#36― 深田萌絵×田村秀男 『岸田政権の骨太方針は国民搾取』

(深田)

政治と経済の話を分かりやすく政経プラットフォーム、ITビジネスアナリスト深田萌絵がお送りします。今回は、岸田政権の骨太方針の財政健全化政策について産経新聞特別記者の田村秀男先生にお話をいただきます。先生よろしくお願いします

急にまた出てきました、骨太の財政健全化政策ということですが、先生、どうでしょう。

(田村)

骨太とはもっともらしく聞こえますが、要するに財務省が来年の予算編成をするためのガイドラインということです。事実上中身は財務省主導なのです。財務省は閣議決定されるこの骨太の方針、経済財政の基本ガイドラインみたいなものです。一応文言として盛り込まれたことに応じて、これから各役所、官庁からの予算要求をバシバシ削っていく。このための骨太の方針ということです。

今年が従来と違うのは、やはり岸田文男総理の支持率が低迷して、しかも秋に自民党総裁戦がありますよね。普通は、もう今年ぐらい、いや6月ぐらいに解散総選挙をやって、選挙で勝ちました。はい、私は続投しますとしたいのだけれど、いかんせん指示率が20%ギリギリぐらいと低迷しているわけです。よって岸田さんとしては、当然のように秋の総裁選を勝ち抜いて政権を続けたい。そのための起死回生策として、この骨太の方針で非常に斬新な政策を打ち出すと世の中がすごく明るくなりますよ、みたいなことを言って、それで支持率を上げたいのですね。今回一番の目玉は、どうも半導体になりそうです。

(深田)

半導体製作ということで、ラピタスの工場を2027年に稼働させますと先に打ち上げてしまったのですが、北海道は現在電力が足りなくて、最先端の半導体製造をするのに従来の10倍ぐらいの電力を消費するのです。

その何10万キロワットなどありませんよ、というのが電力会社側の反応なのですね。骨太という方針を打ち上げたものの、なかなか足元がおぼつかないのではと気になるところです。

(田村)

非常に気になりますが、本来は経済をいかに成長させるかという意味で、マクロの財政政策が非常に重要になるのですね。ところがこの半導体に関していえば、ラピタスやTSMCといったところに1000億円単位というのですか。

(深田)

何兆円です。

(田村)

何兆円か。このすごい額をボンボンと投げつける。これで本当に経済がよくなるのかという根本問題はどうしても疑問として残るわけですね。肝心な方はというか、財務官僚が一番目指したのは、来年2025年度はプライマリーバランスを黒字化させる。実際に財務省は非常に緊縮財政をやっていますから、このままだと黒字化をどうやら達成できそうなのですよ。ところが、財務省がタコ壺に入って自分の論理だけで考えていることで、国家国民のためにそれがなるのかというと、むしろ景気あるいは国内事業を冷やす方向に働きかねない。

(深田)

そうですよね。財政の健全化とは、国民からお金を絞り取って、国民が身の細る思いをす

ることですよね。

(田村)

平たく言えばその通りですね。要するに国民から絞り取って、国民に返さないのが財政健全化というものですね。

(深田)

国は骨太になって国民は痩せ細る、全然ありがたくない政策ですよ。

(田村)

だから国民がぬくぬくと太って、少し脂肪がつきはじめたなというのは、例えていうならインフレというものですね。では少しスリムになろうかということで、緊縮財政や増税というのは、ある程度は仕方がないのですよ。ところが今もコストがどんどん上がっているのに賃金も追いつかない、需要も追いつかないというデフレ圧力は依然として非常に強いのですよね。

(深田)

そうですよね。内閣が以前に発表したデフレ脱却の4要件。CPI消費者物価指数は2%達したけれども、需給ギャップもGDPデフレーターも実質賃金も全部マイナスというところは何も解決されていませんよ、というところですよね。

(田村)

 しかもデフレから脱却するということは、実質的な需要が連続してこれからも供給を超過していくという見通しができないとダメなのです。一過性の春闘賃上げが5%台で良かったねと言っていても、景気が細ったら、企業の経営者はないものは出せません、と再び賃上げを渋ってくるということも十分にありうるし、中小零細企業の方々も、製品価格に十分に転嫁できない場合は収益が圧迫されますから、まだまだ予断を許さない状況なのですね、この脱デフレ。政府というか財務省の方は早く脱デフレ宣言をしたいと前のめりになっているのですけれどね、さすがにあの岸田さんもまだ脱デフレ宣言をできないでいる状況なのですよ。

(深田)

一応岸田首相はその辺りの判断力は残っているということですね。

(田村)

あの人は非常に不思議な人で、あれほど財務省に篭絡されていて緊縮脳になっているようで、周りから岸田さんやっぱりこれダメじゃないですか、やはりあなたね、脱デフレをやらないといけないですよ。あ、やっぱりそうか、というので結局今言い続けているのは、脱デフレなのですよ。ならば緊縮財政をやってはいけませんよ。

(深田)

矛盾していますよね。金融政策の方はどうですか。

(田村)

金融政策がめちゃくちゃでしてね。いろいろ話を聞いてみると、昨年、植田和男日銀総裁になって今年3月19日の政策決定会合で大規模緩和解除となったのですが、そうすると日銀の幹部たちはみんなハイな気分になり、さあ利上げするぞ、利上げするぞと半分はしゃいでいるようですよ。また日銀は日銀のタコ壺に閉じこもっているの。自分たちの部落だけで利上げさえすればいいということであれば、誠に由々しきことなのですね。では利上げしてというムードになっているのはどうしてかというと、要する円安が止まらないから。円安が止まらないと、どうしても物価が上がってしまう。だから金利を上げて円安の進行を阻止するぞ、という意味で非常にハイな気分になっているのですね。ところが実際は大規模緩和解除など、植田さんが昨年4月に総裁就任して以降、利上げムードをいってきたのですが、そのために円安が進んでいるのですよね。逆効果なのです。

(深田)

なぜ逆効果になってしまうのですか。

(田村)

それは、もうあまりにも日米の金利差なるものが広がり過ぎていることが根底にはあります。しかし外国為替市場というのは本来投機の塊なのですよ。だから巨額のお金が日々動いていて、投機筋は金利の変動というものを見込めるようになると、今度はそれをうまく使って、最後は円売り投機を浴びせるというふうな仕掛けになっていますから、日銀は単純に利上げする、利上げすると言って、だからといって円売りが止まるわけではなく、逆にそれを刺激することもあり得るのですね。あまりにも日米の金利差が拡大していますから、今の状況で金利を上げる、上げると言っても、ろくなことがない。もう一つの問題は実態経済ですよね。例えば長期金利、つまり国債の標準になる国債金利がどんどん上昇していますよ。そうすると、住宅ローンを借りて、さあこれからマイホームだという若い勤労世代などがいろいろ迷惑を受けますね。住宅ローン金利がどんどん上がりますから。変動型の金利も上がりますから。だから何をいったい日銀は考えているのだと、本当に思わざるをえないですね。

(深田)

 アメリカの方は昨日雇用統計が出て、なかなか景気はまだ底堅いというところが出ているのですが、だからといってアメリカがここから利下げができるような雰囲気でもないとなると、円安はこの後一段進むのかという懸念もまだありますよね。

(田村)

金利差という考え方があるとすれば、金利差はそれほど縮まるはずはない。アメリカがどんどん利下げしなければいけない状況はどういうことかというと、 アメリカの景気がどんどん下がっていくという、こちらの方なのですよね。ところが、アメリカの需要の時合というのは実にまだ底堅いところがあって、FRBとしては油断しているともっと物価が上がるかもしれないという感じで見ているのでしょうね。 だからアメリカが金利を下げていく方向、つまりアメリカの需要がどんどん縮小していく局面に入るかどうかの話で、今はそうではないということですね。

(深田)

骨太の方針なのですが、プライマリーバランス黒字化を目指しつつ、日銀の金融政策は利上げをしたいという、この少し矛盾しているムードなのですよね。例えば長期金利が1%上がると、国債の利払い費が8兆円程度上昇するということで、そうするとプライマリーバランス黒字化がまたマイナスになるかもしれないよ、ということも言われているわけなのですが。

(田村)

だから財務省としては、ほら金利が上がっていますよ。だから国債の利払い負担が大きくなりますということを口実にして、だから緊縮財政をしなければいけない。だから歳出削減をして、場合によっては増税あるいは社会保険料の引き上げなど、こちらの方で国民の皆さんもっと負担しましょうね、という方にもっと行きたいわけですよ。日銀が大規模金融緩和を解除したら、国債の買上げもどんどん減らしていますから、 国債の金利が今じわじわと上昇しています。だから財務省の人たちは大変でしょう、こんなに金利負担がどんどん増えますよ。だからこの骨太の方針、つまり来年度の予算編成のためのガイドライン、その財政の健全化プライマリーバランスの黒字化を必ず達成しましょうねと、自分たちの目指す方向に誘導するために、金利の上昇をテコに使っているわけですよ。

(深田)

そういうことですか。

(田村)

ずるいですよね、これ。自分の省のために国民を犠牲にするのではないかと。極端な言い方をすればそういうことになりますね。

(深田)

そうですよね。プライマリーバランスの黒字化をしたいのは財務省だけで、国民は特にそれを望んでいるわけではない。

(田村)

そうですよ。国際比較するとよくわかります。プライマリーバランスをGDP比で見ると、日本はアメリカよりはるかに優等生なのですよ。イギリスよりも優等生で、日本より優等

生なのは先進国の中ではドイツだけですね。このように引き締めているのですよ。では日本の景気はいいかというと、最近のGDP速報値などで見るように、経済のパイは横ばいか下を向くという。依然として需要が生産能力を下回るという状況が続いている。

(深田)

結局今回の骨太方針は、プライマリーバランス黒字化のために国民負担を増やしましょう。そしてその一方でTSMCやラピタスみたいな外資と特定の企業にだけ何兆円もお金を出してあげましょう、というこの話に尽きるかなと思うのですが。

(田村)

そういうことですね。言いぐさは、とにかく今中国などとの競争の中で半導体の供給を自給しなければいけない。残念ながら日本の従来の半導体メーカー産業では供給不足になるわけで、急遽ご存知の通り、これは深田さんの専門分野みたいになりますね。TSMCを呼んできて政府が補助する。ええええ!という感じですね。

(深田)

これはね、本当にそうなのですよ。しかも今回TSMC第2工場に政府が7200億円出す決定をしたのですが、この第2工場の住所が分からないのですよ。地元のかたが、環境影響評価をしないのではないかということで第2工場の住所を尋ねたところ、非公開ですと言われたのですよ。熊本県が答えないので、私も経産省に対して某議員経由で住所を公開するように求めたところ、熊本県とTSMCの間で秘密保持契約をしているので、工場の住所は公開できません、という回答なのですよ。

(田村)

なんでですかね。いずれ分かることでしょう。

(深田)

いずれ分かりますよね。怖いのが、工場の住所すら国民に知らせてもらえないものに対して7000億円も国庫からお金を出すというこの感覚、すごいなと思うのですよ。

(田村)

これはもう完全にTSMCペースですね。確かにこの環境評価やそういったところをしっかりしなければいけないですから。今のうちにしっかり、どこに立地してどういうふうに作るかという情報公開は当然しなければいけないですね。何かやましいことでもあるのではないかと考えられますね。

(深田)

そうですよね。ですから地元の人たちも、これは環境影響評価逃れではないのかと、かなり皆さん疑いの目を。

(田村)

しかも公的資金というか我々の税金になる巨額の資金をそこに使うのですよ。それでTSMC社の言い分に従うというのは、これは一体どこの国だ!

(深田)

本当ですよね。7000億円も出して、住所すら分からないなんてこと、ありえないなと思います。

(田村)

 スキャンダルだな、これは。

(深田)

先生もお調べいただくと驚かれると思いますが、驚きのことばかりで、これが我が国の骨太の方針かと思うと。

(田村)

そう。だから岸田さん、一体あんたは何考えているのということなのですよ。脱デフレをやりたければ、きちんと今の需要不足を解消する。財政はプライマリーバランスなどという、国際基準にもならないようなものだけを目指して、自らをというか国民の生活というか、それを細らせるような、どういう政策に徹して、なおかつTSMCやラピタスなどが半導体の生産そのものは結構です。本来は民間のビジネスですからね。政府が全面的に税金を使ってサポートするというこの異常さですよ。ここに関してね、あなたどう説明しますかということですね。

(深田)

そうですよね。今回、田村先生から岸田政権の骨太の方針がいかに国民の身を削るのかということをご解説いただきました。視聴者の皆さんもしっかりと我が身を守るように考えていただければと思います。

今回も田村秀男先生ありがとうございました。

政経プラットフォームでは毎回様々なゲストをお招きし、大手メディアではなかなか得られない情報を皆様にお届けします。日本を変えるため行動できる視聴者を生み出す、というコンセプトで作られたこの番組では皆様のご意見をお待ちしております。また番組支援は説明欄のリンクからお願い申し上げます。

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