分解するからダメかも知れない(笑)
(深田)
そうですね、ほんとに(笑)
(杉山)
だから……(こんな経済の惨状をオントラックだと言って)喜んでいられるのかと。ここまでは経済全体をマクロに見ればの話でしたが、個別に見ても脱炭素政策を推進してきた日・独・英では「国外への産業大脱出」が起っています。
(深田)
脱炭素政策でドイツ経済は崩壊していますよね。
(杉山)
崩壊していますね。色々な話を聞きますが、特に印象的だったのはBASFのケースです。100年以上の伝統をもつ化学工業の最大手でしたが、国内16工場のうち11工場をつぶして、中国の広東省湛江(たんこう)市に100億ユーロ、1兆5千億円で工場を建設中です。(以下参考ニュースリンク)
◆BASF、中国・湛江の新たなフェアブント(統合生産拠点)に新工場を開所(2022年)
(深田)
(排出規制の甘い中国でなら)炭素排出し放題ですね。
(杉山)
だけど、ドイツ国内からのCO2排出量は減るわけですよね(苦笑)。こんな風に、ドイツの産業はもう崩壊してみんな逃げ出しています。
(深田)
ロシアからの天然ガスも入らず、電気代は高騰するし、化学工業の原料もない。
(杉山)
環境屋さんはみんな「ドイツでは……」とか言ってドイツが大好きではないですか。何を見習えと言うのでしょう(笑)
(深田)
見習えるところが何もないと。
(杉山)
それからイギリスは製鉄所の高炉が最後の一つしかもう残っていないそうで、それを潰したら3千人弱が解雇になるとスト寸前の騒ぎになり、産業は崩壊状態です。イギリスと言えば産業革命以来の歴史ある製鉄の国ではないですか、それがこんな馬鹿な事をやっている。日本でも「某製鉄会社」は国内工場を減らしてインドで高炉を建設したり、アメリカの製鉄会社を買収して、実質アメリカに投資しようとしています。(以下参考ニュースリンク)
◆イギリスの労働組合ユナイト、イギリス製鉄所のスト中止。(2024年7月)
(深田)
国内だけで「脱炭素しました」と言うだけで(全地球的な)トータルで変わらないのだったら意味ないのではないかと思うのですが。
(杉山)
そのとおり。
(深田)
自己満足ですよね。
(杉山)
何の自己満足なのでしょうね。そしてここから先、こんな事をやってオントラックとか言っている人達が、何をやりそうかという話なのですが……
(深田)
あわや首相か、というあのお方ですね(笑)
(杉山)
現行の政府エネルギー計画は第6次で、2030年までにCO2排出量を2013年の46%まで削減するという目標が策定されました。その「46」という数字の根拠を記者から問われて、当時環境大臣だったあのお方は「46と言う数字のシルエットがおぼろげに浮かんできた」とおっしゃった。
(深田)
お前はイタコ(霊能者)か、みたいなね(笑)
(杉山)
さすがにこれはみんな失笑していましたけれどね。だけど実はこれ、おぼろげに浮かんだのではないのですよ。
(深田)
誰かに言われたのですね。
(杉山)
そう、まあ、バイデンさんに言われたのですけれど。でもそれは、先程の環境省のグラフで2050年がゼロになるように直線を引くと、2030年のところがちょうど46%減になっているのですね。だからおぼろげに浮かんだのでも何でもなくて、線を引っ張ったらそうなるというだけの話です。(下記再掲リンク、2頁目)
ただ、バイデンさんからは「半分にしろ、50%だ」とか言われていたので、ちょっと色をつけて46%とか書いてみたというのが実態で、こんないい加減な事で決めているわけですよ、これでいいのですか。CO2の削減目標を決めるという事は、国のエネルギーをどの位使うか決めるという話ではないですか。
(深田)
我が国の元環境大臣に、そんな「能力」を求めるのですか?(微笑)
(杉山)
まあ、小泉(進)さんだけの責任ではないのだけどね。あの時は菅さんが首相で、小泉さんと河野さんが大臣をやっていた時でね。
(深田)
あの時が一番、太陽光パネル関連の……
(杉山)
再エネ最優先という、その時にできた方針、そういうひどい計画が、現行の(政府)第6次エネルギー基本計画なのです。
(深田)
おかげ様で、電力不足ですよ我が国は。
(杉山)
このままオントラックで行くと、ますます大変な事になります。
(深田)
そうですね、原始時代(笑)
(杉山)
このスタジオも閉鎖かもしれない(笑)
(深田)
ちょっと電気使いすぎですよね、このスタジオ(笑)
(杉山)
ええと、それで……第7次、今検討中の次期政府基本計画では何をやるかと言うと、2035年とか2040年の数字を決めましょうという話をしています。でもね、先程のグラフで2035年のところを単純に読むと60%減になるからそうしろとか、その程度の話しかしていないわけです。こんな杜撰な方法で2035年とか2040年の数字を決められて、それに合わせてオントラックで突き進む馬鹿な政策をやられると、本当に日本の産業は壊滅します。そんな事ではやっていられないので「CO2削減の数値目標などやめろ」と提言したのが、僕らの「非政府エネルギー計画」です。どうせ数値目標を作るのだったら「もっと違う事の数値目標を作れ」と。
(深田)
その数値目標とは。
(杉山)
「電気料金の数値目標を作れ」と。(下記リンク)
◆資源エネルギー庁「電気料金平均単価の推移」
(深田)
素晴らしいですね。震災前は産業向け14円、家庭向け21円。
(杉山)
これは1kWを1時間使ったらいくらか、という電気料金単価です。
(深田)
今は34円なのですか、もっと上っているように思いますが。
(杉山)
2022年度の平均データまでなので、今はもう少し上っているでしょう。ともかく2年前でも家庭用34円、産業用27円に上ってしまった。このグラフの左端、東日本大震災前の2010年では家庭用21円、産業用14円だったので全然違うわけです。
(深田)
滅茶苦茶上っていますよね。やはり菅政権時代の後くらいから跳ね上っていると言うか。ロシアのウクライナ侵攻なども関係あるのかも知れませんけれど。
(杉山)
いくつか要因があるのですが、一番大きいのは再エネを大量導入したことです。よく太陽光発電は一番安いとか言う人がいるけれど、あれはウソです。なぜ太陽光発電を導入すると高くつくかと言うと、所詮は二重投資だからです。例えば火力発電所と送電線の先にある家や工場に太陽光パネルを設置したとしても、火力発電所は無くせないのですよ。
(深田)
そうですよね。
(杉山)
雨の日や夜に太陽光は発電しないけれど電力需要はありますから。結局のところ太陽光では年間国内総発電量の17%しか供給できないのです。残りの83%は火力発電のお世話にならなければいけない。
(深田)
なんの為にそんなものを設置しなければならないのか、と思いますよね。
(杉山)
完全に二重投資なのですよね。でもこの指摘に対して「いや、太陽光発電はバックアップの為に火力発電が必要だ」とか言う人がいるのだけれど、ちょっと待てと。太陽光が80%で残り20%が火力ならバックアップだろうけど、太陽光が17%しか発電しないのに残りの83%をバックアップとは言わないでしょうと。
(深田)
そうですよね。そもそも太陽光パネルは地産地消型ですよね、震災などの時のための。
(杉山)
各家庭の屋根に太陽光パネルを乗せて使っていれば確かに地産地消とは言えますが、でもそれは1年のうち17%だけなわけですよ。残りの不足分は結局火力発電所から電気を送ってもらっているわけで、どこまで地産地消と言えるのかと考えると「天気のいい昼間だけ、地産地消」(笑)二重投資という本質は変わらないのです。だからやればやるだけ電気代は高くなっていくのが基本です。
(深田)
電力会社にとっても太陽光パネルというのはすごく迷惑で、ここから供給される電力を買わなければならない。それなのに火力発電もつねに安定供給を求められるので、たいへん迷惑な存在です。
(杉山)
その買い取り制度のために火力発電所はどんどん採算がとれなくなってしまって、古くなった施設は修理もしないで閉鎖してしまうのです。それで、しょっちゅう節電要請が来て電力不足になるという話になって……。
(深田)
電力不足の原因は太陽光パネルだった、というね。
(杉山)
それが一つの大きな原因なのですよ、実は。さらに、太陽光発電にはまだ問題があって、前にお話ししたかも知れませんが、そのパネルはどこでどうやって作っているのかということ。太陽光パネルの生産はいま中国が世界シェアの9割を占めていて、そのうち半分は新疆ウイグルでの生産です。新疆ウイグルにはもちろん人権侵害の話があるし、色々な問題があります。米国ブレークスルー研究所が発表した報告書の航空写真には、新疆ウイグル自治区にある太陽光パネル工場が写っています。その隣には石炭火力発電所が立っていて、そこから南東側にベルトコンベアがずっと伸びていて、その先には露天掘りの炭鉱が連なっています。明らかに「この炭鉱の石炭を使って太陽光パネルを作るぞ」という計画になっているわけです。(下記リンク中段の写真)
◆CIGS「中国の石炭で造った太陽光パネルでCO2は減るのか」
【編注※GOOGLE MAPの検索欄に「北山煤窯」と入力し、候補リストから奇台県・昌吉回族自治州を選択すると、この露天炭鉱が表示されます。ややズームアウトすれば北西側に火力発電所と太陽光パネル工場の存在も確認できます】
(深田)
太陽光パネルと炭素排出はセットだよ、と。
(杉山)
セットなのですよね。だけど日本はこれをありがたがって買って来て「CO2の出ない太陽光パネルです」と言って使っているわけです。
(深田)
本当、すごいペテンですよね。しかも太陽光パネルを作る時点で、太陽光パネルが発電する電力の数年分を先に使ってしまうというね。
(杉山)
そうです、製造時のCO2排出量も結構バカにならないのです。だけど考えればもっとひどい例があって、日本でメガソーラーを作るとかいうと、山を思いきり切り開いて作っているではないですか。本当はあそこに木が生えていれば……
(深田)
炭素(CO2)を吸収してくれる。
(杉山)
そうです。CO2排出量はその「失われた吸収」分も勘定しなければいけないのです。中国からモクモク石炭を燃やして出てくるCO2と、日本で(パネル設置の為に)木を切り倒して吸収出来なくなったCO2とを。太陽光パネルでCO2を減らしますと言うけれど、このパネル製造~設置時に出たCO2と相殺するだけで約10年かかるのです。それを日本政府は知らんぷりして「太陽光発電はCO2が出ない」という計算になっているのです。
(深田)
なるほど……すごいペテン師ですよね。
(杉山)
本当に、こういう初期コストもきちんとデータを揃えて検討しないといけないですね。では、ここまでCO2を一生懸命減らして、何かいい事あるのでしょうか。日本は2050年にCO2をゼロにしますと言っていますが、では一体それで何度気温が下がるのでしょうか。これ実は簡単に計算ができるのです。国連機関のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)がまとめたデータでは、CO2を1兆トン出すと0.5度地球の年平均気温が上がる関係だと報告しています。一方、日本のCO2排出量は毎年10億トンなのです。
(深田)
足元にも及ばないですね。
(杉山)
10億トンと言ったら1兆トンの1000分の1ですから、それを考えただけでも、ほとんど気温(上昇)は減らないなと分るのですけどね。つまり日本がCO2を毎年出す事で、0.5度の1000分の1ずつ気温が上っているわけです。という事は、日本がCO2排出をゼロまで減らしても、気温(上昇)はたいして下がらないだろうと。
小学生の掛け算なので実際に計算してみましょう。2025年から2050年まで一直線にCO2を減らしたとします。そうすると全く削減しなかった時の総排出量250億トンのちょうど半分、125億トンになるので、25年間の気温上昇も0.0125度の半分、0.00625度に抑制されます(結局は上っていますが)。「どうだ、涼しいだろう」って感じでしょう(笑)
(深田)
そうですねえ、めっちゃ涼しーい(笑)
(杉山)
これをね、ある国会議員の方が取り上げてくれて、国会で経産省の役人に「0.006度しか下がらないですけど、それでも脱炭素をやるのですか」と質問してくれたのです。お役人の答弁は「たとえ僅かでもやります」だったのですけどね……。でもこれは役所が答えるのではなくて、国民に聞いて欲しいですよね、本当にやるのですかと。だって脱炭素といったらすごいお金がジャブジャブと……
(深田)
正気の沙汰ですか、と聞きたいです。こんなものの為に私達、電力不足になり、電気代も上がり、太陽光パネルのおかげでピーク電力需要すら賄えない事態になっているのに、このままだと、本当に日本の経済はどうともならない。しかも温暖化には25年で0.006度の抑制効果しかない。良いこと何もないではないですか。
(杉山)
無いですねえ……(嘆息)
(深田)
こういった脱炭素の欺瞞、そういった事に関してもっと国民がしっかりと政府の動向を見張っていかないといけないと思います。そうしないと、もしかしたら、この番組が放送される頃には、おぼろげに46%と浮かんだ方が……
(杉山)
そうなんですよね、ひょっとしたら……
(深田)
ひょっとしたら今頃は政権を握ってしまい……
(杉山)
そうするときっと、2040年はおぼろげに80%削減とか……直線で引っ張っていくとそんな感じなので(笑)。
(深田)
そうですね、おぼろげに80%削減、そしておぼろげに100%削減し、わが国の経済成長は停止すると言う未来。
(杉山)
まあ今ちょうど総裁選やっていますけど、その前からこの政府エネルギー基本計画は検討が始まっていたのですが、今総裁選があるものだから事実上休んでいるのです。この後新しい政権が出来て、まあ総選挙もするのですかね、とにかくこのエネルギー基本計画が定まってくるのは早くて今年の終わりか、今年度の終わり、来年の3月にかけてなので、まだまだね……
(深田)
時間はある。
(杉山)
時間はあるので……
(深田)
今なら引き返せると。
(杉山)
そう。なので是非これ見ていただいた方々も声を上げていただいてね……
(深田)
経産省とエネ庁そして環境省を説得していただきたいと。
(杉山)
まあひょっとしたら首相を変えなきゃいけない(笑)
(深田)
そうですね。でも大丈夫です、仮にその方が首相になったとしても3ヶ月もつかどうか分からないので(笑)
(杉山)
そう、ほんとに分からない(笑)
(深田)
分からない事だらけなのですけれども、太陽光パネルを推進すると日本は滅ぶ、という事は確実です。今なら止められます。
ということで、今回はキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の杉山大志先生に、日本の脱炭素政策がどれだけ間違っているのかという事をお話しいただきました。先生ありがとうございました。