「令和の米不足の真相」鈴木宣弘× 深田萌絵 No.108

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【目次】

  • 00:00 1. オープニング
  • 00:29 2. 在庫の差は流通ルートの違い
  • 03:31 3. メンツと在庫調整しないが原因
  • 07:03 4. 増産しても余剰米をどうするか
  • 11:11 5. 米作の時給はたったの10円
  • 14:46 6. 価格は下がるがコストは上がる
  • 17:59 7. 赤字を補填せず減産に誘導

(深田)

今回は東京大学特任教授の鈴木宣弘先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。 昨今、話題になっているコメ不足の問題についてお話いただきます。

(鈴木)

今、大変な問題としていろんな所で報道されていますが、なぜコメ不足が起きたのかの理由として、表面的に言われているのが、去年の猛暑での生産減と品質も落ちたということ。 そしてインバウンド事業の増加に伴い、コメ需要も増えたということですね。

(深田)

そうですね。そのように報道されていますね。

(鈴木)

確かにその影響も少しはあるのですが、実際にはそれはほんのわずかで、供給が少し減って、需要が少し増えただけなのです。それなのにこうしてこんなに大騒ぎになったのか?ということですよ。

(深田)

スーパーの棚からもコメが消えていますよね。うちの近所のスーパーもそうです。

(鈴木)

確かに地震や台風もあって、多くの人が急いで買いだめしたということも、今回の騒動に拍車をかけたところはあると思います。でも、なぜこれほどの騒ぎになったのかという裏の事情、構造的要因をしっかり把握する必要はあると思いますよ。

(深田)

これは流通の問題だと言われることもあるのですが?

(鈴木)

その流通の問題も一つの要因としては関わっていると思います。去年までは在庫が余っていると言われていたのに、それが突然棚から消えるというのには流通段階での滞りがあったのかもしれません。そして、価格が上がるような状況が作られてしまった可能性はありますね。

加えて、流通の問題には、この店にはコメがあるけど、別の店には無いというケースもあって、メディアは空になっているコメ棚ばかりを報道しますが、実際には潤沢にあるお店もあります。だから、どの流通ルートでコメを仕入れているかとか、どの産地から買っているかによって供給状況に違いができてしまう。

(深田)

地域によっても違いがあるのですね。

(鈴木)

そうです。流通ルートの違いが今回の米不足に表れているのです。

(深田)

なるほど。それと今回、政府が備蓄米を放出しないのかとも言われているのですがどうなのでしょう。

(鈴木)

そうですね。これも大きな問題です。備蓄米は一応100万トンくらいあると言われているんですよ。でもじゃあなぜそれを出さないかというと、ひとつには役所のメンツの問題ですね。

(深田)

メンツとは?

(鈴木)

役人の沽券ですよ。保身ですね。つまり、今まで「コメは余っている」と言い続けてきたのに、急に備蓄米を放出したら「足りない」ということを認めることになるじゃないですか。

(深田)

確かに、そうすると今まで何のために減反政策をしてきたの?という話になりますよね。

(鈴木)

そうなのです。だから、これまでの政策や主張と矛盾することをやりたくないのです。別にそんなことは関係ないと思うのだけど、役所はそういうところにこだわるのですよ。

それともう一つは、日本政府は余っている時にコメを買いあげ、不足の時に放出して受給を調整する役割を基本的にやらない、と決めたのです。つまり、受給は市場に任せるという方針に切り替えました。だから、よほどのことがない限り備蓄米の放出はできないという説明になるわけです。今回のコメ不足にはこの2つの要因が大きく影響しているのですよ。

(深田)

政府が受給調整をしないのは政策としては正しいのかもしれませんが、今困っている人がいる中で何もしないというのは、政府の役割って何なのだろうという疑問が出てきますよね。

(鈴木)

本当にそうですね。何のために備蓄しているのか、出さないなら意味がないですよね。供給で調整すると言ってきたのに、今やらないというのは非常に柔軟性を欠いた対応です。

(深田)

備蓄米を放出する条件ってあるのですか?

(鈴木)

そこが問題なのです。明確な基準がないので、急に放出すると価格が急落して農家が困るという議論もあります。だから、本来であれば、どのような条件になったら放出するのか、逆にどの状態になったら買い上げるのかを、数字で明確に決めておくべきなのです。

(深田)

確かに、その方がみんな安心して行動できますね。

(鈴木)

そうです。柔軟に買ったり放出したりできるシステムを整備して、みんながそれを理解して行動できるようにすべきです。それなら市場も予測して対応できるのですから。そこがはっきりしていないのがひとつの大きな問題点だと思いますね。

(深田)

やはり今回、不足しているのが主食のコメという点が問題で、半導体不足とは違うと思っています。半導体が供給されなくても、飢える国民はいませんし、パニックになることもないんです。 だけど、コメ不足のように国民の食に関わる問題がメディアで取り上げられ、大騒ぎになるのであれば、そこは政府としての何かの役割を果たすべきだと思います。

(鈴木)

本当にそうですよね。 備蓄に関しては、今後きちんと議論して、どれくらい備蓄するのか、どういう形で運用するのかを決める必要があります。 例えば、中国は14億人が一年半食べられるだけのコメの備蓄のために世界中からコメを買い占めていますよね。

(深田)

そういえば、日本からのコメの輸出が伸びていると聞きましたが。

(鈴木)

そうですね。 輸出は年間3万トンぐらいまで増えてきていて、輸出に期待する声もあるのです。 だから、「供給を減らす」ではなく、もっと作ってもらって輸出をすればいいという議論もあるのです。ただ、実際には輸出できるかどうかにはいろいろなハードルがあって、その一つは価格設定ですね。 低価格で供給するには日本での農業を大規模化すればいいのでは?と言われますが、日本ではそれは容易ではないのです。 というのも日本の田んぼは山間地に点在していて、例えば100ヘクタールの稲作農家でも、1枚の広い田んぼではなく、50箇所、100箇所というように分かれているんですね。 こういう地理的条件の違いで、アメリカやオーストラリアのように大規模化しても、コストを十分に下げることは難しいのです。

(深田)

なるほど、それが他国の農業との大きな違いなのですね。

(鈴木)

そうなのです。アメリカやオーストラリアの農地は広大で、一面に広がっていますが、日本の農地は分散していて、規模拡大しても同じ土俵で戦うのは難しいんです。

輸出自体は否定しませんが、輸出が伸びたと言っても、今はまだ3万トン程度です。 日本で稲作を増やせば最大で1300万トンほど作れると言われていますが、それを600万トン増やして輸出できるかどうかは別問題です。 日本の米は確かに美味しいですが、それなりに価格は高い。政府が補助金を出すわけでもない中で、世界市場で売れるかどうかはよく考えなければならない問題です。 それに、現在コメ農家さんの平均所得が年間1万円なのです。

(深田)

え? 1年働いて平均所得が1万円?

(鈴木)

1万円って意味わからないですよね。米を売って、それから経費を引くと、手元に残るのが1万円。 つまり、それは自分が働いたことに対する報酬がその程度しかないということなのです。

(深田)

年収1万円...そういえば、最近ネットで話題になっている東大卒の方が、大企業に就職せずに実家の農家を継いで、年収が15万円という若い男の子のニュースがありました。

(鈴木)

ええ、ありましたね。 だからそんな世界なのですよ。 稲作は大体1000時間働いて、その年収1万円だったら、時給にすると10円ということなのです。 そういう状況でみんな苦しんで、バタバタと「もう米作れない」っていう人が増えてきているのです。

稲作農家さんの平均年齢は69歳ですよ。

(深田)

そんな高齢なのですか?

(鈴木)

はい。そんな中で、それだけの収入しかなくて、次に継ぐ人がいるかと考えると、ますます難しい状況なのです。 だから「増産して全部輸出すればいい」という議論の前に、国内のコメ生産がこんなに厳しい状態になっているという現実にまず向き合わなければなりません。

(深田)

その通りですね。 それなのに官僚や政治家の議論は、現実からかなりかけ離れた内容になっているのが不思議ですよ。

(鈴木)

現場を見ていないのじゃないかと思います。

(深田)

彼らは「食料が足りなくなったら、お花畑を芋畑に変えればいい」とか、簡単に言いますが、現場ではそんなこと簡単にできませんよ。

(鈴木)

そうです。農家の皆さんは赤字で苦しんで、それに対する支援は一切ないのに、「有事になったら命令して芋を作らせる」などと言って、従わなければ罰金を課すという考え方で、現場を知らないばかりか一体何を考えているのか? というレベルですよ。

(深田)

これ、労働法違反じゃないですか?

(鈴木)

そうです。憲法を考えてもそれは問題です。行政、特に財政当局の思考の劣化が非常に危険だと思っています。

(深田)

お米って、すべて農協に依存しているのですか? それとも他の流通ルートがあるのですか? それによってコメの価格が上がっていくということではないのですか?

(鈴木)

いろんな流通ルートが出てきていますが、価格は逆に下がってきています。

(深田)

下がっているのですか?

(鈴木)

ええ。15年ぐらい前は、1俵(60kg)あたり2万円を超えていましたが、流通ルートの自由化と政府の管理減少により価格は下がり、2年前には1俵9000円ぐらいになってしまいました。

(深田)

2万円が9000円ですか?半額以下ですね。

(鈴木)

そうです。 さらに1俵作るのにかかるコストが1万5000円くらいですから、完全に赤字なのですよ。

(深田)

それでは利益が出ないですね。マイナスじゃないですか。

(鈴木)

そう、それだけ考えてもお金が残るわけがないですよね。

(深田)

それを国は補填しないといけないのじゃないですか?

(鈴木)

だけど、もう農業にはお金は出さないって言って、一切補填しないのですよ。だから、さっき言ったように、有事になったら強制的に芋を作ればいいだけだ、みたいな議論になるのです。 今みんな潰れちゃったら誰が作るのですか? という話ですよ。

(深田)

ですよね。 あと、大規模事業者や大企業の参入を農業に推進していますよね?

(鈴木)

みんな潰れてもいいという考えで、どこかのIT企業が無人農場を作って、そこで儲かればいいだけだという議論をしている。財政当局はアメリカからいろんなものを買わなくてはならなくて、そちらには何十兆円、何百兆円かかるし。歴史的にもそうですけど、食料や農業予算はさらに削られる方向に、農業基本法や憲法の改定でも、企業が儲かればいいという方向に進んでいます。今や農水省の権限がさらに削がれて、財務省の農業課の影響力が強くなっています。財務省が農業政策を握っていて、農業に関する予算をどんどん削っていくのですよ。米農家は追い込まれている中でも、政府の「米は余っているから作るな」という減反政策を続けているのです。 公式にはやめたと言っていますが、実質はまだ続いているのですよ。

(深田)

そうですよね、実質続いていますね。

(鈴木)

さらに財政当局は短絡的に、「米が余っているなら田んぼを潰せばいい」と言い出して、畑や山に転換する政策まで始めてしまいました。

(深田)

今の米不足は一時的なものだけでなく、政府の減反政策にも原因があるのですね。

(鈴木)

その通りです。余りすぎた結果、ちょっとしたことがきっかけで危機になるし、農家は年収1万円や時給10円で作っている状況です。 そんな状況では続けられるわけがありませんよ。赤字は補填しないし、減反はするし、政府が生産をどんどん減らす方向に誘導してしまっているわけです。 だからここの部分を改善する必要があって、農家を苦しめるのではなく、これからは供給で調整してもっと作ってもらって、備蓄も、需要のある飼料米(えさまい)や米粉だってもっと増やせばいいのです。輸出もできれば進めていければいいけど、そういうことも含めて、需要を作る方の出口対策に財政出動を持っていくなどしてもらう必要がありますよ。でも財務省は、「1兆円、2兆円かかるからダメだ」と言います。しかし、これは安全保障のコストなのです。 備蓄がなければ、いざという時に国民の命は守れないのですよ。 国防は、武器だけではなく、食糧にも予算をしっかりつけるという国民と財務省の合意を得ることが必要なのです。

(深田)

今回のコメ不足問題、実は根の深い政府の減反政策に原因があったという深刻な問題提起を東京大学 特任教授、鈴木宣弘先生にご解説いただきました。

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