「日銀植田総裁は日本を滅ぼす気か?」安藤ひろし×深田萌絵 No.97
【目次】
(深田)
自由な言論から学び行動できる人を生み出す政経プラットフォーム。ITビジネスアナリストの深田萌絵がお送りします。今回は前衆議院議員で税理士の安藤裕先生にお越しいただきました。先生よろしくお願いします。
今回は日銀の利上げ観測で、いきなり日経平均暴落ということで利上げについて教えていただきたいです。
(安藤)
無理やり利上げをしましたよね。どう考えても無理やり利上げで、株価が落ちたことと、この利上げとどう関係があるのか、色々見方はあるとは思うのですけれど、今日はその日銀利上げの理由ですね。7月31日に利上げをしたのですけれども、同時に日銀は展望レポートというのを出していて、その時に植田和男総裁が記者会見で「展望レポート通りに行っているから利上げしたのだ」という説明をしているのです。この展望レポートが突っ込みどころ満載で、面白いです。
(深田)
展望レポートとは見たことないです。日銀短観(全国企業短期経済観測調査)などは読んだことあるのですけれど。
(安藤)
毎回出しています。金融政策決定会合の時に、展望レポートを出しているのですけれども、これが今回はもう大喜利状態です。突っ込みどころ満載なので、今日はその話をしようと思って用意してきました。
(深田)
はい、よろしくお願いします。
(安藤)
まず、最初ですね。
-金融市場調節方針の変更-
日本銀行は本日(7月31日)、政策委員会・金融政策決定会合において金融市場調節方針を以下の通りとすることを決定した(賛成7反対2)。とりあえず0.25%に利上げするということを決めました。これはいいのですけれど、これの後ですね。
-利上げした理由-
・わが国の経済・物価は、これまで「展望レポート」で示してきた見通しに概ね沿って推移している。
俺たちが言った通りになっていると。
・企業部門では企業収益が改善するもとで設備投資は緩やかな増加方向にある。
これはまあそうでしょう。
・家計部門では個人消費は物価上昇の影響などが見られるものの底堅く推移している。
・賃金面では春闘がうまくいったよね。幅広く色々なところも賃上げの動きが見られている。
それはそうかもしれませんね。
・物価の面では既往の輸入物価上昇を起点とする価格転嫁の影響が減衰する一方、賃金の上昇を販売価格に反映する動きが強まってきており、サービス価格の緩やかな上昇が続いている。
これはこれでいいでしょう。
・企業や家計の予想物価上昇率は緩やかに上昇している。
これから物価が上がっていきますよとみんな思っている。
(深田)
思います。苦しんでいるのです。
(安藤)
・輸入物価は再び上昇に転じており、先行き、物価が上振れするリスクには注意する必要がある。だから2%の物価上昇よりも、もっといってしまう可能性はなくはない。
それはそれでいいのですけれど、こうした状況を踏まえ利上げするのが適切であると判断したということですけれども、本当にそうなのかということですよね。
ここから展望レポートの内容に入っていきます。
-わが国の経済・物価の現状-
わが国の景気は一部に弱めの動きも見られるが、緩やかに回復している。
(深田)
えっ?!企業倒産件数連続24か月、5か月ですよ。それが回復しているとは、どういう神経をしているのだろう。
(安藤)
このGDPを見てください。2024年1~3月で名目マイナス0.2、実質マイナス0.7。これで緩やかに回復していると言う。2023年10~12月は実質0だけど、7~9月はマイナスです。
(深田)
これはどう見てもマイナスですよね。
(安藤)
でも緩やかに回復している。
(深田)
何が回復しているのですか。
(安藤)
この後が出てきます。
-家計支出-
・個人消費は物価上昇の影響などがみられるものの、底堅く推移している。
この右側の太い黒い線ね、底堅く推移している。言葉の定義の問題だから、底堅く推移しているという風に俺たちは定義したということです。
(深田)
コロナで急激に落ち込んだ時よりはマシでしょうという意味ですか。
(安藤)
そうそう、コロナ前には戻っていないけれど、一応横ばいぐらいになっているということです。
(深田)
すごいですねえ、レトリックを駆使しまくりですね。
(安藤)
だからもう大喜利状態で面白すぎるのです。消費活動を包括的に捉える観点から、各種の販売・供給統計を合成した消費活動指数というのがあるらしいのです。これを見ると面白いのが2024年4~5月の1~3月対比と書いているでしょう。ということは多分意識しているのは、さっき1~3月のGDPマイナスだと見せたではないですか。1~3月マイナスだと突っ込んでくる人がいるから4~5月は増えていると言っておかないとまずいだろう。だから4~5月は増えていると言っているのです。
(深田)
口が裂けても景気が悪いと言えないということですよね。
(安藤)
そうそう、言えないのです。これを見ると確かに耐久消費財は上がっている気はする。この右側のグラフのサービスは上がっているような気もするけれど、非耐久消費財はどうなのか。4~5月なので右端の少しの部分だけ見ないといけないわけです。右端の少しの部分だけ見たらもしかしたら小幅に増加しているのかもしれない。
(深田)
霞んで見えないぐらいのレベルですよね。
(安藤)
そうそう、でもこれを控えめに「小幅に増加した」と、さすがに大幅にとは言えないので小幅と言っている。
(深田)
間違ってはいない。
(安藤)
そう間違ってはいない、嘘は言っていない。
(深田)
でも、景気回復しているというのは確実に嘘ですよね。何を見て景気回復しているというのか。
(安藤)
・その後の個人消費の動向について、各種の高頻度データや業界統計、企業からのヒアリング情報などから窺うと、この図表29を出しています。
・物価上昇の影響を受けるもとでも所得環境の改善もあって底堅く推移しているとみられる。
これはカード支出に基づく消費動向ですね。カードを使う人はある程度所得のある人ですよね。
(深田)
というか、そもそも実質賃金連続26か月マイナスで、賃金が戻っていないのに所得環境の改善とはどういうことですか。
(安藤)
カードを使う人は、最近色々「ピッ」と決済する人が増えていますね。僕も最近現金ではなく、色々なものに「ピッ」と使っています。それもカード支出が増えているということなので消費が増えているということになる。だから都合のいいデータを持ってきて、消費が伸びているという話にしようとしている。
(深田)
どうして個人消費をここで持ってこなかったのでしょうね。
(安藤)
これは個人消費でしょう。このデータだけはね。だから個人消費が伸びていると言わないといけないのです。結局、個人消費が伸びていますと言わないといけない。家計支出、これも底堅く推移している。
(深田)
これが、実質個人消費ですよね。伸びていると言えるのか。
(安藤)
ちょっとだけ右がちょっと上がっている。
(深田)
でも23年から24年にかけて下がって、戻したけど戻り方も弱い。
(安藤)
それで、コロナ前にもまだ戻っていない。でも一応底堅くなっていて伸びていると言う。これは耐久消費財、車が前の月で生産・出荷停止とかしていたから車は戻したという話だけれども、そんなに戻っていない。
・家電販売額は、高気温を受けてエアコン販売が好調となっており、緩やかに持ち直している模様である。
これは「そういう風に聞いているよ」という話にだんだん変わってきている。
(深田)
噂話ですね。
(安藤)
この後ね、もっと面白い話出てきます。
・非耐久消費財(飲食料品・衣料品等)は物価高の影響を受けて減少傾向をたどっている。
さすがにもうこれは嘘をつけない。飲食料品とか衣料品は物価高で下がってきている。
・スーパー等での飲食料品等の売上高は、振れを伴いつつも横ばい圏内の動きとなっており、実質ベースでは緩やかな減少となっている模様だが。
この後が面白い。僕はもう爆笑しました。足元では 高気温を受けて飲料が増加しているとの指摘も見られている。
(深田)
暑いから清涼飲料水飲んでいるだけですよね。
(安藤)
しかも飲料が増加しているとの指摘も見られているということだから「俺のところ、売れているという人がこの間いたよ」という話です。
(深田)
またまた噂話で、暑いから清涼飲料水売れているらしいですね、みたいな。
(安藤)
俺はそういう人がいたという話を聞いた、みたいな。
(深田)
これが日銀のレポートですか。しかも富裕層だけ高額消費が好調です。スーパーで飲食料品を買っている低所得者層は横ばいで、実質ベースでは緩やかな減少とは庶民は困っているということですよね。
(安藤)
そう生活が苦しくなっています。
(深田)
金持ちは消費を増やしています。これのどこが景気がいいのかということですね。
(安藤)
あんまり暑すぎるから、みんなは仕方なく飲み物買っています。
(深田)
という噂話を聞きましたと。この国は本当には危ないですね。
(安藤)
これが日銀です。日銀の展望レポートです。
(深田)
日銀の劣化はここまで来たかということですね。
(安藤)
笑ってはいけないけど、笑ってしまいます。
・サービス消費はいいでしょう。外食は伸びています。
それはへこみすぎていたから戻っていきますという話ですね。
・先行きの個人消費は、当面、物価上昇の影響を受けつつも、名目雇用者所得の改善が続くもとで、政府による経済対策(所得税・住民税減税等)の効果もあって、緩やかに増加していくと予想される。
(深田)
実績ではなくて予想してみただけという話ですね。これは完全に岸田文雄政権にアピールしているだけですね。
(安藤)
そうです、阿っている。
(深田)
「岸田さんのおかげだ、もうすぐ総裁選だ」と怖いレポートですね。
(安藤)
政権に阿ってどうするのか。
(深田)
景気はめちゃくちゃ悪いし、GDPは伸びていないのに、岸田さんのおかげで景気が回復して、みんなは豊かになりそうだという。嘘でしょう。
(安藤)
・その後も、雇用者所得の改善が続くもとで、緩やかな増加を続けると考えられる。
(深田)
いや、連続実質賃金が連続26か月マイナスですが。
(安藤)
この阿り方はすごい。
(深田)
嘘しかついてない。事実と異なるレポートはひどいですね。
(安藤)
聞いてきた話を無理やり混ぜ込んで、景気が良くなっているという話に持っていかないといけない。
(深田)
日銀のこんなレポートを書いている人は高所得者ばかりで、庶民の生活を知らない人たちですからね。日銀の元審議員の先生とお話しをしているといい方ですけれども、やはりご自身が高所得層という意識すらないです。
(安藤)
自分たちは普通だと思っている。
(深田)
彼らは自分たちが普通だと思っているのです。東大を卒業して、30歳を過ぎると、年収が800万、1000万円になって、これが普通だと感覚なのですね。年収300万、400万円の人たちの生活がどれだけ厳しいか、あまり自覚がないです。
(安藤)
自覚がないし想像力もないです。
(深田)
体験したことがないですよね。
(安藤)
やはり、一度起業などをして、資金繰りの苦しさを経験すると、だいぶ状況が変わると思います。
(深田)
そうです。私も会社を経営していて、今は無借金ですが、企業を起こした時に信用金庫からお金を借りようとすると、審査員が来て「この会社は誰が経営しているのですか」と社長の私に聞いてきた。結婚しているのか聞かれて、離婚したと言うと別れた男にいくらもらったのか、別れた男からマンションもらっているのかとものすごく失礼なことを聞かれて、私は頭にきて「帰れ」と言って追い返しました。
お金は借りられなかったですけれども、それぐらい女性企業家はお金を借りられないのです。他の中小企業の経営者の話を聞いても、なかなか借り入れができていない。そんな中で景気は回復していないのに「回復しており、みんな幸せになっていくよ」とこんなこと書かれたらぶち切れそうになりますね。
(安藤)
日本のトップの人たちがこういう文章を書いて、大真面目に記者会見している。本当にばかばかしいです。
(深田)
これに突っ込む記者はいないのですか。
(安藤)
多分、記者会見の時には展望レポートまでは読み切れていないと思うので、突っ込まなかったと思います。
(深田)
GDPは回復していませんよね。
(安藤)
記者会見の中で質問は出ていましたけれど、(利上げは)今しかないという答えでした。総裁の答えは「今やれる時にやっておく」と。この後説明しますが、結局は利上げありきなのです。今回の利上げは「今やれ」と言われている。そんな感じですね。
・先行きの消費性向は、経済対策の影響による振れを伴いながらも、徐々に感染症拡大前の平均的な水準に戻っていくと想定している。
いつになるのかわかりませんが、時間をかければ戻っていきますよね。本当に適当な現状認識と先の見通しだと思います。
・住宅投資はさすがに隠しきれない。もう右肩下がりです。
これはしょうがないので、正直に書いています。
-今後の見通し-
・今後の金融政策運営については
・先行きの経済・物価・金融情勢次第であるが、現状の実質金利がきわめて低い水準にあることを踏まえると
・今回の「展望レポート」で示した経済・物価の見通しが実現していくとすれば
・それに応じて引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合を調整していく ことになると考えている。もっと金利を上げると言っている。どこからどう導いたらこの結論になるのか全然さっぱりわからないが、すごいことまで書いている。
(深田)
そもそも内閣府が出したデフレ脱却の4要件のうち1個しか満たしていないですよね。
(安藤)
需給ギャップもマイナスですね。
(深田)
需給ギャップはマイナスで、実質賃金も連続マイナスです。GDPデフレーターも弱いです。内閣府が発表しているデフレ脱却の要件を全然満たしていないのに、金利引き上げとは。
(安藤)
今回はさらに金利を引き上げるということまで予告したわけです。日銀は黒田東彦総裁の時は政府関係機関の中で唯一正しい経済判断をしており、最後の拠り所だと思っていたのですけれど、いよいよ日銀も向こう側に行ってしまって、絶望的状況ですよ。
(深田)
やはり中央銀行が独立していないことが恐ろしいです。
(安藤)
独立をしていいのですが、国民の暮らしを守るために政治から独立するのであれば、いいのですけれど、政治とおかしな意味で結託をしてしまった。
(深田)
そうですよね。FRB(米国連邦準備制度理事会)のレポートを見ていると労働者の賃金状況をすごく気にしているのですね。日銀が物価上昇に対して実質賃金が追い付いていないとか、そういうことを言ったことがないのが恐ろしいなと思います。国民のことを見ていないのです。
(安藤)
日銀は従前から「インフレを退治するのは日銀の仕事だ」みたいなところがあるので、そこばかりやっていて、賃金とか別にどうでもよい。とにかく今はインフレになっている。理由は何でもいいので、インフレなので利上げだという話になっている。
-実際の日本経済-
・実質賃金は26か月連続でマイナス
・2024年の上半期の倒産数は4887件
・上半期の倒産、2年連続の増加
・2014年以降で最多です。企業倒れまくりです。こんなに右肩上がりで伸びているという状況です。
(深田)
西田倒産も入っているのではいですか。
(安藤)
入っていると思います。
(深田)
西田昌司参議院議員に騙された企業が倒産しますよね。
(安藤)
負債額が小規模な企業の倒産が増えてきています。そういったところがまさにコロナ融資ですね。ゼロゼロ(無利子・無担保)融資が返せなくて倒れているところが増えています。
-利上げの真の理由-
結局は既定路線なのです。植田さんは総裁に就任する時から「お前は黒田路線を転換しろ」と金利を上げる、金融緩和はやめるということを「分かりました」と言って総裁になった。だから利上げは既定路線で、河野太郎(デジタル相)のように「円安なので今すぐ金利を上げろ」言う人もいます。そのような圧力が相当あったと思うので、今回はなんとしても利上げをしておかないといけなかった。
(深田)
経団連の圧力もありました。
(安藤)
ありました。9月になると自民党総裁選挙があります。総裁選挙が終わって「金利を上げるな」という人が間違って総裁になってしまうかもしれない。そうすると困るので今のうちにやっておかないといけない。衆議院選挙があって、間違って自民党が下野して、まともな政党が政権を取ってまともな経済政策をやってしまうかもしれない。
(深田)
それはないです。我が国には(まともな政党は)ないです。
(安藤)
アメリカの大統領選挙もある。誰がなるのか分からないが、アメリカの景気の状況も変わってくる。こういうことを考えると、今のうちに利上げをしないと、タイミングがなくなる。植田総裁は記者会見で「やれる時にやっておく」と言って、結局そこに行っているのです。
(深田)
選挙になる前にやっておくということですね。
(安藤)
そういうことですね。政治でゴタつく前にやっておく。残念ながらこれが今の日銀です。財務省を中心とする霞が関の官僚群も全然、日本経済や庶民の暮らしを立て直そうという政策をやらない。唯一日銀だけがなんとか踏み止まってやっていたけれどもそれもやめてしまった。
(深田)
岸田路線になってしまった。『ザイム真理教』路線ですよね。
(安藤)
そうです。そうなってしまいました。
(深田)
残念ながら官僚は庶民の暮らしを知らない。日銀も高級取りで、年収300万、400万円のキツさを知らない。政治家の皆さんも世襲、タレント、官僚出身で高年収の人たちばかりなので、庶民の暮らしがどれだけキツいのか全く考えない人たちの集団です。しかも中小企業は潰れた方がいいと平気で言う人たちが政権を運営しているとなると日本はどうなってしまうのか心配になります。
(安藤)
階級社会というか、本当に二極化が進んでしまった。以前は官僚になる人も地方などで優秀な人が東大に行って官僚になった。自分たちの田舎、実家は農家が多かったわけです。農家の子供たちが長男は家を継ぐけれども次男以下は家を継がないので、東京に出ていって官僚になるとか、そういう路線は多かったと思う。農家の暮らしが分かっていたと思うのです。
これは政治家も官僚もそうだったと思うのですが、今、官僚になる人は東京など結構裕福な子供たちが中高一貫校から東大に行って官僚になっている。農家の暮らしがわからない、農民の人たちがどうやって暮らしているのかという生活感がない。中小企業の社長の息子とかいるかもしれないけれど、中高一貫校に行ける人達は結構裕福です。だから町工場とかいう人はなかなかいないと思うのです。
(深田)
そうだと思います。だから庶民の暮らしというのが全く見えてない人がどんどん政府中央に入っていくことで、庶民の生活を全く見ない政治が行われている。景気は回復している、賃金も上がっている、減税もしたので、これからはみんなが幸せになれるかもしれないという嘘をついた上で日銀利上げが行われているというお話を安藤先生からいただきました。先生ありがとうございました。