#21 深田萌絵×加藤康子 『EV推進のアメリカでテスラに陰りが』

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【目次】

  • 00:00 1. オープニング
  • 00:38 2. ディーラーのEV(電気自動車)在庫が積みあがっている
  • 02:26 3. 気温の低下と電力事情がEVの弱点
  • 05:52 4. 中国との価格競争が激化
  • 08:36 5. テスラも車そのものでは利益を上げていない
  • 12:57 6. 自動車の基本は命を預ける乗り物
  • 16:54 7. テスラは10年後に自動車メーカーではなくなる?

(深田)

政治と経済の話を分かりやすく、政経プラットフォーム。ITビジネスアナリスト深田萌絵がお送りします。

今回は、産業遺産国民会議専務理事で元内閣官房参与の加藤康子さんにお越しいただきました。加藤先生よろしくお願いします。

今回は、EVをあれだけ推進してきたアメリカで、テスラの動向がやや陰ってきたというニュースが出始めているのですけれども、先生、その辺りを詳しく教えていただけますでしょうか。

(加藤)

そうですね、一時は飛ぶ鳥を落とす勢いだったテスラですけれど、いまアメリカの市場でEV車は大体、全体のマーケットの5.9%ぐらいなのです。そのうちの7割弱ぐらいがテスラです。だからもう圧倒的に、EVと言うとアメリカ人にとってみたらテスラなのですね。

(深田)

でもテスラって高級車ですよね。

(加藤)

そうですね。だからアーリーアダプターと言われる、そういうものにバッと飛びつく層は、もう大体一巡して買っていた、というところでしょう。

(深田)

意識高い系の皆さんですね。

(加藤)

そう意識高い系の、シリコンバレーに、カリフォルニアに居る、どちらかというと環境について関心があります、というところがね、大体一通り買われたのですね。

今どうなっているかと言えば、もう需要がもの凄く鈍化して、23年の11月にですね、アメリカのディーラー協会が実はバイデン大統領に陳情しました。どういう陳情をしたかと言うと、アメリカのディーラーは在庫を買わなければいけないのです。それで、その在庫の中でもEV車が余って仕方がない。もう積み上がってしまっている。だからこれ以上EVをプッシュしないでという陳情書をディーラー協会は出したのです。もうテスラもそういう状態です。

ちょうど今年のアメリカはご存知のように大寒波でした。もう大寒波で、シカゴも街が凍りつくような寒波の中で、テスラが充電できない。あのスーパーチャージャー(急速充電器)を前に、皆がテスラを投げ捨てて、充電できないで帰っていく光景が次々と現れてニュースになっています。

(深田)

やはり充電器そのものも冷たくなってしまうと充電ができないのですね。

(加藤)

充電できないですね、でもそれにも電気を使うではないですか。ですからひどい目にあった人達が沢山いてね。大体においてアメリカでは結構路上駐車が多い。路上で充電している。この前ニューヨークで、なぜEV車が流行らないのかと話題になり、EV車を好きな層が沢山いるのにも拘わらず、全然街にEV車を見かけないのですよ。それはやはりもうスーパーチャージャーだけでなく、その路上で充電をやっている人達も72時間とかずっと繋ぎっ放しにしていたりして、結構不便なのですよ。

(深田)

私もビジネスパートナーとシリコンバレーで会社を経営しているのですけれど、シリコンバレーに行くとですね。まず停電でそもそも信号すら点いていないという時があるのですよ。街中の信号の電気が全部消えている。それぐらいカリフォルニアは電力網とか発電量がすごく脆弱なのに、この中で、信号すら消えているような所で、EV車は少し無理ではないのかなと思いました(笑)。

(加藤)

だからね、テスラを購入するにも、三軒隣りまでテスラを持っていないという条件があり、そうでなかったら許可が下りないらしいのですよ。

(深田)

そうですよね、電力はね。

(加藤)

そう、電力の関係からね。カリフォルニアの電力事情が厳しいことは、この前トランプさんも演説で言っていましたね。「EV車はけしからん」みたいな話をミシガンの自動車部品メーカーのある工場街でですね、ダーッと人が集まる中で仰っていた中で「カリフォルニアは大変なことになっている」とも仰っていましたね。

(深田)

それはそうですよ、だってカリフォルニアは多分、州知事によってすごく太陽光パネルが推進されているエリアなのですよね。ただし、カリフォルニアで必要とされる電力を太陽光パネルで賄うには、カリフォルニア州の何倍もの土地が必要なのですよ(笑)それなので理論上無理なのです。

(加藤)

まあ太陽光は昼間しか発電しませんからね。夜はバックアップ電源が必要になってくるわけです。カリフォルニアは天気が悪い時が少ないのですけれど、それでも天気が悪い、雨が降る雪が降る時には発電をしない。そういう点では太陽光だけでは無理ですよね。

(深田)

そうやって飛ぶ鳥を落とす勢いだったテスラですら、今は陰ってきているのですけれども、その背景に中国との競争があったそうですね。

(加藤)

そうですね、価格競争が非常に中国で激しくなっていて、テスラの決算を見るとですね、「チャイナとチャイナ以外」という形で分けているのですよ。それでやはり圧倒的にチャイナのシェアは大きいのですね。そのチャイナのシェアが大きいところでもこの四半期、確か18%ぐらい売上が落ちているのですよ。どうしてかというと、BYDに負けているという事じゃないのですよ、BYDの物とも競合していますけれど、それ以上にどんどん新興メーカーが安売りの、ちょっと見かけだけカッコいいようなEV車を出してきていますから、そことの価格競争で相当しのぎを削っているのです。

(深田)

そうですよね、なんだかテスラの価格をかなり下げてきていますよね。

(加藤)

そうです。あまりにも業績が悪いので10%の人員を削減するのですけれどね。要するにトヨタの決算説明会では、あくまでもトヨタは車屋の作る、ソフトウェア・デファインド・ヴィークル(SDV)と言っても、まずは車を先に考える。でもテスラは車屋の作る車ではない。

(深田)

ソフトウェア屋の作る車なので、車がアップデートを始めたら勝手に動かなくなるとか、あとは少し何かあればもう運転ができなくなるとか、ソフトウェアがかなり強いのですね。

(加藤)

国交省に、テスラのどんなトラブルが一番問題ですかと聞いたら、全部パネルで制御されているではないですか、そうするとワイパーが出なくなったりする(笑)、あれがフリーズしたりね、そういうのが一番クレームとして多いようですよ。

(深田)

結局不便なのですよね。メカニカルな機構で動くものがあれば、スイッチを押したり、上げ下げするだけで動いたものが、そうではなくディスプレイでパネルを動かしていく時に、ではそこのページは何処にあるのだとか、そういった不便さがありますものね。

(加藤)

ですからね、資料を見たらテスラは自動車の需要に関しては今すごくマイナスですよね、13%とかです。四半期で18%とか、各マーケットにおいて「いずれもマイナス」ですから。だけどテスラの場合には他の所で利益を上げているのですよ。むしろ例えば太陽光の、さっき言った蓄電池とかね。それとか、それこそスーパーチャージャーとか、ああいう処で決算を見ると一応利益が上がっているようになっているのですね。

だから必ずしも車のメーカーというよりも他の、もうちょっと環境ビジネスみたいな、排出権取引とかね、ああいうので結局利益を上げていて、車そのものでは利益を上げていないという仕組みになっています。

(深田)

アメリカの中でも、結構テスラは苛められていますよね。

(加藤)

自動運転のところで今すごく訴訟が多くて、この前もなにか、崖から落っこちてしまったみたいな。

(深田)

怖!(笑)自動的に崖から落ちるのですか?!

(加藤)

車が落ちてしまった自動運転が、自動運転詐欺ではないかとかね。検察などからも相当、イーロン・マスクのプレゼンの仕方が本当に的確なのかどうなのかという形で相当バッシングを受けていますよね。

(深田)

そもそも、自動運転と言っていいレベルかと言うと、そうではないのですよね。オートパイロットと呼んではいけないものなのに、オートパイロットと呼んでいる。本当は運転補助なのですよ、運転補助のレベルのものを「自動的にあなたの代りに運転してくれます」という、車が自ら運転出来るかのようなイメージを推進した。これは女性目線で言うと、化粧品「これを使うと色が白くなって美人になります」みたいな、ちょっとその表示は問題があるのではないのでしょうかという注意が入るべき表現ですよね。

(加藤)

サイバートラックを見てどう思います?

(深田)

いや、欲しくないです。

(加藤)

あのサイバートラックね、3886台ですか、4000台近い、ほとんど出した車が全部リコールになっていましたけれど、アクセルペダルが踏んだら戻らないでしょう、そこが問題で全部回収されていましたけれどね。あのステンレスみたいなのが錆びるとか、色々と言われていましたけれど。イーロン・マスクは非常にビジョンはあって夢想家なのだけれど、それを具現化していく処にはものすごく天才的な才能はあると思いますけれど、どうでしょうかね。実用的な、やはり車が生活の一部というね、モビリティを支えるのは、やはりある面で言うと「暮しの一部」なのですよね。例えば日本で言うところの軽自動車とかね、多くの人たちは例えば農作業に使ったり、例えば園芸に、例えば植木屋さんなど欠かせなかったり、生活の一部、暮しの一部なのですね。それから例えばアメリカで言うところのピックアップトラックもそうですよね、ライトトラックと言う奴もね。ある面で言うとアメリカの暮しに根付いているものですけれど、テスラはひとつのこう、どちらかと言うとね、アーバンな、ヤッピーの、ちょっと所得の高い人の「夢を支える」ビークルだから、それほど元々マーケットがないと思いますね。

(深田)

そうなのですよね、だから少しお洒落な車であって、マスクさん自身はビジョナリーであって、フィージビリティ(実現可能性)とかではないのですよね。

(加藤)

ロボットタクシーか何かを今度メインにするのでしょう?

(深田)

はい、もう無理だと思います。

(加藤)

私も無理だと思います。

(深田)

カリフォルニアは、サンフランシスコの辺りではロボットタクシーみたいな自動運転の車のテスト走行が始まっています。アメリカはオレンジ色のコーンが進入禁止のマークなのですが、ロボットタクシーとか自動運転車反対の市民団体みたいなのが、自動運転、無人運転車を見つけると、そのオレンジコーンをフロントにポンと置いて、車が自動的にオレンジコーンを進入禁止と認識して動けなくなる。そのような運動をやっているのですよ。それなので路上で立ち往生している無人運転車が結構あると聞いています(笑)。

私も名古屋大学の先生と自動運転の画像認識の試験で色々意見を交換したのですが、その名古屋大学の先生がですね、自動車メーカーさんと試験した時に、車がどうしても進入禁止のマークと「天下一品」のマークの違いが分からない、だから天下一品を見たら止まってしまうのですという(笑)。この天下一品の壁を乗り越えられなかったのです。

(加藤)

なるほどなるほど。これからおそらく各社自動車メーカーは車産業からモビリティの新しい形を目指して、色々な産業の形態、それから構造を変えていくと、トヨタさんも決算説明会で仰っていましたけれどね。テスラがやろうとしていた夢・ビジョンみたいなものも一部取り入れながらね、おそらくそういうソフトウェアの開発などに大きく舵を切っていくのだろうと思います。でも、やはり、まずは「乗り物である」というところはね。

私達の命を預ける乗り物であり、それから我々の暮しや職場ですよね、職場を支えるものなわけですよ。そういう風な原点はもう忘れないでもらいたい。過度に装飾を沢山つけていくとどんどん値段は上がるわけですよ。必要のない、例えば車の中でプレイステーションをしたり、カラオケしたいかというと必要ないわけですよ、そういう機能はね。だからある面で言うと、やはり私たちが必要最小限でいいので、ちょっとプラスアルファみたいな形であれば、一番車の基本、乗りやすさを私などは重視したい。

イーロン・マスクは天才かもしれないけど、やはり言うことが少し飛びすぎていますよね、火星に移住するとか、ロボタクシーとかね。それはSFの夢をインベスターに与える点では「おお!」と思うような事を言ってくれはするけれど、会社の経営は、いい車を作ろうと思ったら、トヨタなど十年がかりで作ってきたわけですよ。今の会長がそれこそ赤字だったトヨタをここまでの企業にするのに十年かかっているわけですよ。だからその位のスパンで、車というのは作っていかなければいけないのではないかと思いますね。

(深田)

そうですよね。ここ十数年のIT企業家の傾向だったのですけれど、ファンディングする為にものすごいビッグビジョンを打ち上げるのですよ。で、技術的な検証が終わっていないものまで打ち上げて、金が入ってきたらそのあと研究者を雇えば何とかなるだろうという浅い考えの方も多いのです。

(加藤)

そう、だからローズタウン・モータース(Lordstown Motors)とか破綻してしまったしね、フィスカー(fisker)だって上場廃止になってしまったし、リヴィアン(Rivian)だって株は十分の一になってしまった。新興いずれももう厳しいではないですか。だから初期にはバーっと株価が上がっても結局持たないわけですよ。ところで深田さんは、テスラが、十年後も、今のテスラであると思います?

(深田)

無理ですね。理論上無理なのですよ。なぜかと言うと、化学電池は劣化するので交換しますよね、そのたびに1万ドル、100万円単位のお金が飛んでいくとか、あとは使っていくごとにだんだん電池が満タンに充電できなくなる、こういった化学電池であるが故の劣化という問題は絶対に解決できないのですよね。そういった事を加味すると、今アメリカでEV車を買った人にアンケート取ったら、50%以上が次はガソリン車を買いたいと言うわけですよ。

(加藤)

そうですよ、だって中古車のマーケットでもこの1年で、EV車の価格は28%ぐらい落ちたのですよね。

(深田)

中国ではEV車の墓場まで出来ているわけですよね。

(加藤)

そう、だから結局もうEV中古車にバリューがない。例えばトヨタの車だったら20年30年乗れるのですよ。例えば15年ぐらいで手放したとしても、その後中古車市場でまた10年15年乗れるような車を作っている。でもEV車は5年でね、もう使い物にならないような車なわけですね。テスラはEV車以外は出していないですから。だからBYDなどはね、EV車ではなかなか厳しいと今分かって、一生懸命PHV(プラグイン・ハイブリッドEV車)を出そうとしている。ではPHVと(普通の)ハイブリッドとどこが違うのかと言ったら、トラブルはPHVの方が多いわけです、圧倒的に故障率とかが。

(深田)

プラグイン・ハイブリッドの方が。

(加藤)

そう、プラグイン・ハイブリッドの方が多いわけですね。だからそういう点でも、まだまだ技術の進化の途中にあるわけなので、新しいものが好きでバッと飛びつく人達は、そういう点では「試運転」していると、彼らのケース・スタディの一部だという事に投資をしているわけなので、まぁ勇気がありますけれど、色々な事故のリスクも考えた上で投資をしてほしいと思いますね。

(深田)

そうですね。私はテスラが生き残るには、ビジネスの根幹の技術を転換していかないと今後は生き残れないだろうなと。

(加藤)

私はね、テスラは十年後、車やっていないかもしれないと思いますよ。

(深田)

車のバッテリーをフュエルセルに、燃料電池に切り替えて乗り越える以外にはおそらく道がないと思うのです。

(加藤)

テスラはね、ひょっとしたら蓄電池の会社になっているかもしれません。

(深田)

もともと蓄電池の会社で成功していますから、ただしこれも太陽光パネルのブームが終わった時に彼らの命運は尽きるのですよね。

そういう事を考えるとテスラさん、もう何のビジネスをやるのかと。技術から根本的に変えていかないと、私は少し難しいと思います。

(加藤)

あと、今10%の人員削減をしているでしょう。テスラのスーパーチャージャーが今世界的なEVの規格になろうとしているのですね。ところがそのスーパーチャージャーの人員を、どっと削減しているのですよ。これ以上スーパーチャージャーに投資しないという事ですね。「アメリカのEV市場はますます縮小する」という事を理解していただきたい。テスラの場合には解雇通知、日曜日に出したりするのです。そうすると社員がね、会社に行って社員証ヒュッとかざしたらね、月曜日にですよ、「あれ?俺の社員証通らないや」という事が実際に起こっているらしいです。

そのくらいバサバサ切られていますよ。だからEVマーケット、アメリカのEV市場は非常にお先が暗いという事も理解して、日本のメーカーは投資を調整して欲しいなと思います。

(深田)

日本の自動車メーカーでEV車に舵を切ろうとしているメーカーの皆さん、テスラの今後をよく見て、考え直していただきたいと思います。

今回も加藤康子先生にEV車と、そしてテスラの未来について語っていただきました。先生ありがとうございました。

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