「石丸選挙戦術と全体主義」安藤ひろし×深田萌絵 No.84
【目次】
- 00:00 1. オープニング
- 01:05 2. 悪者と闘う正義の味方のパフォーマンス
- 04:29 3. 言論封殺の独裁者タイプの手法
- 08:35 4. 集中力と思考力を奪うショート動画を繰り返す
- 12:01 5. シンプルなスローガンの反復と感情的な映像
- 15:20 6. 安芸高田市の新市長は反石丸派が答え
(深田)
自由な言論から学び行動できる人を生み出す政経プラットフォーム、ITビジネスアナリストの深田萌えがお送りします。今回は前衆議院議員で税理士である安藤ひろし先生にお越しいただきました。安藤先生、よろしくお願いします。
(安藤)
よろしくお願いします。
(深田)
先月の都知事選で一番名前をあげたのは石丸さんだったのではないかと思いまして、先日、石丸旋風を仕掛けたと言われている「選挙の神様」藤川さんに、いろいろと解説をしていただきました。石丸さんについては賛否両論で、「すごくかっこいい」とか「はっきり言っていて素晴らしい」という人もいれば、「ちょっとどうかと思う」という人もいますが、どう思われますか。
(安藤)
非常に危険な人物だと思っていますね。
(深田)
どういう点が危険だと思われますか。
(安藤)
彼が東京都知事選に出ると表明してから、選挙が終わるまでは名前を言ってはいけないと思っていました。自分のYouTubeでも絶対に名前を言わなかったのです。宣伝になってしまうし、表に出してはいけない人という扱いをしていました。
(深田)
どうしてそのように思われたのでしょうか。
(安藤)
安芸高田市の市長をやっていた時のショート動画が、いっぱい出回っていましたよね。分かりやすいメッセージを短い動画で切り取って、YouTubeやTikTokに流していました。みんなが敵だと思っている人を公に敵として認定し、その敵をキレイに叩いて正義の味方として見せ続けるという構図です。
これは大衆に考えさせない宣伝方法です。分かりやすいのは、シンプルなスローガンを反復することです。
(深田)
維新の会や小泉元首相が使っていましたね。
(安藤)
そうです。維新の会であれば「身を切る改革」、今回の石丸さんであれば「東京を動かそう」ですね。シンプルで誰もが覚えやすく、繰り返し言えるようなスローガンを反復して言っていくのです。
(深田)
「身を切る改革」や「東京を動かそう」というのは、意味がよく分からないのですよね。
(安藤)
意味は分からなくてもよいのです。覚えやすくて、何となくそうだと思えることが一番大事なのです。
次に感情的な映像の利用があります。先ほどお話ししたような、国民を苦しめる敵を叩く力強い正義の味方を映像で見せるのです。
(深田)
橋下さんがよく使っていました。敵と味方の構図を作り、敵を叩いて自分の名を上げていく手法ですね。小池さんも、最初の都知事選の時に「都連のドン」という悪い人と戦う構図を作り、「築地を守るのは私です」と言っていましたよね。結果的に全く逆のことをしていましたが。
(安藤)
石丸さんの場合は、みんなが悪い奴だと思っている、例えば政治家が既得権益にしがみついて仕事もしないで高い給料をもらっているというイメージを利用し、その悪い市会議員を正論でぶった切るという絵を切り取るわけです。それを続けていくと人気が上がりますよね。彼は最近自分で言っていましたが、どうやったら効果的なセリフになるか考えて議会に臨んでいたそうです。
(深田)
収録することを前提に、決め台詞を用意していたのですね。
(安藤)
そうです。そして、安芸高田市の市議会の様子がYouTubeに上げられると、それを切り取って動画にしたい人たちが、またYouTubeに上げる。そうするとYouTuberとしては儲かるわけです。安芸高田市に行ったこともない、愛着もない人が動画を上げて拡散していくのです。
また、敵を標的化し、既存の政治勢力やマスコミを叩くというのも、橋下さんの手法そのものです。マスコミもあまり好感をもたれていないことがあるので、「不勉強なマスコミが取材に来たから、彼らを懲らしめてやる」という勧善懲悪の構図を作るのです。
(深田)
それも完全に橋下さんの手法ですね。「勉強して出直してこい」と言われると、普通の日本人は恥ずかしくなりますからね。
(安藤)
これをやっていくと何が起きるかというと、議員やマスコミもYouTubeなどで切り取られて標的にされるのは嫌ですから、だんだん萎縮して反対意見を言わなくなりますよね。そうなると民主主義は成り立たなくなります。議会でも議員をそうやって攻撃していたら、反対意見が言えなくなりますよ。議会が成り立たなくなりますよね。そういう言論封殺の手法を見事に使っているわけです。
(深田)
石丸さんは、橋下さんを尊敬していると言っていましたが、少々厳しい言い方ですけれど、果たして橋下さんは尊敬するに値するのかと思ったのですよね。
(安藤)
怖いのは、首長や知事が強いリーダーになって反対勢力を徹底的に潰していくと、議員は必ず権力者になびくようになりイエスマンが周りを固めるようになることです。そして、その人たちが権力を持ち続けると、反対勢力を弾圧するようになるわけですよ。「俺たちは強いのだ」、「俺たちは正論を言っている正義の味方だ」ということになり、それに反対する人たちは「抵抗勢力で悪い奴らだ」という構図が出来上がります。
この短い動画などに騙されている人たちは、この強い人を無意識に無条件で応援するようになるのです。こうやって全体主義ができていくのですよ。この人は絶対正しい、抵抗する人たちはとんでもない悪の権化で、既得権益を守りたい抵抗勢力だ、というような構図ができあがっていくのです。
(深田)
政治は本来いろいろな意見がある中で、それぞれの権利や利益を調整しないといけない場所なのに、それが偏ってしまうと不公平になってしまいますよね。
(安藤)
そうです。調整の場がなくなって首長の意見だけで物事が進むようになると、まさに独裁化していくわけです。安芸高田市の市議会議員たちは、見せしめのように動画でどんどん晒されて、全国から嫌がらせを受けることになりました。その動画をそのまま信じて「とんでもない市議会議員がいる」と思い込んで攻撃する人がいるのですよ。他の市のことは関係ないのに、普通そこまでやらないですよね。でも、そういう人が出てくるのです。
(深田)
石丸さんの動画を見た時にコメント欄を見たら、「かっこいい」「かっこよすぎる」というコメントが多くて、特にかっこいいことを言っているわけではないのに不思議な現象だと思いました。藤川さんも、「石丸さんの演説は内容がない」と言っていましたね。でもあんなにウケて、ネットでもてはやされて、ちょっと宗教がかっている。支持層も10代~30代の比較的若い層で、自分たちのような年代では分からない感覚だ、とのことでした。
石丸さんは41歳で、私は46歳なのですが、私には石丸さんの良さがあまりわからないのですよ。たしかに40歳以下の層にはウケているけれど、本当にそんなにかっこいいか、もてはやすほどのことを言っているかといえば、そうでもないと思います。
(安藤)
おそらく、みんなが思っていて言ってもらいたいことを言っているのです。市会議員は悪いヤツで、それをぶった切ってもらいたいとみんなが思っている。それを見事にショート動画で見せて、見ている人に快感を与えているわけです。
(深田)
だからスカッとするのですね。
(安藤)
そうです。その動画を繰り返し見たくなるので、再生回数がどんどん上がるのです。繰り返し見ているとどんどん快感になって、もっと見たい、もっと聞きたいと思うようになる。それこそ宗教や麻薬のようになっていくわけです。
(深田)
TikTok脳といわれるものと同じかもしれませんね。アメリカで論文が出ているのですが、短い動画を何種類もランダムに見せられて、面白い動画が出てくるとドーパミンが大量に分泌されるので、それがTikTokにはまる原因になっていると聞きました。TikTok脳といわれる脳のパターンにハマっていくそうです。そういう人たちは集中力がなくなっていき物事を深く考えられなくなるようで、脳にかなり影響があるみたいなのですよ。
本来政治の場では、ややこしい話が多いですよね。法律を作るときに利益になる人や不利益になる人が別れるので、公平になるように、みんなが便利になるように作り込んでいかなければいけないのですから、30秒や1分の動画に収まるはずがない。そういうことを考えると、切り取った短い動画だけで繰り返しスローガンだけ、寝ている議員を叱るだけだと、若年層には気持ちいいかもしれないけれど、実際に政治の場で本当に議論しなければいけないことが読み取れなくなるのではないかと心配しています。
(安藤)
その通りです。ですから選挙戦でも、15分で演説を切り上げて次の場所に行くわけです。みんな飽きてしまって長く聞いていられないから。考えさせないためにシンプルなスローガンを反復し、感情的な映像を見せて敵を作り、娯楽として徹底してやっています。
(深田)
小泉さんが郵政改革をやった時や、橋下さんが出てきた時の大衆宣伝の手法をとっているのですね。
(安藤)
そういうことです。究極的に言えば、「こいつらはこういうことをやっていれば騙される」と国民をバカにしているのです。長く考えさせる必要がない、短いことをパンと言って、それで支持してもらえばいいのだという考え方です。
(深田)
石丸さんを縁の下で支えていた藤川さんが、実は女性票をあまり集められなかったと言っていました。若くてルックスも悪くないのですが、キャスターに対する受け答えもかなり厳しかったので、優しさや包容力を感じられない部分が、女性の心を掴めなかった要因なのかなと思います。
(安藤)
政治家としては、頼りになるとか守ってくれるという印象が必要です。特に首長をやる人は、「俺に任せてくれ、みんなをちゃんと面倒見るから」というような優しさが必要だと思うのですが、石丸さんにはそれが感じられないですよね。
安芸高田市の市議会議員たちも、攻撃対象になって嫌な思いをしたと思います。あのような小さな街では、みんな知り合いですからね。真面目にやっている地方議員は多いのですよ。市議会議員たちも既得権益を得るためにやっているわけではないと思います。たしかに喋りは下手かもしれないけれど、みんなそれなりに支持を得て代表として出てきているのだから、それを罵倒したりしたら会話が成り立たない。まがりなりにも市民の代表なので、合意を得て前に進めていくのが政治ですから、派手な見せ方をしてはいけません。
(深田)
安芸高田市では新しい市長が誕生しましたよね。反石丸派が今回勝ったというのが、地元の人の答えではないかという人もいますね。
(安藤)
その通りです。あんな小さな町で、敵味方でギスギスしていたら嫌じゃないですか。
(深田)
そうですよね。石丸さんがどういう人なのか、藤川さんにいろいろ聞いたのですが、今度紹介してくださるそうなので、お会いしてどういう方なのか見極めてこようかなと思います。
(安藤)
それは楽しみですね。
(深田)
はい。ということで今回は、安藤ひろし先生に石丸さんはどういう人なのかについてお話を伺いました。ありがとうございました。