#69- 牧野知弘 × 深田萌絵「金利上昇で不動産ブームに陰り!?」

(牧野)

先日、総務省から発表になったのですが、全国の空き家の数は900万戸だそうです。

(深田)

900万戸ですか?

それ貰いに行った方が良いのではないでしょうか。

(牧野)

貰えるでしょうね。熨斗紙つけて渡したい空き家のオーナーはたくさんいますので。

もちろん良い場所ばかりではなく、地方の誰も住まなくなったような家も多いのですけれど、これをよく分析してみると、半数ぐらいは耐震性もあり、駅から10分以内で歩けるような普通の住宅が多いのです。

そういった家がある反面、都心のマンションや不動産はとても値段が上がっています。

野村総研が出しているデータですが、日本の世帯を、保有している金融資産別に分析してピラミッド型の表にしたものがあります。2021年のデータですが、ピラミッドの1番上は金融資産で5億円以上、これは負債を除く純金融資産です。その下の1億から5億は富裕層、5千万から1億を準富裕層、3千万から5千万をアッパーマス層、それ以下をマス層と定義づけています。これによると1億円以上の純金融資産を持っているのは148万世帯もあるのです。

(深田)

純金融資産なので不動産を入れずに5億円以上の現預金、もしくは投資しているお金があるということですね。こんなにお金持ちがいるのですか。

(牧野)

148万世帯というのは、日本の世帯数から見ると2.2%ぐらいなのですけれども、この2.2%の人たちで全体の金融資産の2割以上を持っています。

(深田)

2%の人が2割のお金を牛耳っているのは、すごいですね。

(牧野)

この人達は年々とても増えています。先ほどの純金融資産保有額を階層別に分けて、世帯数がどのくらい増えているかというグラフがあるのですが、約20年前の2005年を指数化して100にし、2021年までの推移を見ることができます。

(深田)

このグラフを見ると、超富裕層と富裕層が激増していますね。1.7~1.8倍ぐらい増えています。

(牧野)

大体2013年ぐらいから急激に伸びていますよね。

(深田)

アベノミクスですか。

(牧野)

そのとおりです。つまりマーケットに大量にマネーが流れて、本来はこれが企業の設備投資や新たな産業の育成に使われるという名目で始まったのですが、日本企業はあまり借金の需要がないのです。

部門別の資金需給過不足という日銀が発表しているデータを見ると、いわゆる金融機関を含まない民間の法人は、この20年ぐらい常に資金余剰の状態なのです。

要は資金需要がないということです。それなのに、ものすごい大量のマネーをマーケットに出した結果、これが株と不動産に流れたのです。

(深田)

私も、アベノミクスは少しおかしいと思っていたのですよ。自分も金融機関出身なので感じるのですが、企業は結構お金を持っているので、投資需要のニーズはあまりないのです。

ただ中小企業はお金がないのですが、彼らは金利が高くてゼロ金利の恩恵が受けられない。そして一般庶民もゼロ金利の恩恵を受けていない。では、誰がこの恩恵受けているのかというと、やはり大企業と外資のファンドですよね。

ゼロ金利で借りられるところだけにお金が流れて、その一方で、私たちは消費税増税でお金を持っていかれてしまった可哀そうなマス層です。

(牧野)

このデータだけ見ても分かりますでしょう。

(深田)

アベノミクスは、やはり富裕層優遇政策だったのですか?

(牧野)

富裕層は大絶賛ですね。これだけお金持ちが増えたわけですから。

(深田)

そうですよね。なぜその波に乗れなかったのだろうと思うと、リーマンショックの後なので、どう考えても一般庶民は一番お金がない時期で、投資できないのですよね。

(牧野)

そうなのですよね。これが一般庶民の辛いところで、いざオープンになって、さあみんなでお金持ちになろうと言った時に、軍資金がなければ参加できないのですから。その結果、こうやって世帯間でも格差がどんどん拡大していき、この流れがなんと10年ぐらい続いたので、もう無視できないぐらいの拡大に繋がっているのがよく分かると思います。

(深田)

本当にそう思います。お金持ちばかりがどんどん不動産に投資をして、そうすると私たち一般庶民が住みたいと思うような便利なところの地価まで上がっていって、家賃も上がっていく困った状況を生み出していますよね。

(牧野)

こういう話をしていくと、多くの人が、やってられないとなりますよね。「家も買えないし、税金はやたら高いし、物価もどんどん上がっていて、実質賃金も連続でマイナスである」という風に報道されている中で、お先真っ暗になりますよ。

(深田)

本当にそう思います。これだけインフレで実質賃金25ヶ月連続マイナスですものね。

(牧野)

私のところにも、「家買うのは諦めた方がいいのでしょうか」とか、「まだまだ上がるのであれば、無理して大きな借金を背負ってでも買った方がいいのでしょうか」というような質問がたくさん来るのですが、今日は1つ明るいお話をしましょう。

いきなり高齢者の話になりますが、首都圏高齢者構成というデータがあります。これは2022年1月末時点での、東京、神奈川、埼玉、千葉の高齢者の数を棒グラフにしたもので、75歳以上の後期高齢者と、それ以下の高齢者で色分けされています。これを見ると、ちょっと驚きませんか。

(深田)

かなりの数ですよね。

(牧野)

まず1都3県で、高齢者が合計900万人います。そのうちの半分が75歳以上なのですよ。このデータは2022年現在ですから、一番の人口ボリュームゾーンである団塊の世代は、まだ75歳未満なのです。これが2025年になると、約155万人、首都圏にいると言われている団塊の世代も後期高齢者になってきます。

(深田)

本当にそうです。私の親も団塊の世代なのですが、あと2年で75才になります。

(牧野)

では、ちょうどですね。こうなってくると何が起こると思いますか。

(深田)

この人たちが住んでいる家はどうなるのか、ですよね。

(牧野)

そうです。いまの日本人の平均寿命は、男性が81歳、女性が87歳ぐらいですから、当然年を重ねていくと亡くなる人が増えていきます。平均寿命から見ても男性の方が割と早く亡くなられて、高齢女性の単身世帯が実は増えています。

全国の統計で、「高齢単独者世帯数と高齢者世帯に占める比率推移」を見てみると、半分以上が、単身世帯です。

ということは、先ほど首都圏には900万人ぐらい高齢者がいるという話をしましたが、もちろん子供さんと一緒に住んでいるご家庭もあるでしょうけれども、都会になればなるほど少ないですよね。そのうちの約半数が単身ということは、あと10年、例えば2030年前後ぐらいにこの人たちは平均寿命を迎えることになります。

(深田)

そうですね。あるいは施設に入るという選択を取られますよね。

(牧野)

こういった人たちが住んでいる所は、東京だと大田区や世田谷区、練馬区などが多いのです。

(深田)

人気エリアですね。

(牧野)

そうですね。お一人で住んでいたお婆さんが施設に入ったり亡くなられたりすると、息子さんや娘さんがそれを引き継ぎますよね。例えば萌絵さんが引き継ぐとすると、自分の家を買わずに引き継いだ家に住めるとしたら住みますか。

(深田)

私の実家は大阪なのですが、エリアが違うので、空いても住まないですよね。

(牧野)

相続で手に入った実家に自分が住まなければ、貸すか売るかです。そうしないと、都内や大阪市内では、ただ持っているだけで固定資産税の負担が大きいですから。マンションを相続してしまうと、それ以外に毎月管理費と修繕積立金を自動的に徴収されます。都内ですと、だいたい毎月4~5万円くらいでしょうか。全然使っていなくて、人にも貸していなければ出ていく一方です。

(深田)

都内のマンションの管理費は高いですよね。下手したら普通の人の年金ぐらい取られます。

(牧野)

絶対貸したり売ったりしますよね。それだけ大量の予備軍、この大都市圏にいるこの人たちの所有する不動産が、2030年前後に大量にマーケットに出てきます。そうすると、先ほど話していた投資家や外国人は、この世田ヶ谷や練馬のマンションや戸建住宅を全部買うと思いますか。

(深田)

大阪などは民泊で長期滞在する人もかなりいますから、そういった需要があれば良いですけれど。

(牧野)

1棟100戸もあるマンションが、全部民泊になると思いますか。

(深田)

確かにそうですよね。

(牧野)

そういった意味では、住宅のマーケットは、マンションも戸建住宅もですが、だいたい2030年前後にマーケットの大きな転換点が現れます。

(深田)

いまマンションが高すぎて買えない人たちに、朗報ということですね。

(牧野)

そうです。もちろん家はお金儲けのために買うものではないと思いますし、お子さんの問題や家族の問題で、買いたい時に買うべきだとは思っています。ただ、一番言いたいのは、「みんなが買っている」あるいは「高くなっているから早く買わないと」と思って無理をすると、数年後マーケットが大きく変わった時に、自分の環境も変わって住宅ローンが返せなくなったり、あるいは夫婦仲良くペアローンで買ったのに、夫婦仲が悪くなってしまったなど、いろんな事態が考えられますよね。将来を考えると、むりやりリスクをはって買わなければいけない状況にはないということです。

(深田)

確かにこれからインフレでどんどん物価も上がるけれど、金利も上がりますよね。

(牧野)

そうです。金利も間違いなく上がりますよ。もちろん上がらないと言う人も何人もいます。日本が鎖国していれば日銀の金利のコントロールの中で、国債も全部日銀が持っているから金利は容易に上げられないというような説はありますね。ただ、私も昔金融機関にいましたけれども、金融マーケットは全部世界と繋がっていて、私たちの論理だけでは動いてはくれません。とても残酷なマーケットですから、あまり甘く見ない方がいいです。

(深田)

しかも、金利が一番大きいマーケットですものね。

(牧野)

すこし話は逸れますが、ニューヨークやロンドンなどで、日本の不動産会社や企業がオフィスビルを建てたり、保有したりということがかなりありました。欧米の場合、ノンリコース・ファイナンスという、それぞれの物件を担保にした融資だけをよく採用します。つまり会社本体には影響を及ぼさないようなローンの形態なのですが、金利が上がると自動的に利払いも上がってしまうので、そういった日本企業保有のオフィスのテナントは埋まっていても、金利が上がることで赤字になる事態が起こっています。

(深田)

もう始まっているのですか。

(牧野)

始まっています。

彼らに聞くと、約半年で金利が5%ぐらい上がってしまったそうです。そのビルに対して行っているファイナンスが、変動金利ですから、当然金利が上がると連動して上がってしまうのです。

(深田)

私は変動金利反対派です。特にゼロ金利なら変動金利を選ぶ理由はないのに、なぜ変動金利選ぶ人がいるのだろうと思います。

(牧野)

最初の飲み口がいいから飲んでしまうのですよ。あとで大火傷をするかもしれないとういうことを考えないのでしょうね。私も、不動産ファイナンスをずっとやっていたので、かなり痛い話だなと思って聞くのですが、現実に起こるのです。

住宅ローンを変動金利で組んで、「金利は上がらない」と祈ったり思ったりするのは自由ですけれども、私は「35年前を思い返してほしい」とよく言います。例えば35年で住宅ローンを組むことがありますが、この30年の間だけでも世の中はとても変化していますし、金利もかなり変動しています。ですから、今のままの状態で30年間、世の中が平穏無事に流れていくとは思わない方がいいでしょう。

(深田)

本当にそう思います。特に政治と経済は密接に動いていて、中央銀行といえども政治家の顔色を伺いますし、変わる時はやはり変わります。

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