#68― 森功 × 深田萌絵 「日本を操る黒幕列伝第三弾『雇用を破壊したのは〇〇』」

(深田)

自由な言論から学び行動できる人を生み出す政経プラットフォーム。ITビジネスアナリストの深田がお送りします。

今回はノンフィクション作家の森功先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。

今回も「語ってはいけない日本の黒幕列伝第3弾」ということで、私の人生をめちゃくちゃにしてくれた男かもしれない、という竹中平蔵さんです。私の人生をめちゃくちゃにしたというのはちょっと語弊がありますが、非正規雇用化がここまで進んでしまった象徴としての竹中平蔵さんの裏側、闇について色々教えていただきたいと思います。

(森)

闇ですか。

(深田)

闇ですね。どんどん語ってください。

(森)

簡単に言ってしまうと竹中さんにしてもオリックスの宮内さんにしても、いわゆる規制緩和という新たな利権にスルッと入り込んで、そこで名を上げて儲けている。

昔のいわゆるゼネコンや金融といったタイプの贈収賄とか、そういう形での悪さではなくて、もっとスマートなイメージと言えばいいのでしょうか。

ITやファンドやそういう新しい規制緩和の中で緩んだところに仕事を持ってきて、利権を漁ると言えばちょっと語弊があるかもしれませんが、利益を上げてきた、またはその利益を上げる企業で働いて、自ら高収入を得てきたということでしょうか。

(深田)

ネットでよく言われているのが、竹中さんが自分で問題提起して、自分でソリューションを提案して、そして自分で法改正をさせて自分で儲けるというサイクルを作っている。そのようによく野次られていますが、実際そうだということですか。

(森)

実際そうです。政府委員という肩書きをうまく使って政策提言をするというパターンです。

元々は小渕政権とか橋本政権時代からありましたが、象徴的に言われているのが小泉政権時代の規制緩和、規制改革推進会議という中で竹中さんが政策を提言する。その中で最後に残ったのが労働の自由化だと言われています。規制改革会議等々で竹中さんが人材派遣を押し進めるべきだと主張し、労働基準法が改正され派遣業種がどんどん広がっていった。 そこに人材派遣業者であるパソナがどんどん派遣していく。そういうパターンで、先程のネットで言われているという、ぐるっと回るその利権構造にはまっているという風に言えるとは思います。

(深田)

今の国民の低年収問題、年収300万円以下の人が労働人口の37%という現状は、労働規制の緩和で、派遣で扱える職種のが幅が広がってしまった結果ではないでしょうか。私自身が元々非正規雇用で働いていたので感じたのですが、派遣会社の人たちは労働していないというか、中抜き屋さんにしか見えないわけです。

悪い言い方をすると、もちろんマッチングなどもお仕事としては価値があるとは思うのですが、アメリカなどを見ると、派遣会社というのは短期の雇用を調整するための機能であって、一般の正社員の給料よりも高いプレミアムも取って、同一労働同一賃金は守っているので、非正規も正規雇用もそんなに給料に差がないですし、あってはいけない。一方、日本の派遣の実態は非正規雇用の方は正規雇用の方よりも明らかに賃金が少ない、平均で3割少ない。ということは派遣会社が3割抜いているわけです。今の日本社会の中でそのような低収入問題を生み出した本人がまさに竹中さんではないでしょうか。

(森)

竹中さんというか、彼がいた会社のパソナの南部靖之さんとか、そのあたりではないでしょうか。また政治的に言うと小泉純一郎さんとかではないかと思います。

元々人材派遣というのは日本では口入れ業と言われて、昔は忌み嫌われていた。これはヤザがやる商売だったのです。ヤクザが港湾労働者だとか、いわゆる人夫出しという、よく言われる建設労働者、日雇い人夫などを集めて差配しピンハネをする。それがヤクザの収入源になっていたので、そこは規制すべきだということで規制していったのが、元々の始まりだった。

タイプライターだとか通訳だとかそういう特殊技能を持っている人の場合は、派遣されても特殊技能で優位にあるから言い値で雇ってもらえるというメリットがあったからよかった。しかし、建設工事の労働者や港湾労働者などは、特に肉体労働者は、こういう言い方には語弊がありますが、要は特殊技能がなくても一生懸命働けば仕事ができるということですよね。だから、その分安く働かせられる職業だから、逆にそれは守らないといけないから、派遣業種から外してきたわけなのです。ところが、そういうところまでどんどん広げていった。それが労働の規制の自由化ということですね。

(深田)

そうですね。おかげで我々の世代、ロスジェネの世代は結構非正規雇用が多かった時代だったので、みんな職にあぶれ、職が見つかっても非正規で、安い給料で働いて貯金もできない、結婚もできない世代となってしまった。自分は被害者なのかなとは思っています。でも竹中さんの一番の功罪はやっぱり郵政民営化でしょうか。

(森)

これは諸説あるといいますか、基本的に竹中さんは、郵政民営化はできませんでした。

確かに竹中さんは小泉政権の中で脚光を浴びました。ITバブルが起きて、一時日本は景気が良くなったように見えました。しかし、バブルが崩壊して、新自由主義というかそういう規制緩和のまたはその市場テストのような経済特区制度の見直しが図られていった。それが結局、自民党が下野して民主党政権に移っていくきっかけになっていくわけですが、その中で竹中さんに対する批判が高まっていった。小泉政権末期に竹中さんは総務大臣に抜擢されて郵政民営化を託されていましたが、結局竹中さん時代はできなかった。その後に竹中総務大臣の時の副大臣である菅義偉さんに後を託すことになっていくわけです。

だからそういう意味では、そこで竹中総務大臣、菅義偉副大臣という師弟関係が出来上がって、それが郵政民営化なり、今の規制緩和、新自由主義的な路線の継承をしていく。その中に楽天の三木谷さんとか南部さんも入って行く。

竹中さんが南部さんと知り合うのが総務大臣を辞めた後でした。批判が高まって辞めた後に知り合ってパソナに拾われるわけです。拾われたというのもパソナの南部さんにとっては竹中さん自身が労働の規制緩和をずっと言ってきたから自分のところで迎え入れたかったと言った方が正しいかもしれません。迎え入れて竹中さんを切札として使おうとしたということではないでしょうか。まあ、実際そうなっていったわけですね。

(深田)

では、竹中さんはそもそもずっと南部さんと仲が良かったから労働の規制緩和をしたというわけではなくて、これは逆だったということですね。郵政民営化は、竹中さんは失敗して菅さんが引き継いだ。

(森)

そうそう。菅さんが引き継いだ。未だに菅さんはそれを引き継いでいます。総務族、郵政族という風に言われていて、当時NHKの国有化とかそういうことまで画策していったけれどもできなかった。それは竹中・菅コンビでやろうとしたということです。それは後の安倍政権のNHKの介入に引き継がれていくわけです。

(深田)

なるほど。では、郵政民営化の時に、宮内義彦さんが結構暗躍したということもあるかなと思いますが。

(森)

そうですね。宮内さんは後に民営化された郵便局の施設、郵貯、簡保の宿などを買い取ったりしました。これも安く買い叩いたというので後に問題になりましたが、それも回す利権構造の中の一環です。そういうふうに見えます。

(深田)

なるほど。オリックスの宮内さんが簡保の宿を安く買えるという、その際に先に情報が入ってたとかそういうことなのでしょうか。

(森)

そこは結局よくわからなかったですね、取材はしたけれども。ただ情報が入っていても不思議ではないということは、少なくとも郵政民営化を進めた二人だから、それはどういう風な仕組みに なっていくか、または後の日本郵政の社長に誰を据えるかとかそういうのは宮内さんとは違うけれども竹中・菅、特に菅さんが決めていくわけです。

NTTにしてもそうだし、そういう放送関係だとか郵政関係とか通信関係とか、自由化の中で彼らが民営化された会社に自分の肝いりの社長を送り込んでコントロールしていくというような構図ではないかと思います。

(深田)

自分たち政治家が決めた社長を送り込むのであれば、民営化する意味がなかったのではないでしょうか。

(森)

一応民営化はアメリカからの要求であり、民営化というお題目がないと、いわば新たな権力構造の付け替えというか、それができない。これまでは総務省、郵政省が所管して、国が手足を縛って、それが天下り先になっていた。それは怪しからん、民間に市場を開放しろとアメリカやイギリスのプレッシャーがあった。その政策に従っていったのが、元々は中曽根時代から始まって小泉さんになりそれが日本の今の形になっていっているわけです。その新たな政策の流れに乗って民営化はいいだろう、しかしその民営化の中で新たに生まれた利権は自分たちのものにするというのが竹中さんであり宮内さんでありということじゃないかと。

(深田)

なるほど。総務大臣ってかなり絶大な権力を持っているということですね。

(森)

そうです。だから放送、通信、郵政、この三つですね。かつてはそれぞれに大臣がいたけれども、官庁の再編で合体して巨大利権官庁になったということですね。

(深田)

今、NTT法を廃止してNTT株を売ろうという流れもありますね。

(森)

そうですね。それもNTTの民営化以降の利権争いですよね。元々は郵政省の天下り先が電電公社で、それが中曽根首相の下で民営化された時に、民間の真藤(恒)さんが社長として行った。その流れに乗っかっていって菅さんの盟友である増田さんがNTTの社長になって、菅さんの政策に近い形で動いて、それで自民党の中では甘利さんとか、甘利さんと菅さんは関係が良くないけど、萩生田さんなんかもそうですね、NTTの株の放出を謳っています。

(深田)

言い出しっぺ は萩生田さんですよね。

(森)

萩生田さんと言われていますが、甘利、萩生田のどちらなのでしょうかね。

(深田)

甘利さんと萩生田さんは結構密なのですか。

(森)

そんなに密な感じもしません。甘利さんは麻生派ですから菅さんとは密ではありません。それはつまり派閥なのですが、萩生田さんは不思議な人でいろんな人と仲がいいから、甘利さんともちろんうまくやっている。 菅さんとも仲良くやっているし、そういう意味では甘利・萩生田でやっているという風に考えていいと思います。

(深田)

TSMC誘致の際も、甘利さんと萩生田さんが結構動いていて—

(森)

萩生田さんは経産大臣だったし、経産族ですから。

(深田)

NTTも今売却されてしまうと我が国の通信インフラが外資のものになってしまって、結局は携帯電話の料金なども上がるのではないのかとかいうことを心配しているのです。

(森)

そうですね。一方でこれは通信インフラなのだから政府がある程度保有しておくべきだと、NTT法でそういう風に定めて、そこは一応規制をかけているわけですが、NTT側にとってはそっちの方がいいわけです。株を政府に持ってもらっている方が。むしろ完全に民営化すべきだということを言っているのは楽天、ソフトバンクや新たな事業者です。楽天が大きいのでしょうが、要はNTTに対抗するためには、NTTと政府との関係を薄めてもらわないと、つまり、インフラとしてNTTがずっと通信網を持っていたら、自分たちが勝負にならないということで、働きかけているという風に考えています。

(深田)

そうですか。でも今回、実はNTT法廃止に一番反対しているのがソフトバンク、楽天、KDDIなのですよね。

(森)

NTT法廃止に?

(深田)

そうなのです。

(森)

そうかな。

(深田)

彼らは最初はNTTがインフラを独占しているのはずるいじゃないかと、ずっと言い続けてきたわけです。ところが、元NTTの澤田(純)会長が、先日の岸田首相の訪米の時に、一緒にアメリカに行って、ディナーパーティーに出ているのです。NTT法を廃止してNTT株を売れと圧力をかけているのがブラックロックのCEOで、その人も晩餐会に来ているわけです。

ですから、おそらくNTTの澤田会長は、JRの葛西さんのように、NTTを完全に政府株から引き離して、政府持ち分を引き離して、自分はドコモの会長になろうとしているのではないかと思います。

ドコモが毎年一番儲かっている。ドコモが儲かるというのは、NTTのインフラを使っているからです。そうなってくると、今ソフトバンクとか楽天、KDDIというのは、日本の通信インフラの75%であるNTTの上に乗っかっているだけです。

これがブラックロックに売られて、通信インフラの使用量がガーンと引き上げられてしまう。そうすると、今度危ないのは自分たちだということに気がついて今慌てて反対している。これまではNTTを民営化せよと言っていました。

(森)

言っていましたね。

(深田)

ところが通信インフラが外資のものになるとなった瞬間、今度は負け組になる、これまでは自分たちのものにしようとしていたものが自分たちの頭一個飛び越えてアメリカのブラックロックが来てしまった、黒船が来たということで今慌てているという感じなのです。

(森)

では、NTT法廃止にならないということですか。

(深田)

いや廃止になると思います。一応2025年を目処に NTT法を廃止するという方向で今年(2024年)の3月に決議が通っているので来年ぐらいがちょっと危ないのではないかと思います。

今はKDDI、ソフトバンク、楽天の方々が一生懸命自民党に対して反対意見を出しているところで、萩生田さんとか甘利さんが、今ものすごい勢いでNTT法廃止に向かって猛進している。これがなかなか止まらないかもしれません。

(森)

そうですか。廃止を訴えたのは萩生田・甘利で、私の認識ではそれを後押ししているのが、楽天かなと思ったのですが、そうではないということですね。

(深田)

今はそうではないという感じですね。表面上はそう見えます。NTT法廃止に反対する181社のグループがいて、そこに楽天、ソフトバンク、KDDIが三巨頭として中心になっています。今はNTT法廃止反対派になっています。

(森)

今は反対していると。

(深田)

今は反対しています。元々彼らはNTTはずるいじゃないかと言ってきていました。ソフトバンクとか。通信を自由化しろ、自由化しろと言ってきましたが、その自由化の時に自分たちが牛耳れると思って動いている間は良かったけれども、ブラックロックが出てきたらアメリカ様だから戦いようがないわけです。

(森)

要するにNTT法を守れということですね、廃止に反対というのは。

(深田)

廃止に反対、守れという風になってしまった。

(森)

なるほど。廃止しろと言ってきたのが、守れとなったのは、ブラックロックが乗り出してきたから、反対にまわったということですね。

(深田)

 黒船が出てきたのですね。私も最初思いました。ソフトバンクはNTT法廃止に賛成していたというかー

(森)

少なくとも当時は賛成していました、今年の3月ぐらいまで。

(深田)

そうですか。

(森)

賛成していました。それは少なくとも楽天が中心ですが。

(深田)

そうですか。私の認識では、去年の11月、12月ぐらいは反対の方向で彼らは動いていたのですが、この 3月以降はもう賛成に回っているということなのですか。

(森)

以降というか、そうですね。だから廃止しろということですね。つまり、NTTの株を売れということですね。そういう風な認識です。

(深田)

そうですか。なるほど。ちょっと私ももう少し勉強をして—

(森)

いや間違っているかもしれない。どうなのでしょうか、そこはちょっと分からないですね。

(深田)

私もこれからしっかり勉強していきたいと思います。

(深田)

はい、ということで、今回は「語ってはいけない日本の黒幕列伝」、竹中平蔵が総務大臣として郵政民営化を進めて利権を取ったのかと思ったら意外とそうではなかった、と。漁夫の利は他の人が持っていったということを森功先生からお話をいただきました。森先生、今回もありがとうございました。

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