「民営化という私物化NTT、東京メトロを守れ!」室伏謙一 × 深田萌絵No.119

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【目次】

(深田)

自由な言論から学び行動できる人を生み出す政経プラットフォー。ITビジネスアナリストの深田萌絵がお送りします。今回は政策コンサルタントの室伏健一先生にお越しいただきました。先生よろしくお願いします。

今回は、昨今話題のNTTと東京メトロ。これらの民営化と言う名の私物化が進んでいます。これをお話いただきたいと思います。

(室伏)

NTTにしても東京メトロにしても、国の重要なインフラですよね。NTTは通信インフラでしょう。今、通信を取られたらどうするのですか。

(深田)

有事にはどうするのか。

(室伏)

そうです。サイバーは何にでも繋がっている。あのエドワード・スノーデンでさえもマルウェアが仕掛けられているから「それを作動させると全部止まってしまう」と言っているぐらい重要ですよね。

今、サイバーセキュリティが弱いからサイバーセキュリティを強化しましょうと言っている。サイバー空間とは言い方を変えれば通信でしょう。これを民営化すると場合によっては、外資に食われたらどうするのですか。

(深田)

今、ブラックロックという非常に香ばしいアメリカのファンドが、日本に来て岸田文雄首相と頻繁に会っていたということです。確か、岸田さんが訪米されて、VIP待遇で晩餐会が開かれた時 ブラックロックのCEOとかNTTの澤田純会長、楽天の三木谷浩史会長、孫正義氏(ソフトバンク会長)が同席されていました。これは、メインディッシュはNTTだと思いました。

(室伏)

せっかく経済安保法制を作って、それを守りましょうと言っているのに、何故それを民営化するのか。そもそもNTTの民営化自体は中曽根改革で行われたのですが、それ自体が完全に間違った話です。確かに世界的にはアメリカのAT&T、ブリティッシュ・テレコム、フランス・テルコムもやりましたけれど、結局は失敗だった。イギリスでは保守党政権の時に、今は株式会社だけれども、場合によっては株を買い戻そうという話があるぐらいですね。

日本は遅れて分割民営化がありました。確かに通信料が下がったとか色々なメリットがありましたけれど、それは価格規制によって通信料を抑えるということは十分可能なのです。競争が入ったから、安くなったという日本人の短絡的な考え方はやめた方がよい。むしろ半官半民でも構わない。

NTT法によってしっかり規制をかけていく。完全に民営化してしまうとNTT法の範囲外になる。そうすると彼らは儲けを考えるでしょう。国家の安全保障とか国民経済がどうかということよりも自分たちの儲けを考える。

民営化によって成長できると平気で馬鹿なことを言っている甘利明(衆議院議員)という人がいますけれど、この人は本当に国家観がないのだという話です。そういう議員、しかもベテラン議員が自民党に非常に多くなってしまっている。

(深田)

本当に驚きなのですけれど、NTT法を廃止すれば国際競争力が高まるというが、「根拠は何ですか」と思うわけですよ。 NTTの強みは日本中の地下に張り巡らされた通信インフラではないですか。その強みは海外では生かされないですね。

(室伏)

関係ないですね。

(深田)

国際競争力が強くなるとか、菅義偉元首相がNTTの社長・CEOに「GAFAを目指せ、NTTはGAFAを目指すべきだ」と話をしたことがニュースになっていました。私はその時に澤田会長(元社長)とお会いしているのです。「菅さんが『NTTはGAFAを目指して欲しい』と言っていますけれど、ビジネスモデルもレイヤーも全然違いますよね」と言ったら「そうなのですよ、あはは」と言って本人が笑っているのです。菅さんがおっしゃっていることが全くの間違いだということは、澤田社長だって分かっていたはずなのに、それを今一緒になってNTT法廃止で売却に向かうのは、ちょっとありえないことだなと思います。

(室伏)

ガースー(菅氏)は全然分かってないわけです。全然分かってなくて、NTT側からすれば頭の中では、自分たちの収益が大きくなればいいのだから「そうですよね、総理」と同調していれば、それでいいのです。結局、それを進めている側がNTTを完全民営化するということの意味は全然分かってないということです。

(深田)

そうですね。

(室伏)

GAFAはなぜできたのかと言うと、まさにこのマリアナ・マッツカートの世界です。アメリカ政府の巨額の投資の結果、生まれているものをうまく使っているだけなのです。

(深田)

そうですよね

(室伏)

往々にして軍事技術です。しかも彼らはインフラを持っているわけではなくプラットフォーマーでしょう。無料で検索させてデータを集めて、裏でビッグデータを使うという企業です。NTTはそういう企業でしたか。

(深田)

全然違いますよね。私もシリコンバレーにも会社があるのですけれども、シリコンバレーで仕事をすると日本で流れている言説は本当にとんでもない幻想というか、嘘のプロパガンダが流れている。現地では、成功している企業のほとんど多くが、DARPA(米国防高等研究計画局)など国が色々なところで開発してきた技術をコネのある人に下ろして、それを使って成長しているわけです。

(室伏)

そうです。ご承知の通りシリコンバレーはかなりインナーサークルですから、後から入って「一旗あげるぞ」という成功物語とは全然違うのです。ずっと基礎研究から実用化して商用化するとこまで行って、最後にちょっと出てきて、スピンアウトとしたのがスタートアップですが、VCは先にその企業にお金を突っ込んで「上場しました、株上がった、それ売り払え」と言って儲けているだけなのです。彼らがベンチャーに伴走して成長を助けてきたなどというのは、真っ赤な嘘ですからね。

(深田)

真っ赤な嘘物語ですよね。私も最初はそれ信じていたので、シリコンバレーのビジネスパートナーと結構論争をしたのですけれども、実際に行って仕事をして現実がかなり見えました。国がバックアップした会社だけがGAFAになれている。NTTは今だったらそのままGAFAであって、通信インフラの分野では十分に強いわけです。それが国のバックアップが引き剥がされたらGAFAではなくなり、食い荒らされてカスになってしまう。

(室伏)

食い荒らされるというポイントがすごく重要です。株主資本主義がどんどん強くなると「こんな研究はいらない」とか「こんな施設は売ってしまえ」ということになる。国が持っているからこそ色々な研究ができたり、バランスよく持って成長できたものが、「集中と選択」とか「筋肉質」とか言って、筋肉質になったのはいいのですけれど、状況が変わった時に、捨ててしまったり、売り払っていたらどうするのかということです。

食い荒らされた後、ボロボロになって、骨だけになって「こんなものはいらない」となって「でも助けてください」と言った時に、買い叩かれて五星紅旗の下に入ってしまったらどうするのか。中国が攻めてくるという時に、日本の通信インフラで、NTT社長が「私社長よ、お前ら働け」となったらどうするのかということです。その緊張感が今の永田町とか自民党にはほとんどないです。

(深田)

ないですよね。NTT法の第14条で、通信インフラを売却するには総務大臣の許可が必要ですということが書かれていて、法律を廃止したら、それがなくなるわけです。そういうことを隠しながら国際競争力を高めるためという嘘の議論をしている。

(室伏)

日本人は「国際競争力を高める」というキーワードに弱いのです。

(深田)

コンプレックスですか。

(室伏)

1990年代ぐらいからそういう話があって、昔、役所の文章によく書きました。これをやると国際競争力が高まるとか、そういったことを書きましたけれど、実際どうなったのかというと、なっていない。むしろ国際競争力を高める必要があるのか。

(深田)

国際競争力を高めるために電電公社は民営化されて、NTTになったわけではないですか。そこでNTT法が生まれて、そして国際競争力を高めるためにドコモはNTTの子会社から外れて独立していったわけですけれど、今度は同じ理由で国際競争力を高めるためにNTTがドコモをNTTの子会社にして、国際競争力を高めるためにNTT法を廃止する。同じ理由でなぜ40年前と逆のことでやるのだろうという矛盾がありますよね。

(室伏)

なぜ国際競争力という話になるのかと言うと国内市場がこれからシュリンクしているからだと言うのです。それはそうでしょう。国が緊縮財政をして、国内にお金を回さないで、デフレの時の構造改革で国の中身をズタズタにしておいて、どんどん国民経済が収縮しているではないですか。需要が収縮しているので、海外に市場を求めろというのが彼らの言うところの国際競争力なのですね。

(深田)

農業も同じことですね。

(室伏)

そうです。つまりドコモにしてもNTT本体にしても外に出て稼げという話なのです。なぜそういう話になるのか、しかもその話に乗るかというとお金を持っているからでしょう。自分でどこかに出て行って技術開発をして、お客さんを掴んだとしても、このインフラを使っていたらお客さんがつかないですよね。ということは何をやるかというとお金でそういう通信会社を買収するとか、世界に出ていけという話なのですが、それはもう通信会社ではなく、ただの投資会社です。

(深田)

そうですよね。東京メトロも民営化するという話があって、これは小池百合子都知事ですか。

(室伏)

これは東京地下鉄株式社法という法律で元々決まっていたのですね。

(深田)

元々決まっていたのですか。

(室伏)

完全に売却すると話が決まっていました。

(深田)

それはいつ頃からなのですか。

(室伏)

東京メトロが民営化しましたよね あれがもう20年ぐらい前ですか。その時にも決まっていたのです。

(深田)

へえ、知らなかったです。

(室伏)

時期はごめんなさい、ちょっとあいまいなのですけれど、法律をご覧いただくと附則に書いてあります。

(深田)

また、附則か。

(室伏)

これの理由がひどくて、そもそも特殊法人だった営団地下鉄を民営化する必要があったのかどうかという話から始めないといけない。直近の株を売却して完全民営化しますという事由なのですが、NTTの場合は国際競争力云々と言っているのですけれども、本当の理由は、それを売った売却益で防衛費の増額に当てるというのです。

(深田)

ああ、そうですよね。

(室伏)

今の政府、財務省は馬鹿だから物を売ってお金が入ってこないと何もできませんと思っている。「いや、お前ら通貨発行できるじゃないか」という話です。

(深田)

そうですよ。去年だって、お金が足りないからNTT株を売ろうと言いながらあの建設国債を発行して防衛費に当てていましたから。

(室伏)

国債を発行して支出しているのが実態なのです。税というのは財源確保の手段ではないので、基本的に国債発行というのはまとめて負債になっていますけれど、お金そのもの自体が負債なのですね。政府の国民に対する負債で借用証書です。これは1万円の価値がある、千円の価値があるものを紙幣という形で取っています。要するに政府が国民に1万円を負っているというものです。原則的にはいくらでも発行できる。ただ発行しすぎてしまった時の供給力があるからそれを見ながらやりましょうということだけですね。

そういう意味で言うと防衛力を強化したかったら、防衛産業をきちんと育てながら、政府がうまく通貨を発行していけばいいだけの話です。何か「これを売らないと明日の食べ物がありません」という『まんが日本昔ばなし』みたいなものではないのです。財務の頭の中というのは『まんが日本昔ばなし』の田舎の貧しい親子の話みたいなものですよ。

東京メトロに関しては、これを売った売却益をどうするのかと言うと、東日本大震災の復興債がありますよね。この復興債の償還に充てるというのです。申し訳ないのですけれど、国債の償還というものは全て借換債でやっていますから必要ないです。

(深田)

そうなのですよね。

(室伏)

実行上そうなのです。何を言っているのかということです。首都東京のしかも霞ヶ関とか永田町を通っている重要なインフラを完全に民営化して、これまた外資が入ってきて外資に取られたらどうするのですか。地下鉄サリン事件で散々思い知らされましたよね。

(深田)

そうですよね。防衛財源にするとか復興財源にするとか、もうひどい理由ですよね。

(室伏)

そもそも復興増税そのものが間違っていて、復興増税ということは被災地の人にもかかりますからね。被災地の復興のために被災地の人から金を取る、困っている人から金を取るということは、ほとんど強盗ではないですか。

(深田)

少子化対策と同じですよね。

(室伏)

あれは少子化対策というよりも少子化推進策です。

(深田)

そうですよね。給料が少ない人からちょっとずつお金を取っていったら、やはり「この給料では結婚はできないな」となりますものね。

(室伏)

そうです。国民の貧困化を進めておいて、少子化が問題だと言っているのは頭の中が分裂しているのではないかという話です。

東京メトロにしても、本来なら今の状況を考えたり、民営化云々の話より前ですが、地下鉄サリン事件のことやテロ対策を考えると、やはり国営にしておくのは当たり前で、少なくとも特殊法人の形に戻すのが当たり前なのです。最低でもインフラはきちんと国なり地方公共団体なりが持ってオペレーションだけを任せるのであれば分かりますけれど、それすらも今のヨーロッパではやめるようにしているのです。失敗が多かったり、サービスの質の低下などがありますから。

昔、イギリスの会社がフランチャイズでロンドンのドックランズ・ライト・レールウェイを経営していたのですが、トラブルが色々あったので、その後Keolis(ケオリス)という会社が運営している。このケオリスはどういう会社かというとフランス国鉄の子会社なのです。結局、別の国が運営している。やはりそれぐらいノウハウとか色々なものを持っているからこそできる。

そういう意味で、本当に儲ける云々をしたいのであれば、東京メトロを国営会社のまま育てておいて、海外で実際にはそうしているのですが、海外で金を稼いでこいというのであればまだわかる。それをなぜ売るのか。

(深田)

東京メトロは黒字ですよね

(室伏)

黒字です。これに株主資本主義が徹底していくとどうなるのか。ちょっとでも収益が低いところは「そんなものは切ってしまえ」とかすぐ「値段を上げろ」とか「ダイヤはああしろ」とか言ってどんどんサービスの質が低下してくことになって不便になる。不便になると人は使わなくなるという悪循環が生じてくる。ただ、東京なので乗ることは乗るのですが、突然「今日はこんな感じなので運休です」みたいになる。最近、新幹線はやたらと運休が増えていますけれど、あれもやはり民営化の弊害だと思います。

(深田)

そうですよね。どうして東京メトロまで売らなきければいけないのだろう。どこが買いに来るのでしょうか。

(室伏)

東京メトロは買いたくてしょうがないでしょう。絶対に儲かりますから。

(深田)

絶対儲かりますものね。NTTだって絶対に儲かります。

(室伏)

儲かります。そうすると、必ず外国の大手投資家とか機関投資家が大挙して買いにきます。(深田)

そうですよね。ブラックロックとかバンガードが来るのではないかと思います。

(室伏)

そうですね。ブラックロックは既に株を持っているのではないでしょうか。完全民営化する時はその体制をどうするのか、相当リストラをやるのではないですか。

(深田)

そうですか。

(室伏)

ということになると、コスト削減のためにもう一つやるのは、維持管理のコスト削減、つまり手を抜く。そうなると事故とかレール少し不具合が出て運休や遅延が出てくると思うのです。

イギリスではマーガレット・サッチャー政権で民営化したのですが、結果として不具合が頻発している。今、イギリス政府は、保守党政権の時からですが、国内で一度民営化したものを全部再国有化しようという流れになっています。特にひどかったヨークシャーは先に国有化しました。今の流れは再国有化、国営化で決まっています。

(深田)

そうですよね。郵政も民営化した結果、ものすごく郵便物の遅配が増えています。

(室伏)

来月からでしたか、郵便料金が上がりますよね。

(深田)

そうですよね。また国営化した方がいいのではないのかといいう話も出てきています。

(室伏)

本当はそういう話をしないといけないのですけれど、日本ではなぜか「民営化することがいいことなのだ。それを国有化するなどと、お前は社会主義者なのか」と言うのです。いや、そういう問題ではないでしょう。

(深田)

だからPrivatisationという言葉を民営化と訳すのではなくて正しく私物化と言ったらいいのでは。

(室伏)

そう、そうです。完全に私物化ですよ。

(深田)

NTTの私物化を推進している、東京メトロの私物化を推進していると、我々が正しく批判することによって多くの方の認識が変わってくるのではないでしょうか。

(室伏)

そうです。それをやることによって、宮城などでは一部で入ってしまいましたが、水道コンセッションも止めることができると思います。本当に完全私物化ですから、しかも会社の私物というよりも株主の私物にしようとする。日本ほどここまでウルトラ株主資主義を急ピッチで進めている国はないですよ。アメリカでも「やばい」と分かって、ヨーロッパはもっと前に「やばい」いうのが分かっているわけです。

ところが未だに、自民党の総裁選に出る方が「ガバナンスを、スチュワードシップコードを」と言っていたので「お前いい加減しろ、この野郎」と思いました。

(深田)

本当にその通りだと思います。今回は政策コンサルタントの室伏先生に「民営化という名の私物化の危険性」についてお話をいただきました。先生ありがとうございました。

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