#38 深田萌絵×鈴木宣弘 『農業基本法改悪で日本は危機に!?』

1位 農業基本法改悪で日本は危機に!?

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【目次】

  • 00:00 1. オープニング
  • 00:33 2. 農業基本法改正で自給率は無視
  • 03:17 3. 有事になれば強制的に芋を作らせる
  • 05:42 4. 意味のない附帯決議でごまかす
  • 08:10 5. 食料輸入が止まれば都会は飢える
  • 11:43 6. 農家をつぶし大企業を参入させる
  • 13:01 7. 遺伝子組み換え表示を消す
  • 18:32 8. 権利の主張と自衛行動が必要

(深田)

政治と経済の話を分かりやすく、政経プラットフォーム、ITビジネスアナリストの深田萌絵がお送りします。

今回は東京大学特任教授の鈴木宣弘先生にお越しいただきました。先生よろしくお願いいたします。

最近、農業の憲法と呼ばれる農業基本法が改正されたのですけれども、これが新たな食料危機を生むのではないかという懸念についてお話いただきたいです。

(鈴木)

はい。おっしゃる通りで、食料安全保障を強化するはずが、逆に食料危機への備えが無くなってしまうことにならないかと思うのです。というのも今、世界情勢は非常に悪化していて、お金を出せばいつでも食料を買えるような時代ではなくなってきました。一方で国内の農業はコスト高で価格転化ができずに赤字が膨らんで、皆バタバタと倒れています。

そういう状況を、今こそ抜本的に改善して頑張っている農家を支えて、そして食料自給率を上げて、食料危機に耐えられるようにするのだと宣言するというのが、25年ぶりに憲法を変える意味だと思ったわけですが、逆に食料自給率はあまり重視すべき指標ではないと明確に打ち出したのです。

数ある指標のうちの1つに、ある意味格下げしましょうと、明らかに食料自給率はあまり言いたくないという状況になっています。

その背景に、今の農業農村はだんだん崩壊しつつあります。それはもうしょうがないのだという風な言い方をしているわけです。つまり農業を支えるための政策は十分やってきたと、これ以上何をやるのですかと。それもどう考えてもおかしいわけです。だって今コスト高で、みんな赤字でバタバタ倒れているのに。

政策は不十分だと、普通思うじゃないですか。だけどもう十分だ。この十分な政策の元で、潰れるならばある意味潰れる方が悪いでしょう。だからこれ以上は何もしませんので、どんどん日本の農業、農村崩壊してください。でもその中でごくわずかに生き延びるような人がいればその人が成長産業化すればいいし、あるいは大きな企業が入ってきて儲かる農業をやれればそれでいいじゃないか。だからそのための政策だけをやる。輸出進行でバラ色とか、スマート農業でバラ色とか、それから海外に農業生産増やしに行く投資をして、海外で農業生産しとけばいいとか。さらには企業が農業に入りやすいようにする制撤廃はしましょう。そういうことだけはやるから、わずかな人が残って生産を続ければいい。

それでは自給率はどんどん低下するのを容認することになります。

(深田)

そうですよね。大体今、台湾有事があるとか言われている中で、自給率を上げようみたいな話が出てきているという印象でした。

(鈴木)

実はそれは違っていたのです。それで台湾有事とか、有事にはちゃんと備えて有事立法だけは作ることで対応できると言っています。何を言っているかと言うと、今苦しんでバタバタ倒れている農家はもうこれ以上支えない。その代わり有事になったら有事立法をちゃんと作ってそれに基づいて慌てて命令するから、農家の皆さんはその時だけ指示に従って、花を育てている農家の皆さんも、カロリーを生むさつまいもとかを一斉に作物転換して増産して命令に従って供出しなさい。その命令に、増産計画に従わない 農家は処罰する。どうだ、これでいいだろうって。

(深田)

本当に鬼ですよね。さつまいもとかじゃがいもだけで補えるものですか。私が子どもの頃に小学校の実習で芋を植えたことがあるのですが、5月ぐらいに植えて夏に採って終わりじゃないですか。

(鈴木)

確かに。なぜかまさに戦地中みたいな話になっているわけで。とにかく芋が一番カロリーを生むから、農家の皆さんも全員芋を植えてください。一般の皆さんも、小学校の校庭に芋植えて、それから道路に盛り土して芋植えて、ゴルフ場にも芋植えて、三食芋で数年しのげばなんとかなる。これが食料安全保障だ、みたいな話になっています。

(深田)

本当ですか、それ?

(鈴木)

本当です。冗談ではないところが怖いのだけれど。それで今そう言っている前に、農家の皆さんは赤字で苦しんで、バタバタ減ってしまっているわけです。そこをちゃんと支えて、受給率を上げておけば、それで済む話をそれはやらないと。ただ有事になったら命令して、芋とかを植えさせて、それで処罰してでも作らせればいいだろうみたいな。できるわけがないだろうみたいなことに実はなっているのが、これが非常に不思議な話なのです。

(深田)

今回の農業基本法改正なのですが、改悪に対してかなり反対された議員さんたちが、付帯決議をたくさんつけたから、そこまでひどいことになることはないだろうとおっしゃっているのですけれども、その辺りどうなのでしょうか。

(鈴木)

そこが大きな問題なのです。今回13項目もの付帯決議がついた。そこはいい付帯決議が入っているから、そこでなんとかなるのではないかと期待をしている人たちが一般の方にもいるのですけども、それは全く逆です。付帯決議というのは、それを実行しないということを証明しているようなものだ。つまり付帯決議は、野党側としては一生懸命頑張って付帯決議でなんとか入れ込みましたからと言える部分があります。与党側もみんなの意見は聞きました。つまり双方にとって、ある意味アリバイ作りで頑張った証拠にはなります。参議院のホームページにも書いてありますが、付帯決議には何の法的効力はありません。政治的な意味合いだけですと、ちゃんと書いてあるのです。

(深田)

衝撃です。今回NTT法改正のところで付帯決議で結構有利な文言が入っていたので、ちょっと喜んだのですけれども。

(鈴木)

それは間違いです。そこで喜んでしまったら大間違いで、そこに書いちゃったってことは、やらないっていうことです。

(深田)

やらないってことなのですか。付帯決議は、法的な効力があるのかと思っていました。附則は法的効力があるけれども、付帯決議はない。

(鈴木)

そうです。みんなが頑張ったアリバイを残すためのものであって、そこはある意味政治的な意味合いはあるが、法的な意味合いに効力は全くないことなので、そこに時間をかけてみんなやるじゃないですか。あそこに何時間もかけて頑張ってなんとかやりましたと言っている時間も、私はもったいないと思います。そこに入れてしまったということは、書いたことで終わっているわけで、それは絶対やらないと。だって本体は、法的効力のあるものは、違う方向で決まっちゃっているわけです。それは付帯決議で何ともならないのです。

(深田)

今、恐ろしいことを聞いてしまいました。この改正案と有事立法を考えた政治家は、どなたですか。農林水産省がこれを考えているのですか。

(鈴木)

農林水産省は、実質的には経産省や財務省、日米のお友達企業、今だけ金だけ自分だけの企業が官邸に要請してきたことで、大体は決まってしまいます。それではやらされているだけ感が強くなっています。 農水省自体の本来の思いとは違うところで、動いている側面は大きいなとは思います。

(深田)

やっぱり省庁の中には、真面目にこの国の未来のことを考えている方は数多くいるのだけれども、上からの命令になかなか逆らえないというこの構図ですよね。

(鈴木)

まさに一つはそれで、企業が儲かればいい。利害関係のある大きな企業が儲かればいいという論理と、もう一つはお金を使わないで済むようにするということです。だから今頑張っている農家の皆さんを支えて自給率を上げようとすると、国費、税金がたくさん投入しなくてはいけなくなるから、それでは財務省は絶対だめだ。しかも非効率な人まで支えるようなことに金使うのがおかしいみたいな論理を展開して、食料自給率を上げるという論理には、財務省も非常に反対しているわけです。そういう声が一方であるから、食料受給率は上げるという話にはできないと。

だからいざという時だけ、そうやってみんなに命令して無理やり作らせるような非常にむちゃくちゃな話が出てきて、それからみんな潰れて農業が崩壊してでも、一部の企業だけが残って儲かればそれでいいじゃないか。食料受給率、国民の食料、そんなもん知るか。食の安全性がさらに蝕まれてもそれも知りません。

日本の農業、農村、田んぼがどんどん崩壊していき、地域コミュニティも崩壊して、伝統文化も崩壊。それから洪水を止めてくれるとか、そういう風ないろんな機能も失われて。つまり、農業、農村にはもう人は住めなくなる、それが今の流れじゃないか。無理してそんなところに人を住まわせること自体が、金の無駄である。そういうような発想を竹中平蔵さんが前からよく高知県の中山間地とか言って、なんでこんなところに無理して人が住むのか。そんなところに無理して人が住んで農業をやって税金使って行政もやらなきゃいけないのか。これを無駄と言うのだ。早く原野に戻せという風なことを日本中で言っていました。

しかしそれがいかに間違っているかは、コロナショックで分かったはずだと思ったのだけど、また農業の憲法まで改定して、日本の農業の崩壊を前提にして一部の人だけが儲かればいい。いざという時には東京とか都市部に、さらに集中した人たちが食料とか海外から止められたら、みんな一斉に餓死して日本が終わってしまうような、そのようないびつな日本にしても知りませんと本当に思っているのかということが、非常に疑問になっています。

(深田)

今回の農業基本法改正の前までは、ある程度農村が守られて、大手の大企業が入ってきにくいようなそういう立て付けになっていたわけですよね。それが今回改正されることによって、企業に対しては開かれたと。

(鈴木)

そういうことです。今まで農業をやる時には、農業法人の出資比率は農外資本の場合は半分未満でなければいけなかった。それが今度は3分の2まで広められて、企業が農業に参入しやすい条件は整えているわけです。だからそういうところを見ても、やはり企業が入ってきてやる分にはそれはいいでしょうと。極端に言えばITO大手の企業ビルゲイツさんたちとか今言っている農業の一つのスタイルは、農家の方は早くいなくなってもらっていいですよ。いなくなった後にドローンとセンサーをめぐらして、機械を自動制御して無人農場にして、それを投資家に売って儲けるのが一つの農業のスタイルだ、みたいなことを言っているわけです。まさにそのような人たちをある意味後押しするような流れはきちんと強化しているのです。

(深田)

国が推進している有機栽培農法をみて、有機栽培を進めていいことをやっているのかなと思ってよく見たら、遺伝子操作された種を使って、肥料はいるのだけれども農薬はいらないと。虫にすごく強くなる遺伝子操作された種で有機栽培をやるから、すごくオーガニックでいいですよと。そういう風なことを推進されていて驚きました。

(鈴木)

今、緑の食料システム戦略とかで有機農業を推進と確かに言っていますけども、おっしゃるようにそこにおかしなことがちょっと起こっています。要するに有機農業だから、これから科学農薬は使えませんという話になります。ところがモンサントを買収したバイエルが言っているのは、遺伝子操作農薬で儲けようという話です。遺伝子操作農薬は、有機農業にOKですよという話が一つ出てきて、それから遺伝子操作の種、特にゲノム編集とかをこれから日本は大体的に進めたいという話になっています。そうなってくると有機農業も推進しなくてはいけない、有機農業に遺伝子の種、これもOKにしとかないと続けられないよねという話になってきて、そういう議論が進んでいるというのは確かなのです。

(深田)

しかも最近消費者庁マターになると思うのですけれども、遺伝子組み換えは表記しなければいけなかったですよね。ただゲノム編集食品は表記しなくてもいいという、この謎ルールです。

(鈴木)

それも最近とにかく表示を色々なくして、リスクのあるとみんなが思っているものでも分からないようにして食べてもらうっていう流れが進んでいます。その一つがやはりゲノム編集です。ゲノム編集は、遺伝士を切り取っているだけで組み替えていないという、これもちょっと違うそうなのですけども、そういう理屈でアメリカ側からの要請で審査もするなと表示もするなということで、日本は野放しにしたわけです。さすがにゲノムトマトの販売会社さんも日本の皆さんも心配するだろうからということで、どうするかとやはり子どもたちから浸透させようという話で、今全国の小学校にゲノムトマトの苗を無償配布して、子どもたちが育てた美味しいゲノムトマトを給食、お家で食べようねと。いいじゃないか、これ日本の子どもたちを実験台にした新しいビジネスモデルかのように、国際セミナーでも発表しているという状況になってきています。

同じような話が、遺伝子組み換え食品についても表示の問題があります。遺伝子組み換えでない国産の大豆で作った豆腐ですよというようなNON-GMOの豆腐とかの表示が、去年から実質消えてしまいました。

(深田)

コンタミネーションの問題です。コンタミネーションというのは、遺伝子組み換えじゃない大豆の中に、ちょっとでも遺伝子組み換えが入っていたら、それは虚偽表記として告発するぞというみたいな流れになったのです。

(鈴木)

そうです。それが0.001%でもいう話になっちゃったから、そうすると大豆なんかは94%が輸入だから、流通段階での微量の購入は下げられないと。業者さんがそれでは俺怖いから無理という話で、どんどん撤退しました。だから日本の消費者の皆さんは、遺伝子組み替えてない食品を今までは表示で選ぶことができたけども、その権利もある意味奪われてきたということがどんどん一方で進んでいるわけです。

(深田)

こういう流れに対して、反対を表明しているような国会議員はいらっしゃるのですか。

(鈴木)

国会議員の皆さんも、前に農水大臣をやられていた山田正彦先生が呼びかけて、その表示の問題、表示がどんどん崩されてきている。わからないようにして食べさせられるような表示、こういうことをやはりやめさせるべきだということで、国会議員の皆さんにも呼びかけて今そういう動きを強めようというのはあります。そうしないと、ゲノム編集の表示も最初わからない、遺伝子組み換えでない表示ももうなくなってしまったし、それからコオロギとか。コオロギが粉末で入っているかどうかも表示しなくてもいいわけです。

無添加というような表示も厳密でないからできないような方向になってきています。日本ではそういう風な表示を曖昧にして、分からないようにして、みんながある意味値段でしか選んで買えないような状態を進めようとする動きがさらに強まっています。そこはアメリカとか行かれても違うと思います。向こうだと結構お店でこの食品同じ食品だけども、こちらにはこういうものが入っていて安いけれどもリスクがあるという意見もあると、あなたが選ぶのは自分で考えてくださいみたいな、そういう表示があったりします。

(深田)

そういう表示がされているし、あとは牛さんでもちゃんと放牧で幸せに育った牛さんですよとか。鳥でもそういうちゃんと放し飼いにして幸せに来た鳥さんですよと、ちゃんと表示されています。ポジティブな表示はちゃんとされています。

(鈴木)

そういう形で消費者が自分で選ぶような情報を、きちんと開示するのが欧米では結構やっているし、メディアでもそうだと思います。日本の多くのメディアとかお店は、できるだけ表示を曖昧に、あるいはなくしてみんなが選びにくくしてしまうような傾向が強まっています。ここは本当に、きちんと改善していかないといけないなと。

(深田)

本当にそう思います。私も仕事でよくアメリカに行くのですけれど、ここが権利意識のレベル感の違いというのが、自分たちの権利は自分たちで守らなきゃいけない、自分たちでちゃんと国に対して反対しなきゃいけないという、ここの意識はやはり日本人はちょっと弱いのかなと思います。

(鈴木)

そうです。まずその点をみんな意識改革してもらわないといけない。あとは自己防衛です。こうなってきたので、表示でなかなか選べなかったらどうするかといえば、信頼のネットワークづくりです。自分が信頼できる農家の皆さん、地域で頑張っている農家の皆さん、できるだけ身近なところで確認できる人たちと結びついて、表示がなくても本物を作ってくれている農家の皆さんとしっかり結びついて確認するネットワークです。あるいは自分も一緒に作りに行くぐらいの参加型のネットワーク作り、生産者と消費者が一体化するようなそういう風な仕組みを、自分たちの地域、地域でもっと作ることで、まさにローカル自給圏のようなイメージで、そういうものをまずみんなで自分たちの力で自分たちの地域と、自分たちの健康と子どもたちの未来を守るのだという、こういう風なことを自分たちもやると、それに対してはしっかり権利主張すべきは主張するということです。自分たちが自分たちでやれることを地域、地域でまずやるという、そういう風な動き、活動をやっぱり強化したいなと思います。

(深田)

素晴らしいと思います。やはり国民が一人一人自分たちの権利を守るために、国にも意見を 出しつつ、国の動きというのは遅いので並行して自分たちで自衛の活動をやっていくのは、本当に大事なことだと思います。やはり今回の農業基本法改正で、ますます私たち国民の食料の危機が迫っているということで、鈴木先生から具体的な対策についてお話をいただきました。鈴木先生、今回もありがとうございました。

6月23 日(日)14時からは、赤坂講演です。経済アナリストの森永康平先生の「積極財政で日本経済を成長できる」という名目でご講演いただきます。後半の方は、森永先生と深田萌絵のパネルディスカッションになっています。参加費3000円です。説明欄のリンクPeatixからお申し込みください。

政経プラットフォームでは、毎回様々なゲストをお招きし、大手メディアではなかなか得られない情報を皆様にお届けします。日本を変えるため、行動できる視聴者を生み出すというコンセプトで作られたこの番組では、皆様のご意見をお待ちしております。また番組支援は説明欄のリンクからお願い申し上げます。

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