No.46 深田萌絵×鈴木宣弘 『酪農の危機は政府が起こした』

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【目次】

  • 00:00 1. オープニング
  • 00:44 2. 輸入物価の高騰に苦しむ酪農
  • 03:08 3. 政策がまったく動かない
  • 06:05 4. 酪農家が自ら命を絶っている
  • 09:40 5. 他の国は政府が赤字を補填する
  • 12:56 6. 民主党政権で戸別所得補償制度を実施
  • 17:12 7. 安倍政権が廃止するもいま復活の兆し

(深田)

政治と経済の話を分かりやすく、政経プラットフォーム。ITビジネスアナリストの深田萌絵がお送りします。

今回は東京大学特任教授の鈴木宣弘先生にお越しいただき、酪農の危機についてお伺いします。最近、酪農を営まれている視聴者の方から「いま餌材などが本当に高騰しているのに政府からは全然助成もなくて経営が非常に厳しい」という声を頂いているのですが、その辺りを詳しく教えていただけますでしょうか。

(鈴木)

おっしゃる通り、本当に深刻な事態が改善していないのですよ。まず穀物がどんどん世界的に高騰したではないですか、トウモロコシとかね。日本の酪農はそういう輸入穀物に大きく依存していますが、その「餌穀物」の値段がもう、一昨年の2倍近くに上がってしまったわけですよ。

(深田)

2倍ですか!

(鈴木)

そうなのですよ、燃料なども5割高とかね。そういう状況でコストが本当にうなぎ昇りになってしまったけれども、売っている牛乳の値段とかはなかなか上げられない。そこで赤字が膨らむし、おっしゃるように政府からの補填も出てこない。

(深田)

牛乳の価格が上げられないって、これは何か仕組みがあるのですか?

(鈴木)

牛乳の価格はですね、年に一回、生産者団体・酪農家団体とメーカーが交渉して決めているのですよ。

(深田)

価格は自由ではないのですね?

(鈴木)

ええ、その時々にどんどん変わるものではないのですよ。一応、年間一定の価格で行きましょうという事で決めているものですから、急にコストが上がっても、それに即応して値段が上がるようには出来ていないのですね。だから年内にもう一回、特別に交渉して「臨時で上げようか」みたいな事をみんなで合意できればいいわけですけれども・・小売店側は牛乳を安売り商品の目玉みたいに位置づけているから当然、それは難しいよと言う。つまりメーカーさんが酪農家さんからの買い取り価格を上げてあげたくても、小売店が仕入れ値を上げてくれなければ、メーカーだって大変になるから、そう簡単には交渉が進まないわけですよね。

だからそういう時こそ、政府がもうちょっとしっかり動いて、赤字が膨らんでいる処をなんとか支援しないと。欧米だと、直接支払いでお金を払うような仕組みがあるのだけれど、日本はそもそも酪農についてそういう時システマティックにお金が出るような仕組みが無いのですよ。だからやるとすれば、緊急措置としてやるしかないわけですね。

ただ2008年の食料危機、餌危機の時にも同じような状態が起きましたが、あの当時はまだ政策が動いていた。酪農家さんがもうバタバタ倒産してきているというので、私がその時畜産の部会長、座長をやっていた農政審議会にですね、自民党と農林族中心に農水省、それから全中という農協の全国組織、これらトライアングルと呼ばれて大きな力を持っていた方々から、なんとかせよとの声が集まりました。当時はね、酪農の現場が苦しくなったら自民党・全中・農林省が動いて、とにかく現場を守るための政策をやらないといけないと判断すると、私の所に「審議会で議論してくれ」と来る仕組みができていたのです。

それでまず、チーズやバターや脱脂粉乳になる原料乳の「加工原料乳価」、これには北海道を中心に補給金という一時支援金が多少はあったけれども、基本額を、国の制度として今までは年一回しか改定しなかった基本額を、史上初の期中改定というのをやって底上げしたのです。

それから、飲む牛乳の「飲用乳価」も上げてあげないと府県の酪農が持たないというので、緊急措置で1円アップ、次2円とか財政負担で飲用乳価を補填する仕組みもやったのです。まず政策が、その時は動いたのです。政府の対応を元に「業界の皆さんも価格転嫁できるようにもう少し買取り乳価を上げてください」と促して、結果的にメーカー買取りの飲用乳価は20円ぐらい上げてもらうというルールになって、当時はなんとかやれたのですけれども・・今回はね、とにかく政策が全く動かないわけです。なんにも動かない。

(深田)

ロシアのウクライナ侵攻の後から穀物価格も上がるわ、肥料も入ってこないわ、色々な資材価格も上がるわで、農業だけでなく酪農家さんも悲鳴を上げている中で、なんにも政策的なものが出てこないのですか?

(鈴木)

そうです。餌とか燃料・肥料については断片的に少し補填する仕組みは作ったのですけれども、トータルとして赤字をきちんと支援するような仕組みが全く出て来なかったのです。何故かと言うと、要はね「余っているだろ」という事なのですよ。脱脂粉乳の在庫が余っているのだから価格など上げられないだろう、だから支援もしません、だから絞らなければいい、牛乳を絞るなと。牛を殺しなさいと。牛を殺したらその時はホルスタイン一頭あたり15万円払うから、全国で4万頭殺しなさいと、そういう政策を出してきているのです。

さらに北海道ではもう、牛乳を捨てて対応するような事までやる破目になっていて、結局支援は出ない、とにかく生産を減らすしかないだろうと、そっちへ酪農家を追い込む措置がとられてしまったのです。でも考えてみたら、牛は水道の蛇口じゃないのですからね、牛を今そんなに殺してしまったら、そのうち状況が逼迫してくるのは目に見えているではないですか。それなのに、なんとそういう措置をやってしまって、で結局ね、去年またバターが足りないとか言い始めたのですよ。

(深田)

そうですよね、言っていましたよね。

(鈴木)

でもね、酪農家さんには牛殺せって言ってしまって格好つかないから、牛は殺し続けろ、減産だと言い続けて、酪農家さんはそれで苦しんでいる。でもバターは足りないから、なんと輸入にした! 今こそね、酪農家さんに頑張ってもらって、増産してもらって、収入も上がるようにしなければいけないのに、逆にそれを減らせと言い続けて、輸入を増やしてしまっているというね、今やるべき事と逆の方向をやってしまって、現場を苦しめてしまっているのです。これね、2014年に遡るとその時もバターが足りないと大騒ぎした。

(深田)

ありましたよね、そういった時も。

(鈴木)

あの時にね、酪農家さんは政府から「借金してでも増産してくれ」と言われて、みんなクラスター事業という、事業に補助金も出るけどたくさんの借金をして、牛を2倍に増やすとかして、どんどん増産したのですよ。それでやっと軌道に乗ってきたら、今度は余ってきたという話になって「あー君ら、余ってきたからもう絞るな、牛殺せ。足りなきゃ輸入で流通回そうかね」みたいな話になってしまい、酪農家さんは結局、政府の方針で頑張ったのに借金だけが残ってしまったのです。

それで今何が起きているかというと、網走とか千葉とか、熊本の出産地で菊池という所がありますけどね、私の聞いている限りではその辺りで、もう何人もの方が自ら命を断たれている。借金がもう、酪農やめても返せないほど追い込まれた人たちが、そこまで来ている。

そんな窮状こそ本当は政府が支えなければいけないのに、酪農家さんに減らせだの増やせだの勝手な要求だけしてきた。でも牛はそんなに簡単に牛乳を増産したり減らしたりできるわけないのだから。

(深田)

できないですよね。

(鈴木)

そんな無理な要求をして、みんなそれに振り回されて疲弊して、借金だけが残ってみんなバタバタと減っていく、倒れていくという、こういう流れになってきてしまっているのではないか、というのが今の酪農危機の非常に深刻な事態ですよね。

(深田)

本当に予想以上にひどいですね。やはり基本的に「政府の方針に従うと国民が不幸になる」という仕組みがもう出来上がってきている中で、農業が一番の被害者だなと本当に思いますね。

(鈴木)

そうですね。本当になんとか政府に考えてもらいたいのは、他の国では政府がきちんと赤字の補填をするという事、それともう一つ、供給の方で無理矢理調整させるのは無理なのだから、むしろ出口ですよね、やはり財政出動して出口を作る事です。

コロナショックで在庫が増えたとか言いますけれど、他の国は違いますよ。いや食べたくても食べられない人が増えたのだから本当は足りていない、農家の皆さんはどんどん増産してくれと奨励している。それを政府が買い取って、こども食堂やフードバンクを通じてみんなに届ける、海外にだって困っている人はいるのだからそこにも届ける、内外の援助に使う事も含めて増産したものを、政府が受給調整機能の最終調整弁を持って、その出口をちゃんと作って、困っている消費者を助け、そしてそれによって農家も還元されるという施策をね、他の国ではやっているけれども、日本だけが、なぜかそういう出口を作る財政出動はしない。金がかかると。

その代りそれこそ「酪農家さんに命令して、やってもらえばいいじゃないか」みたいな議論になって、本当に困っている農村や酪農の現場に一番のしわ寄せが行ってしまう。脱脂粉乳の在庫がいくら増えても、政府はそれを他の国のように援助に使うとかして「出口を作る」事はしないどころか、なんとさらに酪農家さんにですよ、脱脂粉乳の在庫がたくさんあるから、余剰在庫の処理を酪農家さんにも負担させると言って、北海道だけで牛乳1kgあたり3円50銭の拠出金、総額350億円の負担金を、今潰れそうになっている酪農家さんに出せと言ったのですよ!

(深田)

すごくひどいですね!

(鈴木)

はい。どこまで現場にしわ寄せをしてしまうのかと、本当に今問われています。こんな事やっていたら本当にね・・既に98%の酪農家さんが赤字だと、もう2年ぐらい前から言われているのですよ。NHKの「おはよう日本」でも言ってくれたけれど「このまま行けばまず、お子さんに牛乳が飲ませられなくなりますよ、皆さんそれでもいいのですか?」という位の事態は間違いなく近づいています。だから本当に考えてもらいたいですね。

(深田)

そうですよね。ところで、政府が酪農家に対してちゃんと補助をしていかないとか、政策を出していかないという事に対して、政府内でちゃんとやっていこうと声を上げていく動きはないのですか。

(鈴木)

あります。一部の議員さんはそういう事をはっきりと自民党の中でも言っておられます。先日ですね、日本農業新聞の全国大会があった時に、石破茂先生が挨拶に立たれてこう言われました。

今農家が苦しんでいる、その赤字をしっかりと財政出動で埋める必要がある。消費者もこれ以上値段が上がったらなかなか苦しくなるから、そこは財政出動で農家の赤字を負担する事によって農家は継続できる、そして消費者は安く買い続けることができるから、そこで経済は循環して全てがうまく改善していくのだ。だから今こそ農家の所得を保障する仕組みを入れるべきである。

こう述べられたのです。これを聞いていた野党側の席から盛大な拍手が(笑)

(深田)

すごいですね、石破さんは、そう言うちゃんとした方だとは知らなかったです。

(鈴木)

いやいや、実はね、以前石破さんが農林水産大臣をやっていた当時、私が2008年に書いた本をバイブルのように読んでくださっていて、もう赤線引っ張ってしっかり読んでくださって、二人だけで話がしたいと。農水省の方も入らないでくれと。そこで石破さんは、私の書いた本に基づいてアメリカ型の、農家のコストと販売価格の赤字を100%補填する即払い制度という農業政策をやる、これを日本に入れたいと言ったのですよ。

その、言わば「石破即払い案」のようなものを、石破さんはちゃんと公表したんです。そうしたらその後の選挙で政権が民主党政権に代わってしまった。でも幸い民主党も「個別所得保障制度」という、赤字を補填する仕組みを考えていたのです。この時農水省は石破先生の所得保障案に基づいて、事務的にどういう風にするかという検討をもう始めていたのですね。だから政権が代わっても似たような仕組みがあると言う事で、結局石破先生の即払い制度案は、なんと民主党の個別所得保障制度に受け継がれるような形で実現したと、こういう裏事情があったのですよ。

ただ石破先生は突然そういう事を言われたのではなく、当時から私の本も読んで下さって、一緒に政策を考えたいと仰って、一生懸命やって下さっていたのですよ。そしてそれを今も、石破先生は忘れていなかった。ついこの間もしっかりとご発言いただいた後に「鈴木先生と前から言っていた話だよね、今日それをね、話したのだよ」という会話もしたのです。

まあ、民主党政権時の個別所得保障制度を、自民党としては党略でバラマキだと反対せざるを得なかったのだけれども、石破さん個人は、実はある意味あれに通ずるような仕組み、農家を財政出動で支援して、消費者も買えるようにして、それで経済がちゃんと需要を創出して回っていくような仕組みをしっかり考えておられたのです。今の財務省的な緊縮財政、大変だから増税して支出は減らす、みたいな事をやっていたら負のスパイラルになるだけですよね。

(深田)

そうですよね。その不足を保証する制度というもの、民主党政権になっても他の形では受け継がれたけれども、自民党政権に戻った今、それは機能しているのですか。

(鈴木)

それはもう廃止されました。

(深田)

廃止になったのですね。

(鈴木)

ええ、自民党政権がまた戻ったから。

(深田)

自民党政権なって、安倍政権に代わって廃止になった。

(鈴木)

そう廃止になった、ああいうケシカラン制度という事で。民主党政権がやった事は全て否定するというね、まあ自民党全体の方針もあったから、民主党の政策は変えていくのでなく「もう全部取り止め」という形で消えてしまったわけですよね。なので、そこをですねもう一度、ある意味、形を変えて、あの時の制度と同じような効力を有する仕組みを入れるという事を、誰がやってくれるかといえば、一番期待できるのが石破茂さん。

(深田)

石破茂さんだったということなのですね・・。今自民党内は裏金問題で支持率もかなり低下していて、次の内閣改造、いわゆるオールスター内閣の中に石破茂さんが入るかもしれないと言われていますよね。そうなってくると、すこしは酪農家さんとか農家さんに対しての政策も手厚くなるかもしれない、という期待ができるということなのですね。

(鈴木)

そうです。あとは自民党さんの中にも「積極財政議員連盟」という、今103人いる方々が、とにかく緊縮財政はやめて財政出動をしないといけないと頑張ってくれています。それで私も、彼らにこの話をさせてもらったらですね「そうだ、農業にこそ積極財政だ!」と。

(深田)

すばらしい!

(鈴木)

肥料の補填とか餌の補填という断片的なものじゃダメだと、もう抜本的に所得部分を支えなければいけない、そこが財政出動の目玉だと言ってくれているのです。だからそういう人たちも一緒になって、仮に自民党の中からでもそういう動きがあれば、今の野党でなくとも、農家や酪農家を支援する政策が取れる可能性はある。あるいは政界再編で、そういう思いを同じくする人たちがもう一度結集する事もあり得るかも知れません。

(深田)

いや今日はもう酪農危機の話で、この国の未来は暗いのかなと思ったのですけれども、最後にちょっと期待できるかもしれないという明るいお話もいただいて本当に安心しました。とはいえ安心しきらずに、今後政権がどのような農業政策を取っていくのか、きちんと注視していきたいところだと思います。

という事で今回も、東京大学特任教授の鈴木宣弘先生からお話をいただきました。先生ありがとうございました。

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