No.62 深田萌絵×牧野知弘「都内マンション億越えの犯人」

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【目次】

  • 00:00 1. オープニング
  • 00:45 2. 都内のマンション平均価格は1億円超え
  • 04:21 3. 価格が上がっても市場は縮小していない
  • 08:01 4. 投資マネーが高額な市場を支えている
  • 11:18 5. 不便な所でも売れている
  • 15:47 6. 地方都市は明暗がはっきり分かれる
  • 19:18 7. 家を持つ夢が消えてしまった

(深田)

自由な言論から学び行動できる人を生み出す整形プラットフォーム。ITビジネスアナリストの深田萌絵がお送りします。今回は経済社会問題評論家の牧野知弘先生にお越しいただきました。先生、よろしくお願いします。

先生、今回は最近首都圏、特に東京都内のマンションの地価が高騰しているということで、5000万円台で買えたはずのものがいつの間にか1億円を超えていたという現象について詳しく教えていただきたいのですけれども。

(牧野)そうですね、特に最近都内のマンションが高いということはよく報道されていますが、実際にかなり高くなっています。いくら住宅ローンの金利が安いと言われても、普通の一般の方々からすると、マンションがどんどん手の届かない存在になっているという声をよく聞きますね。

(深田)

そうですね。私も自分もそろそろマンションを買った方がいいのかなと思いながら、近隣のマンションの価格を見ていたら、どんどん高くなっていて、これは手が届かないなって感じています。中古のマンションですらものすごい値段になっていますものね。

(牧野)そうですね。では、マンションがどのぐらい高くなっているかをデータで見てみましょうか。

こちらの表は、左が首都圏、つまり13都県のマンションの平均価格の推移です。棒グラフが平均価格、折線グラフが1平米あたりの単価です。2007年から2023年の15年間の推移を見ると、この2023年に急に上がっているのが分かりますね。

(深田)いきなり3割増しぐらいですか。

(牧野)はい、そうですね。それと1平米あたりの単価も急激に上昇しており、価格で言うと8000万円を超え、1平米あたりの単価でも122万円ぐらいになっています。東京都内に限って言うと、平均価格は1億1000万円を超えています。

(深田)

1億1000万円というのはもう庶民の手には届かない金額ですね。

(牧野)

昔はオクションというと高級マンションというイメージでしたが、今は普通のマンションが1億円を超えています。つまり、これからはマンションではなく「オクションを買いたい」と言わないといけないかもしれないですね。

実際に2人以上の世帯年収がどうなっているかを見たグラフがこちらです。左が2007年を起点としたもので、ブルーの棒グラフが平均年収、黄色が2023年で比較したものです。ご覧いただくと、この15年間で2人以上の世帯年収は全然増えていないどころか、減っています。

(深田)確実に減っていますね。

(牧野)

実際にはこの15年間で働き手は増えたはずなのに、年収で見ると増えていない。

(深田)

ゆゆしき問題ですね。

(牧野)

マンション価格は7割ぐらい上がり、単価に直すと2倍ぐらいになっています。

(深田)

収入は変わっていないのに、マンション価格だけが上がり続けている。昔、マンションを買った人は得だったということですね。転売すれば儲かるということですか。

(牧野)そうですね。特に2013年以降のアベノミクスと言われる大規模金融緩和が行われたあたりで買った人は、ほとんどが今売却すると譲渡益が出る状態です。

マンション業界を振り返ると、こんなに高くなっているから、よっぽど儲かっているかというのを次のグラフで見てみます。このグラフは毎年首都圏のマンションマーケットの市場規模を見たものです。

(深田)

マンションマーケットの規模自体は変わっていない。

(牧野)

そうなのです。つまり2007年ぐらいは、1都3県で売れている新築マンションの供給数は7万戸とか8万戸の規模だったのですね。ところが昨年2023年の新築の供給個数は2万6000戸で、2007年との比較で見ると、リーマンショック前の約15年の間にマーケットは3分の1に縮んでしまったのです。

普通なら、3分の1に縮むとマーケット規模もそのくらいに縮小すると思いきや、このグラフが示しているように、緑の市場規模、つまり全体のマーケットの規模を見ると、あまり変わっていないのです。

(深田)

マンションの供給個数は減ったけれども、価格がどんどん上がっている。

(牧野)

マンション業界から見ると、供給個数は減ったけれども売上はそんなに変わっていないのです。

それからもう1つの特徴は、この期間の間に市場の寡占化が進んで、大手の7社がマーケットを独占するようになったことです。いわゆるメジャー7と呼ばれる三井や三菱を含めた大手が主導権を握っています。

2007年と比較すると、デベロッパーの数は約4分の1になっています。

(深田)

それはリーマンショックの影響もありますか?

(牧野)

高額帯のマンションでマーケットが成り立つというところにポイントがあるのです。

こんな高いマンションを誰が買っているのでしょうか。よくメディアで「パワーカップル」という言葉が使われますが、実際にパワーカップルという定義は存在しません。日本経済研究センターによると、夫婦共働きでそれぞれ年収700万円以上の世帯をパワーカップルと呼んでいます。大体世帯年収1500万円ぐらいですね。

このパワーカップルが買っているのですけど、富裕層や国内外の投資マネー、そして節税を目的とする人々が大きな購買層となっています。

富裕層は非常に増えています。特に地方での経済発展により、戦後80年近くが経過する中で、多くの富裕層が誕生しています。こういった人たちが東京にも不動産を持ちたいと考え、土地を買うよりもマンションの方が流動性もあり管理も楽だという理由で購入しています。

また、国内外の投資マネーも流入しています。特に円安の影響で外国からの投資が増えており、金利が低くて円が安いことが魅力となっています。

それと高齢の富裕層が現金で持っているとそのまま相続税がかかりますが、マンションにしておくと評価額が大幅に下がるため、節税効果が大きいです。1億円のマンションが3000万円ぐらいに評価されるのですね。そのため、富裕層は現金を持たずにタワーマンションに投資して相続税対策をしています。

それにパワーカップルも背伸びをして都心のマンションを購入しているのですね。特に豊洲や武蔵小杉などのエリアが人気です。

しかし、ほとんど実際に住んでいる人は少なく、多くの部屋が地方の富裕層や外国人投資家によって所有されており、投資目的で購入されています。

(深田)

晴海フラッグについてはどうでしょうか。

(牧野)

晴海フラッグでは、NHKの調査によると、販売された住戸の4割が法人名義で購入されています。投資目的が大きいことが分かります。

(深田)

私の感覚からすると、ハルミフラッグとか、あんな不便なところに普通住みたいと思わない。

(牧野)

僕もですね、不便すぎてちょっと住むにはきついのかなって思うのですけど、多分ね、あまり住みたいと思っている人はいないのじゃないですかね。

ただ、あれは大体3割ぐらい安いと言われていましたので、当たり前ですけれども、抽選に当たるとその後転売すると大きな利益が出るだろうということで、転売屋が入っているのですよ。

それから、不動産は短期で売ってしまうと税率が高いのですけれども、5年過ぎると長期譲渡になって税率が低くなるのですね。これを狙って、この5年ぐらいは賃貸で運用しとこうか、5年経ったら売却しようという思惑の人もたくさんいて、いま晴海フラッグが大量に賃貸マーケットに出てきています。

(深田)

家賃はどれぐらいなのですか。

(牧野)

やはり安いですかね。あそこは比較的面積の大きな住戸が多いのですね。80平米とか90平米で、大体34~40万円ぐらいです。

あの立地で34~40万円払うと、少し面積は小さくなりますが、例えば小石川とか四谷とか、この辺で十分借りられますよね。

(深田)

ですよね。あの晴海フラッグも、私は車で移動しているのですけど、車がなかったらあそこは住みづらいと思うのですよね。あと買い物はどうするのだろうという、そんな場所にありますよね。

(牧野)

僕は実は育ちが中央区の築地なのですね。それなので晴海は小さい頃からもちろん知ってはいるのですけれども、そのせいかもしれませんが、住みたいと未だかつて一度も思ったことないですね。

あまりに殺風景な埋立地ですね。今はすごくいろんなものができているのですけど、それでも昔は隅田川を越えていくと石川島ハリマ重工業のいわゆるドッグや倉庫しかないようなエリアだったので、ここがタワマン街に化けたっていうのは非常に驚きなのですが、晴海フラッグっていうのはそのタワマン街のさらに向こうで、しかも海に完全に面しているので、海風や潮風を含めて天候の悪い時には相当厳しいエリアです。

(深田)

そうなのですね。本当に晴海フラッグにお住まいの方には申し訳ないですが、なかなか不便なところにあるなと思います。

(牧野)

売却益を狙って住むのはもちろん自由ですが、なかなか毎日の生活で、特に通勤しなければならない人にとって環境がいいかというと、ちょっと疑問があります。

(深田)そうですよね。ちょっと脇に逸れてしまいましたが、今後の地価の推移についてどう見ていらっしゃいますか。

(牧野)

地価は全体的には先日も路線価の発表がありましたけれども、全国的に住宅地も商業地も上がっています。それから最近の特徴としては、これは公示地価のデータですが、東京都区部で住宅地が約5%、商業地で7%ぐらい上がっています。名古屋や大阪も同様です。大阪はすごいですよね、商業地が9.4%。

一時期コロナの影響で大阪は随分下がりましたけど、万博の影響やインバウンドの需要がすごいので、これが地価の上昇につながっています。

三大都市圏が上がるのはなんとなく理解できますが、地方4市の福岡、仙台、札幌、広島の地価を見ると、住宅地も対前年で7%アップ、商業地も9.2%上がっていて、大阪に匹敵するくらい上がっています。

(深田)

この地方4市の住宅地需要は、どうしてこんなに強いのですか。

(牧野)

これはですね、俗に「コンパクト化」とか言われていますけれども、中国地方あるいは九州、東北、北海道の人たちが東京や大阪に出ず、それぞれの地方を代表する都会に集まってきています。特に去年のことですが、公示地価が発表されたときに話題になったのが、住宅地の値上がりベストランキングで、上位50位までを北海道が独占したのです。北海道全土から札幌の郊外にみんな家を求めて集まってきているのです。

人口が減って高齢化が進むと言われていますが、やはりより便利なところに住みたいという人や、都会に行くと仕事があるということで、昔は東京に出てきたのですが、今は日本の産業のほとんどが第3次産業ですよね。第3次産業は人口が100万人ぐらいいれば十分成り立つのです。

それなので、東京や大阪に行くと生活費が高いから、仙台や広島、福岡といった自分の地方の一番大きなところにみんなやってくるのです。

(深田)

そういうことになっているのですね。

(牧野)

そういった意味で地価が非常に上がっている所と、全く上がらないどころか、下がり続けているエリアもあって、明暗がはっきりとしてきたのが最近の傾向です。

僕はこれを「街間格差」や「エリア間格差」と呼んでいますが、全体の人口が減ってくるからといって全体の地価が落ちるわけではなく、住みやすい街や生活の質が高い街に人々が集まる傾向が強まっています。

(深田)

確かにそうかもしれないですよね。地方都市で便利なのに地価が意外と安いところ、穴場みたいなところがありますね。そういうところを狙って来るのでしょうね。

(牧野)

そうですね。それに、働き方も毎朝満員電車で通勤するスタイルの人もまだ主流ですが、そうでない人もたくさん出てきています。何も都心にいなければならない人ばかりではなくなってきています。僕なんかもそうですが、僕は湘南と都内の2拠点生活をしています。

(深田)

湘南では何をされているのですか。

(牧野)

海が好きなので、海で遊んでいます。

こういう風に生活の拠点をいくつかに分ける動きも、若い世代中心に随分広まってきていますので、これから郊外でも思わぬ人気の街が出てくるかもしれません。

また、郊外で特に昔通勤用に住宅が開発されたようなニュータウンの中では、オールド化して全く人が住まなくなるところも出てくると思います。

(深田)

二極化が進んでいるということですか。確かに、ニュータウン系のさびれ方はちょっと怖いですよね。

(牧野)

ニュータウンって住みたいですか。

(深田)いや、全然興味ないです。

(牧野)

家があるだけですから。

(深田)

そうですよね。マイホームを持つのが夢という人の夢を叶えてあげただけで、他に何も重要を満たしていないですよね。

(牧野)

昔は家が欲しい、つまり家があれば人生の目的が達成されたという感覚がありましたが、今はそういう時代ではないですね。

(深田)

確かにそう思います。特に首都圏、特に都内は住宅の価格やマンションの価格が上がっていて、私たちの世代からすると、こんな高いオクションを誰が買っているのか、周りの人に聞いても誰も買っていないので、これだけ高いマンションを買っている人は一体どういう人なのか、全然見えてこないですね。

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