#49― 深田萌絵×安藤裕 『持ち合い株強制解消で日本は弱体化する!』

(深田)

政治と経済の話を分かりやすく、政経プラットフォーム、ITビジネスアナリストの深田萌絵がお送りします。今回は前衆議院議員で税理士でもいらっしゃる安藤裕先生にご登壇いただきました。先生よろしくお願いします。

最近、政府による持ち合い株の解消が強制的に行われており、これが実は「日本経済にとって危機的なこと」ではないかと疑っているのですけれども、先生、いかがでしょうか。

(安藤)

長い間かけて、日本政府が「持ち合い株は悪いやつだ」「悪い事だ」と宣伝し、この政策を行ってきたので、国民の皆さんも「持ち合い株は日本の古い慣行で、日本型経営の最たるものだから、これを潰していくのは良いことだよね」と思っています。

(深田)

そうですよね。しかし、よく考えたら「持ち合い株の何が悪いのか」という根拠が薄弱ではありませんか。

(安藤)

思い込みみたいなものですよね。もちろん、良い面も悪い面もあるけれども「絶対悪」ではないことを説明していきたいと思います。

いわゆる企業同士で互いの株を持ち合っている株を、金融庁は「政策保有株」と呼びますが、「金融庁が進める株主資本主義」では、今までずっと「持ち合い株はどんどん潰してなくしていく」方向で改革が行われてきました。

「今度から金融庁が厳しくチェックするから、各銘柄ごとにちゃんと保有目的を明確にしろ」というルールになって、政策保有株を持つには、銘柄ごとに保有目的を具体的に記載しなければならないのです。

だから、ふわっとした目的では保有できなくなります。企業側が「政策目的ではなく、投資目的で持っています」と表面上振り替えていても、長い間持っていて売却する予定がないのならば、政策保有株を持っているのと同じように厳しくチェックされます。

「振り替えたのに3年も5年もずっと持っているやないか。お前、どういう事なのだ」と詰められます。6月過ぎて今度から、金融庁が保有株について詳しく書いてある有価証券報告書も全部チェックをするとのことです。

(深田)

「これは長期投資なのです」と言ってもダメなのですか。

(安藤)

「長期投資は要するに政策保有株です」となれば、長期投資と言っても無理でしょう。

(深田)

うーん、おかしいですね。

(安藤)

こんなの勝手ですよ。

(深田)

私も、買いっ放しの株はやはりありますよ。

(安藤)

そうでしょう。「買いっ放しで持っていたらダメな理由」がよく分かりません。

持ち合い株の解消は、バブル崩壊後の金融ビッグバンの橋本龍太郎政権以来、ずっと行われてきました。それに加えて、時価評価が導入されたり、四半期決算が入ったり、税効果会計が入ったりして、会計制度が変わってきました。

例えば、バブル崩壊後、株価が下がったので、時価評価が導入されただけで、企業ではマイナス利益みたいに出てきてしまい、持っているだけで損である感じになっていたので、「ちょっと今、危ないから売ってしまおう」というインセンティブが働いて、手放す企業も増えていきました。

また、「もの言う株主」や「なんとかファンド」が以前よりも出てきて、色々とものを言うようになってきました。どんどん放出していった持ち合い株を一体誰が買ったでしょうか。当然、外国人ですよね。

(深田)

そうですよね。

(安藤)

外国人株主が増加して、2022年度の末で上場企業の30%の株は外国人が持っている状況です。野村資本市場研究所がまとめた「株式持ち合い比率の時系列推移」によると、1990年頃は約35%が持ち合い株だったけれども、どんどん下がって、今は10%を切るところまで下がっています。

(深田)

かなり減っていますね。

(安藤)

かなり減っているのですよ。

(深田)

これにとどめを刺そうとしているのでしょうか。

(安藤)

「まだまだ持ち過ぎだろう」と言っていますね。

では、持ち合い株を持っていると何が起きるのでしょうか。まず、配当を強欲に求めない「安定配当」が挙げられます。例えば、僕の大学卒業後の勤め先である鉄道会社は、超保守的で当時は1割配当と言って、配当金が額面の1割でした。

(深田)

すごいですね。

(安藤)

今では額面はあまり気にしていないと思うのですけど、昔は50円の株が普通にあって、「1割にあたる5円、1株5円を配当する鉄則」に従って、「それ以上儲けても、一割だけでいいよ」「安定配当でいいよ」となっておりました。

次に、持ち合い株をお互いに持っていると、株主総会が荒れません。そして「お互いに、いらん事を言うのやめとこうぜ」と、経営方針には口出しをせず、経営陣とって株主対策にそれほど気を使わなくて良かった時代もありました。今もいるかも知れませんが、総会屋さんが結構いて、大変な総会対策もそれほどしなくて済む時代でした。

裏を返すと、馴れ合いや閉鎖的になったり、株主利益が最大化されなかったりする側面もあると思います。

では一方、持ち合い株を解消していくと、とにかく株主の力が強くなって、株主利益最大化を要求するようになります。そのために「利益を大きくしろ」「利益を大きくして、配当をもっと大きくしろ」「自己株を買うなりして株主に還元しろ」という圧力が強くなります。また、法人税減税や消費税増税を財界の圧力として要求するようになります。

(深田)

ああ、なるほど。

(安藤)

だから、株主利益の最大化のための低賃金化です。「とにかくコストカットしろ」「低賃金化、正社員を削減しろ」「取引先のコストカットをして、不採算部門は閉鎖したり売却したりしろ」と圧力がかかります。とにかく株主利益を最大にしなければいけなくなったのです。今までは従業員の賃上げで従業員に還元をしたり、「うち、あんまり儲けすぎてもなんだから、あんたのところも儲けていいよ。ちょっと値上げしたらどうや」と取引先の単価を上げたりする利益の分配ができなくなったのです。

(深田)

できなくなりますよね。

(安藤)

経営者が、とにかくコストカットして利益を上げて、配当を多くすることばかりやるようになるのです。経営者だけではなく、株主代表訴訟がやりやすくなるよう法改正され、経営者自身も、株主からの圧力をものすごく強く受けるようになったことも背景にあります。

外国人株主が増えてきておりますが、当然といえば当然だけれども、「日本人全体の幸せ」ではなく、「自分の持っている株で利益を上げること」のみを考えます。結果、日本人全体が利益を得ることよりも、会社の利益を最大化して配当を多くして、株価を上げることが企業の目的になってくるのです。これが橋本龍太郎政権の頃からずっと続いてきたことです。

もっと遡れば、「中曽根政権あたりから始まっているのではないか」とも言われています。

(深田)

私が小学校の時の首相ですね。子供の頃は、漫画を読んでいて、首相と言ったら、中曽根さんしか居なかったです。

(安藤)

僕が大学生の頃の首相が中曽根さんだったと思いますが、わりと好きな総理です。海軍の軍人さんで、戦前の空気を知っていた人だから、まだまともな方だったとは思うのです。

中曽根さんは「大統領型の首相」を目指していました。日本は、割と総理の力が弱くて、「大臣の中の筆頭」ぐらいの力しかなかったので、首相官邸の力を強くするために、そして大統領みたいな総理になるために、色んな改革をしてきました。それがずっと積み重なって、小泉純一郎政権で、小選挙区制をうまく使って、完全に権利権限を掌握した辺から、ずっと壊れてきた感じなのです。

そこで、ロナルド・ドーアさんの「幻滅」という面白い本があります。帯の文句が「親日家から嫌日家へ。」この著者は、元々日本が大好きだったのですが、「もうクッダラナイ改革ばかりやりやがって、コイツらなんなのだ」と、もう日本人が大嫌いになっているのです。

(深田)

そうなりますよね。「本当にくだらない改革を、この20年近くやってきて」と国民でも思いますもの。

(安藤)

そうなのですよ。でも、世の中一般で、名前の出ている人やテレビに出る人は「改革が足りない」とまだ言うではありませんか。

(深田)

そうですよね。「規制改革=私たちの損」で、外国人にばかり利益があると分からないのかと思いますけど。

(安藤)

例えば、そこでの「改革」は、自分たちの周りの上場企業の経営者や、ベンチャーから成功して上場して金持ちになった人だけがモデルになっているのですよね。

(深田)

だからその「成功した一部の人たち」ですよね。

(安藤)

だから、自民党の中でも、色々な経済界の人を呼んできて勉強会をやるのだけれども、呼ばれるのは大抵「ベンチャー企業から成功して、株を上場して金持ちになった」人ばかりで、「そういう風にならないとダメだよね。みんながそういう風にならないとダメだよね」と話をしているのです。そういう勉強会をずっと開いているのを見ていると、「ベンチャー企業の経営者の勉強会ならばそれでいいけれども、政治家がそんな話ばかりを聞いていてはダメだ」と思いますよ。

(深田)

そうですよ。26~7才の頃、日清紡の取材に行ったのですが、会長さんがとても素晴らしい方だったのです。当時アナリストとして、会長に「もう糸紡ぎをやめて、全部首を切りなさい。そうするとお宅は不採算部門がなくなって株価は2倍になりますよ」と言ったら、「戦後の苦しい時期を共に過ごしてきた人の首を切ることは、僕は絶対にやりません。最後の一人が退職するまで、僕は赤字になっても面倒を見ます!」と叱られました。なんだか帰り道に、「自分という人間が、どんなに浅い人間なのだ」と思って猛省していました。自民党の先生方にはそういう人の話を聞いてほしいものです。

(安藤)

そうそう、そうなのですよ。さきほどの話を続けると、城山三郎さんの小説「官僚たちの夏」を読んだことありますか。

当時の通産省の役人たちが、とにかく産業政策をしっかりやって国を盛り立てていこうとする話で、僕は大学生の頃に読みました。通産省OBである津上俊哉氏が「大学時代に、この城山さんの本に魅了されて通産省に入った」そうですが、その後通産省で過ごしていく中で、「官僚の介入のない、市場経済の方が優れていることが、当時の人には分からなかった」と、官僚の介入を全否定しており、官僚の考え方自体も変わってしまっているのです。

古い世代の最後の事務次官である北畠隆生氏が、今の日本経済を舌鋒鋭く追及しております。2008年の講演で、日本人が生産産業に興味を示さなくなって、株遊びの国民となったことを憂いて、デイトレーダーの愚かさを罵ったことが話題になったのです。北畠さんが「企業は株主のものか」という題で約2時間自説を展開した中で、デイトレーダーについて、「経営能力がないという意味ではばか、すぐに株を売るということで浮気者。無責任・有限責任で配当を要求する強欲な方」と発言したのです。当時はすごく批判されたらしいのですが、今の日本の問題をとても的確に表していると思います。

やはり物をちゃんと作る、物づくりの国として成り立っていくことが先進国としての地力であります。それをないがしろにしてしまうと、根なし草の如く、能力がなくて、供給が途絶えてしまったらすぐに潰れてしまう国になります。それこそ、コロナ禍でマスクも作れなかった国ですから、まさに現状、国力が弱っています。「短期で儲かるもの」を求めてしまっていることこそ、今の日本の国力を落としています。だからこのような古い世代の最後の事務次官に近しい考えをする官僚もいなくなってしまったのです。「とにかく民間に任せればいいのだ」という発想になってしまって、すごく弱ってきていると思いますね。

(深田)

そうですよね、民間に任せるどころか、国内の一般人や民間を締め上げて、グローバル企業や外資ばかり優遇する政策がずっと続いており、ここ数年でさらに強化されているので、もはや何もしてくれない方がいいです。

(安藤)

そうなのですよ。自民党政権は政策遂行能力があるので「もう改革はやめてくれ」「これなんとか食い止めないかん」ということなのですよね。深田さんがおっしゃった日清紡会長さんのような「経営者の意識」が分かる、あるコンサルタントと社長の一部応酬を紹介します。

コンサルタント「一番いいのは利益の上がっていない部分をまず整理するのだ。造船部分は売りなさい!」

経営者「とんでもない。造船部門は我が社の原点。とてもではないが売れない」

コンサルタント「圧延加工設備は閉鎖すべき」

経営者「作っているのはうちだけだから、止めたら国内の製鉄メーカーは困る。だから止められない」

コンサルタント「では、価格を上げたらどうか」

経営者「いろいろ取引があるから、足元を見るようなまねはできない」

このようなやりとりがあって、結局このコンサルタントの方がサジを投げた話です。やはり、こういう経営者さんの考え方でやっていかないと、「全部が豊かになって全部が安心して回るような世の中」が作れないのです。

(深田)

そうなのですよ。こういう考え方こそ、企業のコーポレート・レスポンシビリティだと思います。企業が社会的責任を果たすとは、自分たちの利益だけ最大化するのではなくて、サプライチェーンと社会に対して、「どれだけ自分たちが貢献できるか」考えることなのに、この責任という視点が抜けてしまいましたよね。

(安藤)

抜けてしまったのですね。「株主資本主義」への大きな転換の後、安定株主がいなくなって、「もの言う株主」ばかりに変わり、利益のみを追求していかざる得なくなって、今までやっていた不採算部門はやめるか、売るかしないといけないのです。それこそ、中曽根政権の頃から始めてきた「株主資本主義」を始めとする色んな改革がいかに間違っているかに気付き、その「哲学」を取り戻さないと、日本をまともな方向に向けるのは大変だと思うのですよね。

(深田)

15才の時に、社会関係のニュース、経済関係のニュースを色々見ていて、「哲学なき政治でこの国は滅びるな」と思いましたよ。

(安藤)

早いですねえ。

(深田)

ちょっと早熟だったかもしれないですけど。

(安藤)

その「哲学なし」といえば、僕が議員のときに、当時京都大学の教授の吉岡洋先生と知り合ったのですが、「今の政治の問題はイデオロギーの対決ではない。イデオロギーのある者と、イデオロギーのない者の対決だ」とすごく良いことを言っています。吉岡先生は、日本美学会の会長も務めていたそうで、今は定年で別の大学で教鞭を執っております。つまり「信念のない人」や「イデオロギーのない人」が強いという、ものすごく大変な状況になっています。

(深田)

そうですよね。イデオロギーや思想を持たず、利益だけ追求している人がトップに君臨できる今の社会構造のせいで、一般層の中小企業やその中小企業で働いている7割のサラリーマン達を全く考えない人達が社会のトップにいます。その人達にイデオロギーは確かにないですものね。

(安藤)

だから強いのですよ。イデオロギーがない人は本当に強いですよ。

(深田)

そう思います。でも、このトップにいる人たちが、一見イデオロギーを持っていそうで、右派に見えたり左派に見えたりするのですよね。

(安藤)

うん、そういうフリをしているだけですからね。

(深田)

演技派ですよね。

(安藤)

そうなのですよ。「哲学が損なわれた人たちがトップにいると、これほど国は壊れていくのだ」ということが、すごく分かりやすい形で今、日本では実現されていると思いますね。

(深田)

その「哲学無き政策」の一つが、持ち合い株解消です。これが強制されると、今後さらにどうなりますか。

(安藤)

もうとにかく「今だけ・金だけ・自分だけ」「短期の利益を追求する」風潮がさらに徹底されるでしょうね。

(深田)

そうですよね、国が強制的に持ち合い株を解消させて、売るように圧力をかければ、円安の安値で、外国から皆さん買いに来るでしょう。

(安藤)

そして長期投資ができなくなります。

(深田)

長期投資なくして株式投資なんてあるのか疑問なのですが。

(安藤)

デイトレーダーのように、とにかく短期で儲けて売り抜けるばかりになって、企業は長期の投資はできるだけやらず、企業の成長性も損なわれるでしょう。

(深田)

そうですよね。そうなってくるともう「安定的で長期的で持続的な成長」「サステナブル」というテーマからも外れてしまうと思いますね。

(安藤)

だから独創的な研究も何もできないでしょう。

(深田)

本当におっしゃる通りだと思います。10年ぐらい前から日本企業は、長期的な研究開発のお金がどんどん削られてきており、「自分たち、今後どうやって研究開発費をもらったらいいのだろうか」という状況にあります。自動車メーカーさんしかそのお金をくれない時代が、もう10年近く続いています。エレクトロニクス産業も半導体産業も弱体化してしまっていることを考えると、やはり「経営に対して長期的な視点で、長期的に安定した成長をしよう」と思うなら、持ち合い株を、一部はやはり認めていかなければいけないですし、「本当にダメだという悪い根拠もそこまで無かったのではないか」と言えます。

(安藤)

だから、「株を持っている、持っていない、なんて別に勝手にしたらいいですやん。なんで金融庁が口を出さないといけないの」という話ですよ。

(深田)

そうですよね、本当にその通りだと思います。今回は、前衆議院議員で税理士でもいらっしゃる安藤裕先生に「持ち合い株持っていて何が悪いのだ」についてご解説いただきました。先生どうもありがとうございました。

政経プラットフォームでは毎回様々なゲストをお招きし、大手メディアではなかなか得られない情報を皆様にお届けします。日本を変えるため、行動できる視聴者を生み出すというコンセプトで作られたこの番組では、皆様のご意見をお待ちしております。また番組支援は説明欄のリンクからお願い申し上げます。

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