#23ー 深田萌絵×森永康平 『緊縮財政、何故間違いか?』

(深田)

政治と経済の話を分かりやすく、政経プラットフォーム、ITビジネスアナリスト深田萌絵がお送りします。今回は経済アナリストの森永康平先生にお越しいただきました。先生よろしくお願いします。

この番組に、お父様の森永卓郎先生にも何度かご出演いただいて、視聴者の皆さんはザイム真理教の話題にたいへん興味をお持ちです。

今回は先生から、緊縮財政が日本の経済成長を苦しめていることについて、ご解説をいただきたいと思います。

(森永)

私はまだギリギリ30代なのですけれど、生きてきたこの30年間が、よく失われた30年と表現されているのです。政治とか経済の世界は、コメンテーターや評論家の方の平均年齢が、それこそうちの父親が今66歳ですから大体5、60代の方が非常に多いのですよね。

そうすると皆さんは私に対して、昔は良かったとか、バブルの時はこうだったという話をよくされます。その失われた30年しか知らないので、日本がダメになってしまったという印象は正直あまりないのです。もともと失われていると表現されているところしか知らない。

実際にその日本がダメになっていったという感覚がそこまでないので、本当に成長してないのか、かなり気になっています。IMFが1人あたりのGDPのデータをずっと出していますので、果たして30年間で本当にダメになったのか見てみようと思い、今日は資料を1枚用意してきました。

新興国を出してもしょうがないので、G7、先進国のみのデータです。ちょうど30年間1994年から2023年まで、通貨も合わせていますので、そういうものは一切関係ないものとして、1994年を100としてみると、一番下の黒い線が日本で、アメリカやイギリスなどに比べると、全く成長していないことは無いのですが、他の先進国に比べると成長していないのです。

(深田)

低成長です。

(森永)

そうですね。イタリアはそれほど経済は関係ない、「ラテンのノリで楽しくやっていれば良い」という雰囲気があります。一方、日夜問わずずっと働き詰めの印象のある日本がこんな状態になっています。

日本経済がなぜダメになったのか話をする時に、色んな論者の方が、“これ”が理由だとすることが多いと思います。分かってやっているのだろうと思うのですが、本当にリアルな議論をしようとすると、原因が一つであることはそれほど無いと思っています。

(深田)

複合的な要因ですよね。

(森永)

そうです。おそらく色んな理由があるのでしょうし、色々話していると時間が足りませんが、その中でも、どの要因が大きいのか、立てられる仮説の一つとして「日本人自体の能力が低いゆえに経済成長ができなかった」というのがあると思うのです。

(深田)

そういう論調はメディアでよく出てきますよね。

(森永)

これは仮説として出すのは自由だと思います。ただ、例えば日本の経済が戦後以降も、高度経済成長期があったと考えると、無能だから成長できないという仮説は、その時点で消されるのだろうと思います。

「それ以外の理由に何かあるのだろうか」これがまさに私の研究テーマなのです。経済がどのように成長していくのか考えると、我々は資本主義経済なので、結局そのお金、経済がどれほど大きくなったかが成長に当てはまります。

では、そのお金はどこから来るのだろうか考えてみると、一つはお金が作れる国なので、国がどれほどお金を作っているのかという話になります。

次に、そのデータとして、これは2001年からしかないので、先ほどと違って2001年からになるのですが、これはいわゆる政府の債務残高の推移を表したものです。よくメディアが国の借金という表現をするのですけども、個人的には正確ではない表現だと思っています。国が政府債務を積み上げていくのは、ある意味、貨幣を発行したことの証です。

これで見てみると、先ほどのGDPの成長の順位に近しいものがあって、今日本が一番お金を出してないことが分かります。先ほどのデータと照らし合わせてみると、おそらく日本はお金を出し渋ってしまい、成長できるタイミングであっても成長できなかったという仮説も立てられます。

(深田)

確かにどの企業も成長しようとする時は、自己資金だけでは投資ができないので借入れをしたり、株を発行して資金を調達したりして、設備投資に回していく形を取りますよね。

(森永)

まさにその通りで、結局自分のお金だけでやっていくのは結構限界があります。企業も借り入れをして、投資をして、大きくなっていきます。

国と企業で唯一違うところは、企業の場合、おっしゃる通り、株式市場から資金を調達したり、銀行から借入れをしたりしなければならないのですが、国の場合、自分で作ろうと思えばお金を作れます。無限に出せばいいとは全く思わないのですが、別に誰かに返さなければならないお金でもないので、必要なら出せば良いだけの話なのです。

しかし、日本の30年の論調を見ていると、家計簿や企業の感覚で、国の財政を話す人が非常に多いです。国がお金を出すと借金として表現しています。「返さなければいけない」「返すことは大変なことだから、そもそも最初から借りなければ良い」とお金を出さないでいた結果、政府債務残高が先ほど見た通りで、G7の中でも日本は一番伸びてないのです。結論として、成長をしていないのは、日本人の能力が低いからというより、財政政策が間違っているから成長していないからだと思っています。

父親がまさに「ザイム真理教」の中で、面白おかしく表現をして書いて注目を集めるのが好きなタイプなので、表現に良い悪いはあるかもしれませんが、彼が主張していることは、結構自分の考えとも一緒です。なぜ政策を考える人たちは非常に頭のいい人たちが揃っているはずなのに、そんなに残念な政策に落ちてしまうのか考えると、「実は財務省の人たちが工作員で日本を悪くしようとしている」と言う人もいますが、そこまで深い話でもないです。

(深田)

単に増税した方が出世できるからだと思います。

(森永)

財務省がそもそも置かれている理由は、財務省設置法により、国の財政の健全化をしなければならないと定められているからです。彼らは公務員ですから、当然法律に従わなければならないのですが、財政を健全化について財政法を読んでみると、基本的に赤字国債は出してはいけないと書いてあります。国債を出してはいけないと決まっているので、彼らは公務員として法に従っているだけです。

逆に言えば、法律の部分がおかしいのであれば、変えれば良いと思っています。ですが、どうやら結構色んな抵抗勢力おり難しいと政治家の方からも聞きます。こういう言論でずっとやってきた方たちや先輩方からもそういう話を聞くので、かなり闇が深いです。

(深田)

赤字国債を発行してはいけないという話がよく出るのですが、コロナの時は100兆円以上の国債を発行してコロナ予算を作り、今回防衛費を増やす時も、こちらに書いてある通り、4343億円分の建設国債を赤字で発行して調達しています。赤字国債の発行について、良し悪しの判断の基準が内閣政治家の胸三寸で決まるので、明確な基準なく赤字国債が発行されているように感じます。

(森永)

本来であれば、国債の発行基準は経済を見ながら決めるべきだと思いますし、経済の世界の中でも機能的財政論という考え方があって、日本の官僚や政治家の多くは、財政赤字だから国債発行してはいけないという発想です。例えば、財政黒字になれば、おそらく彼らの理論で言えば、国債を出して良いとなると思うのですが、それはおかしな話で、経済が悪くて今誰かがお金を出さなければならないのなら、財政赤字だろうが何だろうが出すべきです。逆に財政黒字の状態であっても、景気がすごく良くて回っているのだったら、むしろ増税したらいいのです。

その基準に財政が赤字か黒字かではなくて、目の前の経済環境でもって出すか出さないかを決めるべきです。にも関わらず、明確な基準がないので、財政赤字だから、これ以上国債を出してはいけないと言ってしまうのです。

コロナの時は世界的なパンデミックで、なかなか人類が頻繁に目にするような状態ではなかったので、彼らも「このタイミングで、財政赤字なので国債を出さないとすれば、暴動が起きるのではないか」程度の怖さがあったのでしょう。異例な事態として、先ほどご指摘あった通り、100兆円近い国債を発行し、彼らはおそらく今となってミスしたと思っているはずです。

例えば、何十兆百兆円とか出してしまうと、ハイパーインフレが起きるとか、1ドルが1000円や1万円の深刻な円安が起きるとか、国の信認が落ちるだとか、散々言っていました。結局コロナ禍でドバッと国債を出しましたが、ハイパーインフレは今でも起きていないですし、超円安も起きていません。

ここに来て最近、緊縮論者たちが、「積極財政派が金をばらまけと言うからそのせいで今、日本国民は円安やインフレで苦しんでいる」と言うのですが、彼らが言うハイパーインフレは年間1万%という話で、元々デフレだったのが今3%とか4%になっただけです。4%をハイパーインフレというのでしょうか。確かに今円安ですが、1ドル150円160円です。国の信認や円安について緊縮論者が言った程のものではなかったのに、議論をすり替えています。必死に「積極財政派の言う通りにしたら、国民が円安とインフレで苦しんでいる」と何度も言って、論点をずらし、議論の規模を矮小化しています。

さらに言うと、彼らは「国債を発行すると、国の信認が落ちてその国の通貨が暴落する」と散々言っていました。先ほどのグラフを見て、例えば彼らの言う通り「国債を発行しすぎると、その国の通貨は暴落する」のだとします。今円安なのですが、正確に話をすると、ドルに対して円安であり、円安が進んでいる、言い方を変えると、ドル高が進んでいるのですが、このグラフを見ていただくと、上から2本目の赤い線がアメリカなのです。アメリカの方が日本よりもはるかに債務残高が上回っているのです。彼らの理屈だと、債務残高を積めば積むほどその国の通貨の信認が落ちて下落すると言いますが、これをどのように説明するのでしょうか。

(深田)

その理論だと、アメリカやイギリスの方が通貨安になるところです。

(森永)

つまり円高ドル安になっていないと、その理屈はおかしいのです。実際には、アメリカの方は日本と違って、コロナも含めて、財政をバンバン拡大していったので、結果として、経済が強くなり高金利にも全然耐えられる状況に1、2年あるのです。高金利で経済も強いので通貨が買われていますが、逆に日本は未だにようやくデフレから脱却できた状態で、金利も低いので、その国の通貨を売りドルを買えば儲かるという話なのです。

コロナによって彼らがずっと使っていたレトリックが壊されてしまい、まさにコロナ禍の1、2年が致命的なものになったと思うのです。そろそろ気づいてほしいです。

(深田)

インフレが始まり円安になり、円安倒産も出てきているので、円安、円高が良いとか悪いではなく、急激な通貨の価値の変化が、中小企業の想定レートに対して動き過ぎて倒産しており、資金繰上の問題が出てきたと思っています。この急激な円安に何か対策しないと困ると思っていました。消費者物価指数(CPI)だけ見ると確かに、日本はインフレなのです。しかし、内閣が決めた、デフレ脱却の4要件、CPIが2%超え、受給ギャップ、GDPデフレーター、実質賃金がプラスというところで、この1番目以外は、2と3は弱く、4に至っては24ヶ月実質賃金がマイナスであり、経済的に全然強くない状態で物の値段だけ上がっているところです。これに対してどういう処方箋が考えられるのでしょうか?

(森永)

まず、今、日本は金利を上げようとしています。ドル円は、短期間で見たら、金利差で説明できるので、円安を止めたいだけならば、日銀が金利をドカンと上げて、アメリカとの金利差を閉じることで、一気に円安が収まるでしょう。上田日銀は黒田さんがやっていた異常な金融緩和をやめて、金利を上げようとしています。

今のインフレは、別に金利ではなく、例えばロシア・ウクライナ戦争などにより起きているインフレなので、国内の金利を上げたところで、インフレは収まらないのです。なので、もし円安のせいでインフレが起きているからと言って、円安を止めるために金利を上げてしまうと、金利上昇負担でさらに 日本国民が苦しくなるだけなのです。

短期的にやるべきことは何かと言えば、例えば減税や社会保険料の減免、給付金など、財政で国民の負担を減らしてあげましょう。中長期の財政では、食料自給率やエネルギーの自給率を上げるための投資をすべきです。完全に鎖国しろとは全然思っていないのですが、国内で自給できる状況になればなるほど海外のインフレ要因に関係なくなるのです。

(深田)

円安が進行し170円になると、輸入物価が13.5%上がる指標が先日日経に出ていましたが、自国で賄えたら、そこが緩和できます。

(森永)

なので今やるべきことは、どちらかと財政側にあるにも関わらず、先ほどお話した通り、財政は出したくないのです。財政を出さないで、このインフレを抑えたい気持ちだけが先に来るので、財政は出さずに上田日銀は金利を上げる話になっており、逆に日本の経済を傷つけてしまわないか懸念しています。

(深田)

今回は森永康平先生に「緊縮財政が日本を苦しめる」というテーマでお話を いただきました。先生ありがとうございました。政経プラットフォームでは、毎回様々なゲストをお招きし、大手メディアではなかなか得られない情報を皆様にお届けします。日本を変えるため行動ができる視聴者を生み出すというコンセプトで作られたこの番組では、皆様のご意見をお待ちしており ます。また番組支援は説明欄のリンクからお願い申し上げます。

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